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最終章:新たな国王の誕生
15:最終話
しおりを挟むアシュリーが城入りした一年後。
妃教育を終え、アシュリーとヴィクターは正式に婚姻を結んだ。
アシュリーの顔の傷は"エリザベスを守ろうと勇敢に戦った傷である"と広められ、国民からは"勇敢で市民派の気取らない新王妃"として多くの人に歓迎された。
オーグナー領では、妹のペニーがアシュリーのあとをしっかりと引き継いでいる。
この調子だと近々活気のある町づくを開始出来そうだ。
「国王陛下、王妃殿下、母上。イーサンもそろそろ婚姻を結ばせてはいかがでしょうか?」
サンブルレイドへ養子入りしたイーサンが城へ来たため、久しぶりに家族全員で晩餐の席を囲んでいる時に、アダムが口を開いた。
エリザベスの後ろに控えていたセリーナが"ビクッ"と身体を震わせたのが、アシュリーの視界に入った。
「アダム兄上の方が先です」
「私は結婚はしてもしなくてもどちらでもよいと思っているのだよ。だから私のことは気にしなくて良い」
イーサンはアダムの返事に眉を顰める。
「イーサンはまだ幼いわよ」
エリザベスは驚いた顔で言う。
「母上、私はもう24歳です。しかし、まだ未熟過ぎてそれどころではありません」
イーサンはコホンと一つ咳払いした。
「あら、もうそのような年だったかしら?」
「陛下、お水をお注ぎいたします」
本気で不思議がっているエリザベスに、セリーナが声をかけて気を逸らす。
物忘れの病が着々と進行してしるエリザベスは、自分のことを"女王"たと思っており、女王の敬称で呼ばなければ酷く怒るのだった。
「そうですね。イーサン兄上は、いつまで経っても準備が整いそうにありませんしね。少し強引なくらいが良いと思います」
「……」
ヴィクターの言葉に、イーサンは黙って眉間に皺を寄せている。
「私もそう思う。よし、決まりだ!」
アダムはふふふっと満面の笑みで笑った。
アシュリーは、真顔で固まるセリーナを盗み見ることをやめられなかった。
「陛下!」
「アシュリー? 二人の時は何て呼ぶのだった?」
「……ヴィクター……」
「はい、よろしい。それで、何だ?」
照れるアシュリーを見ながら、ヴィクターはご満悦そうだ。
「イーサン殿下のお相手ですけど、目星はついているのでしょうか?」
「いや、これからアダム兄上が探すのだと思うぞ。長男であるアダム兄上が、母上の役目もしようとしている」
タイを外したヴィクターは、首もとのボタンを緩めて「ふー」と息を吐いて椅子に座った。
「今日も一日、お疲れ様でした」
そう言って、アシュリーはヴィクターに水を手渡す。
「ありがとう。……で、言いたいことがあるのだろう? どうぞ?」
ヴィクターはニヤッと悪戯な笑顔を浮かべた。
(すっかりお見通しね。私が何を言いたいかもわかっているのでしょうね……)
「……セリーナ様はいかがでしょうか?」
「何故だ?」
ヴィクターは笑顔でアシュリーの言葉を待つ。
「もう! わかっているのでしょう?」
「ああ、セリーナがずっとイーサン兄上に想いを寄せていることはわかっている」
(王妃として自分の感情だけで発言するなと言いたいのね)
アシュリーは姿勢を正し直した。
「セリーナ様は人格的にもとても素晴らしいお方です。家柄は伯爵家のご令嬢と少し不釣り合いではありますが、私という前例が既にあります。エリザベス殿下はとても寂しくなってしまうので、私も時間のある限り殿下と過ごすようにします」
「賛成だ」
ヴィクターはニッコリ笑って言った。
こうして、セリーナはイーサンのもとへ嫁ぐこととなった。
エリザベスへの配慮で、半年かけて新しい侍女に少しずつ慣らしていった。
そうして半年後、セリーナはイーサンの元へ嫁いで行った。
「ずっと想っているだけで良いと思っていたけれど、やはり嬉しいものですね……。心の奥底では望んでしまっていたことを、自分でも初めて知りました……」
馬車に乗る前、見送りに来たアシュリーにセリーナは穏やかな笑顔で言った。
「イーサン殿下をよろしく頼みます。……殿下と一緒に、幸せになって下さい」
「はい」
セリーナは今までで一番素敵な笑顔で去って行った。
「私には五人の息子がいます。皆んな個性的で面白いのよ」
エリザベスに会いに来たアシュリーに、エリザベスは楽しそうに話し出した。
エリザベスはもう、アシュリーのことを誰だか認識してはいない。
最近ではいつも、"お客さん"として一緒にお茶を楽しんでいる。
エリザベスはとてもよく、昔のことを話してくれた。
「ヴィクター殿下はどのようなお子様だったのですか?」
「ヴィクターはアダムとイーサンの後を一生懸命ついて回っていたわ。真似をして、怪我をして、でも諦めないで……」
「ふふっ」
アシュリーはその光景が目に浮かび、思わず笑ってしまう。
「じゃあそろそろ私は行くわね。仕事が残っているの」
「はい、女王陛下。お忙しい中、時間をとって下さりありがとうございます」
「いいのよ」
そう言うと、穏やかな笑顔でエリザベスは去って行った。
アシュリーは、そばにいた侍女にあとを頼んで退室する。
その夜、アシュリーはヴィクターに後ろから抱きついた。
「どうしたのだ? そのような嬉しいことをしてくれるのは珍しいな」
ヴィクターの腹部に回されたアシュリーの手を、ヴィクターは穏やかな笑顔でそっと握る。
「今日、エリザベス殿下からヴィクターの昔話を少し聞きました」
「そうか。やんちゃだったとよく言われていたな。ははは」
ご機嫌なヴィクターの背中に顔をうずめて、アシュリーは恥ずかしそうに言った。
「……私たちの子どもは、どのような子に育つでしょうか?」
「そうだな。アシュリーに似た可愛い女の子が一人は欲しいな」
「私は、シャインブレイドの輝きに負けない男の子が良いです」
「それもいいな……って、できたのか!?」
ヴィクターは身体をくるっと回し、アシュリーの両肩を掴んでアシュリーの顔を真正面から覗き込む。
「……はい」
プロポーズをされた時と同じように、ヴィクターの目を見ることが出来ずに恥ずかしそうにしているアシュリーを、ヴィクターは思いっきり抱きしめた。
「愛している、アシュリー」
「私もです、ヴィクター」
アシュリーはヴィクターの胸に顔を埋めて言う。
それから上を見上げてみると、とても嬉しそうなヴィクターの顔がそこにあり、アシュリーの心はとても温かくなったのだった。
【完】
因みに……
エリザベスは若年性認知症、アダムは生まれつきの心房中隔欠損症、エイダンは発達障害
の設定でした。
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました^ ^
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