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第二章 【問題解決三種の神器】金、暴力、〇〇

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「リー君、お久しぶりです」

 メイドエルフの言葉で、俺は我に帰る。そうか夢じゃなかったのか……。

「……その呼び方は辞めてくれないかしら。あらぬ誤解を生むわ」

 見ると、何故かリアムもくらっている。何のダメージ……? とにかく表情が歪んでいるのだ。

 あとどうでも良いけど「リー君」ってやっぱリアムのことらしいね。

「承知しましたわ。それでは何とお呼びすれば良いでしょうか」

 察するに、主従関係なのだ。故にメイド服なのだ。分かったのはそれだけだ。

「リアム、そう呼んでくれれば構わないわ」

「ではそうさせて頂きます。リアム様」

 互いの距離を確かめ合う様なむず痒いやり取り。

───場違いじゃん、俺。
 気まずい。

「リアム様と一緒にいらっしゃるという事は、もしかしてそちらの方が?」

「やぁ……久しぶり?」

───この場合、どの挨拶が正解なんだろう。いやそれよりも……
 少女は今日初めて俺を視界に入れたがその視線はやや険しい。

───待って、あの一件、どう考えても被害者は俺だからね?
 あらぬ誤解を抱かれている。そんな気がしてならない。

「紹介しておくわね。夫のシュートよ」

「どうも」

 夫……まぁそうか夫か……。

 俺達は戸籍上の夫婦だから、旦那役の俺はリアムからすれば間違いなく夫だ。でも言葉にするのはちょっと恥ずかしい。

「なるほど、その方がリアム様の旦那様の……」

「はい、そうです」

「ゴミですね」

「いいえ、違います」

「今覚えましたわ」

───その派手な耳は飾りか?
 顔には「覚える気は無い」とはっきり書いてあるね、良い度胸だ。

「まぁ、似た様なものね」

「納得しないで下さい、全然違います」

 それは約束が違う。俺はペットだったはず。これは契約不履行だ……いや待て履行されても困るんだった。

「それで、本日は何用でいらしたのですか?」

 少女は本題を促す。俺はゴミって事で方が付いたのかな? 異文化交流って共通言語を作って距離を縮めていくのが大ゴミだよね。

「……あなたはこの薬屋で働いているの?」

「はい」

「そう」

 リアムは薬屋の外観を眺める。

「立派な店ね」

「恐縮ですわ。実は先日、建て替えたばかりですの」

 やたら豪奢な店構え。当然、ルーニアの城とは比べ物にならないが、イメージする薬屋の外観とギャップがあった。

「何だか最近、売れ行きが良いのですよ……薬が売れる事が良い事か悪い事かは判断しかねますが、ありがたい事には違いありませんわね」

 考えるまでもなく、彼女の客引き効果だろう。

「先日は、隣町の病院の処方箋を持った方もいらっしゃいましたわ」

 彼女の詐欺行為の“被害者エモノ”。結構多いみたい。

「繁盛しているのね」

「えぇ。今朝いらしたご老人は随分と若返っておられました。冒険者として現役復帰されるみたいですわ」

 大丈夫? 合法の薬だよね?

「そう。あなたの薬があれば医者要らずだものね」

 言われて見上げると、隣に建つ病院が傾いて見えた。恐ろしい話だ。

「過分なお言葉ですわ。薬師には薬師の、医者には医者の領域がございます。なんでも、お隣の医者は“ゴッドハンド”などと呼ばれており、治せない病は無いとか……」

「そう……でも所詮は噂よ。あまり人間の大言壮語に惑わされないようにね」

「はい……ご指導頂き、感謝申し上げます」

 主従関係っていうかもはや宗教染みてるな……教祖と信者みたいな。あれ、もしかして君も戦闘教の人?

「……話し込んでしまったわね。僕達この後仕事に行くの。回復薬をくれるかしら」

「承知しましたわ。少しお待ち下さいね、すぐに準備致しますわ」

 短いやり取りの後、少女が用意した回復薬を買い取った。

「ありがとう。それじゃあね」

「リアム様」

 歩き出したリアムを少女は呼び止める。

「お気を付け下さい。この街では物騒な話も多く聞きます。ゴロツキが増えているとか、通り魔が出ただとか」

「そう、忠告ありがとうね」

 異世界一不要な忠告じゃないかな。寧ろゴロツキや通り魔に「リアムには手を出すな」って忠告すべきだと思うよ俺はね。

「それともう一つ」

「何かしら?」

 まだ用があるらしく、少女は口を開く。その視線は俺に向けられていた。

「紹介された患者は無事回復致しましたわ」

「……そうなんだ、ありがとね」

「いえ、礼には及びませんわ。こちらこそ、大口の取引相手の紹介、感謝致します」

 言って、少女は頭を下げる。

「うん。それじゃ」

───存外、律儀な子なんだ。
 そんな事を思いながら、薬屋を後にした俺達はギルドへと向かった。

「あなた、彼女と知り合いだったのね」

「まぁね、色々あったんだよ」

「そう……もしかして、彼女があなたの言ってた“薬の妖精”?」

「うん。そうだよ」

 リアムの質問。引っ掛かる言い方だな……まぁ良いけど。

「君こそ、この街にエルフの知り合いなんか居たんだね」

「えぇ……まさか彼女がこの街に居るだなんて思っていなかったけどね」

「ふーん……香ばしいね」

「……何が?」

『そもそも人の街に来るエルフが少ないにゃあ』
 厄介なトラブルの香り。

「……ん? おい! 待て!」

「なんだ? ……げっ」

 人通りの多い街道で、すれ違った人物に呼び止められた。

 声に反射的に反応した俺は振り返って、そして後悔した。そこに居たのは筋骨隆々で小柄な男。下卑た笑みを浮かべるその人物は、街の荒くれ者だった。

「雑用じゃねぇか! お前こんなとこで何してる?」
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