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短い童話です。
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伝助は小学校三年生です。お母さんとお父さんと三人暮らしです。お父さんは、お仕事で家に帰って来られない日が多いです。だから、普段はお母さんと二人で過ごしています。
ある日、伝助はお母さんとスーパーへ買い物に行きました。空は赤色に染まり、はるか遠くに見える山の中に、お日さまが沈み始めたころでした。途中で、隣に住んでいるおばあさんに会いました。伝助はタタタッと近寄って行って、言いました。
「こんにちは、おばあさん。」
「こんにちは、伝助くん。今日も元気にあいさつしてくれて、えらいねえ。」
少し歩いたあと、伝助はついうっかり、水たまりに足を踏み入れてしまいました。少しまえ夕立で、どしゃ降りの雨が、少しの間ふったから、道路がぬれていたのです。水がはねて、そばを歩いていたおじさんに、かかってしまいました。
「おじさん、ごめんなさい。」
「ううん、だいじょうぷ。すぐにあやまることができて、えらいねえ。」
スーパーで買い物をすませて、お家に帰る途中で、伝助はお母さんに話しました。
「今日は算数のテストで、百点を取ったよ。そして、昼休みにやったサッカーで、ゴールを決めたんだ。」
「伝助は、勉強ができて、運動も上手で、あいさつもきちんとする。私の自慢の息子だね。大好きよ。」
伝助はうれしくなりました。でも、気になったことがあったので、聞いてみました。
「もしぼくが、勉強も運動もできなくて、あいさつもしなかったなら、お母さんはぼくのことを嫌いになるかな?」
「そんな子は、うちにはいりません。そうならないように、がんばりなさい。」
次の日に学校で、伝助は裏庭のフェンスの近くであそんでいました。ここは、フェンスの外側が地面まで五メートルくらいあり、落ちたら危ないので、立ち入り禁止になっているところです。伝助は、それをわかっていながら、よくここであそんでいました。フェンスの外を見下ろすのが、スリル満点だったからです。先生たちは、ここにはあまり来ないので、おこられることもありませんでした。
伝助は、その日、足を滑らせてフェンスの外に落ちてしまい、大けがをしました。足の骨が複雑に折れてしまい、もう歩くことができなくなりました。そのうえ、お母さんや先生たちから、さんざんしかられて、完全に元気をなくしてしまいました。あいさつもしなくなりました。勉強もやる気がなくなりました。
退院して、車いすで学校に行くようになりました。家に帰ると、自分の部屋に一人でいることが多くなりました。「勉強も運動もあいさつもできなくなったぼくを、お母さんは嫌いになったに違いない」と思うと、これまでのようにお母さんに話しかけることができませんでした。
ある夜、伝助が布団に入り、なかなか寝付けなかったとき、居間からお母さんとお父さんの話し声が聞こえてきました。
「わたし、あの子が車いすになってから、毎日学校の送り迎えしているのよ。とても大変なんだから、あなたも何か家のことを手伝ってよ。」
「おれは、仕事がいそがしいからな。いままで、伝助の面倒を楽しそうに見ていたじゃないか。あの子のことを嫌いになったのか?」
「嫌いになったのかも知れない。隠れて立ち入り禁止の場所であそんでいたし、勉強も運動もあいさつもできなくなったし、前みたいに私に話しかけることもなくなったし。」
それを聞いて、伝助はとてもかなしくなりました。お家を出て、どこかに行ってしまおうと思いました。そこで、ソーッと音を立てずに玄関まで行き、かぎをゆっくり開けて、家の外に出ました。両目とも涙でいっぱいでした。いきおいよく道に出たところで、まるで昼間のような明るさと、耳がさけるような大きな音に気付きました。そのとき、何かに突き飛ばされて、伝助は家の塀に体をぶつけました。
何が起こったか、わかりません。目の前には灯りを付けた大きなトラックと、血だらけでけがをしたお母さん。家から飛び出してきて、あぜんとしているお父さんが見えます。少し考えて、伝助は分かりました。トラックにひかれそうな自分をお母さんが助けてくれたのだと。伝助はお母さんに近寄りました。
「お母さん、どうして? ぼくのことを嫌いになったんじゃなかったの?」
お母さんは、口を開くのもやっとでした。でも、声をふりしぼって言いました。
「うん…体が勝手に動いていたの。あんたは、私の子だから。どうしても守りたかった。大好きよ…。」
そのまま、お母さんは目をつぶり、力が抜けて、首がガクンと落ちました。
「お母さん、死んじゃいやだ!」
伝助は、うれしさとかなしさの混ざった大きな気持ちを感じて、大声で泣きました。そして、そのまま力尽きて、気を失いました。
伝助が目を覚ますと、お母さんとお父さんが、こっちを見つめていました。おでこの辺りが冷たくて気持ちよい感じがしました。
「目を覚ましたか。よかった。」
「あれ? お母さんがいる。元気なの?」
「元気よ。悪い夢を見ていたのね。ずいぶん、うなされていたから。もう、大丈夫よ。」
伝助は、どっちが夢なのか分からなくなったので、舌を歯で強くかんでみました。
「痛くてよかった。こっちが現実だ。」と思いました。
