精霊王の番

為世

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第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢

第49話

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「さぁて、どっから手ぇ出したもんかな」

 カルロは眼前の獣の群れに対し、やや放心気味に呟く。

「まずは前線の雑魚を止めて肉の壁を作る。 群れの動きを堰き止めたら、後ろはまとめて始末する」
「グッドアイデアだな。 雑過ぎる点を除けば」
「雑過ぎますよ……。 僕達に村の人達の未来が掛かってるんですから、頑張らないと!!」

 アイビスは実に単純な作戦を指示し、カルロは呆れた様子で頷く。ハルは使命感を抱く反面、表情は硬く緊張が窺えた。

「ハル、出過ぎるなよ。 俺とアイビスが叩くから、撃ち漏らした雑魚を止めてくれりゃあ良い」
「はい! 責任重大ですね!」
「いや、だから……まぁ良い。 肩の力抜けって言いたかったんだが」

 カルロの言葉は逆効果だった様だ。

「ハル、無理はするな」
「え? あ、はい」
「……何だ、アイビスにしちゃあ、珍しいじゃねぇか」

 カルロの言葉の通り、アイビスが仲間を気遣う発言をするのは珍しかった。

「……準備は良いか?」
「あぁ」
「はい!」

 アイビスの掛け声で、それぞれが臨戦体制に入る。

「”焼き千切れ”、ガゼル!」
「ブルー!」
───バリバリッ
「……行け」

 三人は守護霊を召喚し、霊獣の大群へと攻撃を仕掛ける。



「アイツら、大丈夫なのか?」

 その頃、村に残ったケイト達は戦闘の様子を遠方から見守っていた。

「あぁ。 カルロは腕の立つ用心棒、アイビスは霊獣狩り専門の冒険者、ハルはまだ幼いが、戦いの才能はある。 まぁ見てろ」

 不安を表情にするケイトに、ローブスは仲間への信頼を口にする。

 百匹を超える霊獣の群れ。村人からすれば地獄の様な景色の前に立つ三人を見て、心配しない者は居ないだろう。

「しかし、あの数を抑えるのは容易ではなかろう。 本当に加勢は必要ないかの?」
「あぁ。 寧ろ邪魔だ。 って、アイツらなら言うだろうな」
「そうか……」

 フーズは溜息を吐く。

 若き日には駆霊術の極意に迫った彼も、既に老体である。賊相手に遅れは取らなかったが、今回の霊獣の武器は単純な数である。押し寄せる敵をとにかく止める、そんな戦いに臨むには、フーズはあまりに衰えていた。

「私にもう少し、若さと体力があれば……」
「気にするな。 若かろうが体力があろうが、必要無い。 返事は同じ、「寧ろ邪魔」だ」

 ローブスが言った時、彼の霊視が精霊の行使を察知する。

「始まったな」

 村の命運を懸けた戦いが幕を開けた。



「ガゼル、《火の矢フラム・プファイル》!」
「ブルー! 《火の矢フラム・プファイル》!!」

 二人は守護霊を操り、炎を撃ち出す。

 放たれた炎は襲い来る霊獣の群れ、その最前線を走る獣の肉体を焼く。

───バリバリッ
「……行け」

 アイビスは自身が召喚した漆黒の守護霊に対し、短く指示を出す。

 アイビスの言葉に応じ、守護霊は点高く跳躍する。そしてアイビス達の遥か上空を飛行していた猛禽類の霊獣を殴りつけた。

「きりがねぇな」

 カルロは呟く。それもそうだろう。戦闘開始時と比べ、眼前の風景に大きな変化は見られない。三人の攻撃など、焼け石に水としか思えなかった。

「……お前ら、”木”は?」
「俺は持ってねぇな。 すまん」
「僕も試した事ありません」

 アイビスの提案とは、駆霊術の相乗効果を利用し攻撃の効率化を図ろうというものだ。

「そうか。 ならハル、実践だ」
「はい?」

 突如言い渡された課題に、ハルは首を傾げる。

「”木”が出せるまで下がってろ。 出せる様になったらカルロと右翼を止めろ」
「今から試すんですか!?」

 そして驚愕する。そんな悠長に構えていて良い状況ではないだろう。それはハルにも分かっていた。

「温存も兼ねてる、言う通りにしろ。 それまで俺が止めてやる」

 アイビスの表情に───もとよりこの状況に───冗談が無い事を判断すると、ハルは自身の守護霊を自身の目前に呼び寄せ、向き合う。

「ブルー。 ”木”だ。 今すぐ”木”を出して! ……欲しいんだけど」

 そして目を瞑り、念じる。しかし守護霊が応える気配は無い。

「うーし。 じゃあ俺も休憩か?」
「お前は続投だ。 剣でやれ」
「……無茶言うぜ。 《天威無崩ドン・クリーガー》」

 カルロは術を発動し、守護霊の姿を変化させる。

「精密な動きは必要無い。 ”デカいの”あるか?」
「そうだな」

 アイビスはカルロに尋ねる。

 カルロは対人戦を専門としているため、戦闘では主に短剣を用いていた。小ぶりで取り回しが良く、継戦向きな武器。守護霊に対して”ペン”の例えを用いた事からも、動作に精密さを求めている様だった。
 しかし、今回は霊獣との混戦。そして乱戦である。急所を一撃で突く適格さよりも、一振りで何匹倒せるかが肝要である。そう考えた方が結果的に消耗は少ないであろう事は明白であった。

「芸がねぇのは好みじゃないが」

 カルロは言葉を区切り、覚悟と共に術を発動する。

「拘っても仕方ねぇしな。 《大剣ツヴァイヘンダー》」
「ほう」

 カルロが呟くと、ガゼルの手元に守護霊の背丈程もある大ぶりな剣が召喚される。

 刀身の幅は短剣の三倍、その柄も短剣の倍近い長さがあった。

「そっちの方が似合ってると思うが」
「だから嫌なんだよ」

 アイビスは感嘆の言葉を口にするが、カルロはそれを受け取らない。

「良いか? アイビス。 人の魅力ってのは奥行きで決まるんだよ」

 カルロは得意げに講釈を垂れる。

「つまり”ギャップ”だ。 見た目通りの行動しても、見せられるのは表面だけだ。 覚えときな」

 そう締め括るカルロの考えを、

「……聞かなかった事にしてやる」
「何で? 俺今、カッコいい事言ったよな?」

 アイビスは冷たく切り捨てるのだった。
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