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最終章:新たな国王の誕生

9:終焉

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ヴィクターは、窓から騎士たちが出陣した方角を眺めていた。
いつもなら出陣するが国王となった今は城に残ることとなり、落ち着かないのだ。

(大丈夫だ。アダム兄上と共に就任式の直前まで練り上げた計画は完璧だ。皆の士気も高かった。イーサン兄上が現場の指揮を執ってくれているし、何の問題もない。俺は皆を信じるのみだ)

ヴィクターは薄暗くなって来た空を見ながら、皆を信じる想いを強くした。




「アシュリー、大丈夫よね? 全て解決するわよね?」

「はい。女王陛下も無事にも戻られて、反逆者たちも捕まって、全てが終わるはずです」

アシュリーはセリーナとエリザベスの部屋を掃除しながら、エリザベスの無事の帰城とこの争いの終焉を願った。





日が傾きかけた頃、オーウェンの使者がまずはオーウェンの元にイーサンを連れて戻って来た。

「ローイ様はここで手当をしているよ。出血が多くてあまり状態は良くはないみたいで、移動は諦めたみたい。裏切り者のグリーフは村民の半分を連れて移動した。ここから3Kmほど離れた所に地下へ入る隠し扉があって、そこへ入って行ったよ。恐らく陛下もそこにいるんじゃないかな……?」

淡々と言うオーウェンに、イーサンも淡々と言った。

「わかった。よくやった。お前は報告が済んだら今すぐ城へ戻れ」

「えー!!! そんな!!!」

オーウェンは不満一杯の顔を兄に向ける。

「お前はまだ、心身共に戦闘に参加する準備は出来ていない。無駄死にしても誰も喜ばない。お前はこれから、もっと成長し国のためになる人間になるのだ」

イーサンは真面目に末っ子を諭すと、使者に今すぐ連れて帰るように指示した。
さすがのオーウェンも大人しく従ったのだった。






イーサンは隊員へ指示をし、作戦を確認する。
そして日が完全に落ちてから、地下への隠し扉をエイダンの爆弾で破壊し、一気に突入した。
二手に分かれて、同時に村へも攻め入る。

敵の人数は突入した騎士とほぼ同じだ。
しかし、トップであるローイの大怪我で士気が下がっていたこともあり、力の差は一目瞭然であった。


「陛下!!!」

イーサンが地下牢に閉じ込められているエリザベスを助け出す。

「イーサン……迷惑をかけたね……。うまく行ったのよね? アシュリーは無事!?」

「はい、もう大丈夫です。新国王と騎士統括の就任も執り行いました。ローイも大怪我を負っていて、今他の者が捕らえに行っています。アシュリーも無事です」

すぐに安全な所へエリザベスを避難させた。
エリザベスは真っ黒に汚れており、身なりはボロボロだった。
しかし食べ物は与えられており、暴力もふるわれていないようだ。

「ローイ……私の情緒を乱そうと、全てを話してくれたわ……」

「……父上のことですか?」

「ええ」

エリザベスにとってそれは、無念以外の何者でもないことだった。

「陛下はお怪我はありませんか?」

「ええ、身体的苦痛を与えても無駄だと思ったようで、精神的に追い詰めて来たわ……。脅されたり……」

「ノートの在処を伝えたのですか?」

イーサンの問いに、エリザベスは疲れた表情で苦笑いを浮かべる。

「だって誘拐されてから随分経つのに全然音沙汰なしだったから、全く尻尾を掴めていないのではないかと思ったのよ。だからわざと教えて、接触させたの。城なら私たちの方が圧倒的に有利だし、あなたたちなら上手くやってくれると信じていたわ」

イーサンは驚いた顔をしたが、すぐにいつもの真顔で言う。

「わざとだったとは考えもしませんでした。ご無事で何よりです」

「ええ、今日は……8月何日かしら?」

エリザベスの発言にイーサンは再び驚いた顔となった。

「……陛下、今は冬でございます」

「えっ? あら、そうだったわね……」

イーサンはノートを全て読んでいた。
そんなイーサンはエリザベスの苦笑いに、エリザベスがとぼけたのではなく本当に間違えたことを悟り、複雑な想いとなる。

「早く城へ戻ってゆっくり休みましょう」




イーサンはエリザベスを他の騎士に頼み、ローイを確実に捕らえたのか確認に行った。

「ローイ……イーサンだ。皆捕まえたぞ。お前の負けだ」

そこには血の気がなく顔面蒼白のローイがいた。
大腿部からの動脈出血にも関わらず無理して逃亡したため、多くの血が失われてしまったようだ。
今も完全に止血しきれていない。
意識も少し遠くなって来ており、呼吸も浅く速い。
薄らと目を開け、イーサンを見て言う。

「……中途半端な反乱となってしまったな。俺は大事な時に怪我ばかり……」

「父への嫉妬から道を踏み外しさえしなければ、違った未来があったのだ」

淡々と言うイーサンに、ローイは何かを思いついたような顔をした。

「……一つ頼みがある」

「何だ?」

「ティガレストの女と産まれてくる子どもは、放っておいて欲しい……」

「お前のことは伝えるか?」

「……いや、その必要はない」

「わかった」

(彼女の中では良い人間として生き続けたいのだな……)

イーサンはそう思った。

「父を殺したお前の頼みは聞きたくはないが、あの女性に免じてそのようにしてやろう」

イーサンが上から目線でそう言うと、ローイは笑った。

「ははっ……。俺も……、もう終わり……だ、な……。ローレルの……息子に……殺られ……た……か……」

その言葉を最後に、ローイは目を閉じた。
呼吸はどんどん努力様になっていき、約一時間後には静かに息を引き取った。



グリーフはまた逃げようとしたが、呆気なく捕まった。

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