伝助は熱が出て、部屋で寝ていたことを思い出しました。
「治ったら、勉強も運動もがんばろう。あいさつもきちんとしよう。」
そう思いました。
ある日、伝助はお母さんとスーパーへ買い物に行きました。空は赤色に染まり、はるか遠くに見える山の中に、お日さまが沈み始めたころでした。途中で、隣に住んでいるおばあさんに会いました。伝助はタタタッと近寄って行って、言いました。
「こんにちは、おばあさん。」
「こんにちは、伝助くん。今日も元気にあいさつしてくれて、えらいねえ。」
少し歩いたあと、伝助はついうっかり、水たまりに足を踏み入れてしまいました。少しまえ夕立で、どしゃ降りの雨が、少しの間ふったから、道路がぬれていたのです。水がはねて、そばを歩いていたおじさんに、かかってしまいました。
「おじさん、ごめんなさい。」
「ううん、だいじょうぷ。すぐにあやまることができて、えらいねえ。」
スーパーで買い物をすませて、お家に帰る途中で、伝助はお母さんに話しました。
「今日は算数のテストで、百点を取ったよ。そして、昼休みにやったサッカーで、ゴールを決めたんだ。」
「伝助は、勉強ができて、運動も上手で、あいさつもきちんとする。私の自慢の息子だね。大好きよ。」
伝助はうれしくなりました。でも、気になったことがあったので、聞いてみました。
「もしぼくが、勉強も運動もできなくて、あいさつもしなかったなら、お母さんはぼくのことを嫌いになるかな?」
「そんな子は、うちにはいりません。そうならないように、がんばりなさい。」
次の日に学校で、伝助は裏庭のフェンスの近くであそんでいました。ここは、フェンスの外側が地面まで五メートルくらいあり、落ちたら危ないので、立ち入り禁止になっているところです。伝助は、それをわかっていながら、よくここであそんでいました。フェンスの外を見下ろすのが、スリル満点だったからです。先生たちは、ここにはあまり来ないので、おこられることもありませんでした。
伝助は、その日、足を滑らせてフェンスの外に落ちてしまい、大けがをしました。足の骨が複雑に折れてしまい、もう歩くことができなくなりました。そのうえ、お母さんや先生たちから、さんざんしかられて、完全に元気をなくしてしまいました。あいさつもしなくなりました。勉強もやる気がなくなりました。
退院して、車いすで学校に行くようになりました。家に帰ると、自分の部屋に一人でいることが多くなりました。「勉強も運動もあいさつもできなくなったぼくを、お母さんは嫌いになったに違いない」と思うと、これまでのようにお母さんに話しかけることができませんでした。
ある夜、伝助が布団に入り、なかなか寝付けなかったとき、居間からお母さんとお父さんの話し声が聞こえてきました。
「わたし、あの子が車いすになってから、毎日学校の送り迎えしているのよ。とても大変なんだから、あなたも何か家のことを手伝ってよ。」
「おれは、仕事がいそがしいからな。いままで、伝助の面倒を楽しそうに見ていたじゃないか。あの子のことを嫌いになったのか?」
「嫌いになったのかも知れない。隠れて立ち入り禁止の場所であそんでいたし、勉強も運動もあいさつもできなくなったし、前みたいに私に話しかけることもなくなったし。」
それを聞いて、伝助はとてもかなしくなりました。お家を出て、どこかに行ってしまおうと思いました。そこで、ソーッと音を立てずに玄関まで行き、かぎをゆっくり開けて、家の外に出ました。両目とも涙でいっぱいでした。いきおいよく道に出たところで、まるで昼間のような明るさと、耳がさけるような大きな音に気付きました。そのとき、何かに突き飛ばされて、伝助は家の塀に体をぶつけました。
何が起こったか、わかりません。目の前には灯りを付けた大きなトラックと、血だらけでけがをしたお母さん。家から飛び出してきて、あぜんとしているお父さんが見えます。少し考えて、伝助は分かりました。トラックにひかれそうな自分をお母さんが助けてくれたのだと。伝助はお母さんに近寄りました。
「お母さん、どうして? ぼくのことを嫌いになったんじゃなかったの?」
お母さんは、口を開くのもやっとでした。でも、声をふりしぼって言いました。
「うん…体が勝手に動いていたの。あんたは、私の子だから。どうしても守りたかった。大好きよ…。」
そのまま、お母さんは目をつぶり、力が抜けて、首がガクンと落ちました。
「お母さん、死んじゃいやだ!」
伝助は、うれしさとかなしさの混ざった大きな気持ちを感じて、大声で泣きました。そして、そのまま力尽きて、気を失いました。
伝助が目を覚ますと、お母さんとお父さんが、こっちを見つめていました。おでこの辺りが冷たくて気持ちよい感じがしました。
「目を覚ましたか。よかった。」
「あれ? お母さんがいる。元気なの?」
「元気よ。悪い夢を見ていたのね。ずいぶん、うなされていたから。もう、大丈夫よ。」
伝助は、どっちが夢なのか分からなくなったので、舌を歯で強くかんでみました。
「痛くてよかった。こっちが現実だ。」と思いました。
伝助は熱が出て、部屋で寝ていたことを思い出しました。
「治ったら、勉強も運動もがんばろう。あいさつもきちんとしよう。」
そう思いました。
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