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最終章:新たな国王の誕生

8:新国王の誕生

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(陛下はサンブルレイド公爵へ、俺ではなくイーサン兄上を養子としてあとを継がせることを提案しようと、誘拐されたあの日に公爵を呼び出していたのか……)

就任式の準備も整い、人々の入場が終わるのを別室で待ちながらヴィクターは考えていた。

"コンコン"

「入れ」

「失礼いたします」

入って来たのはアシュリーだった。
いつもの侍女の格好ではなく、ドレスを着ている。
アシュリーの瞳と同じ緑色のドレス姿に、ヴィクターは思わず見惚れた。

「……ドレス姿を見るのは初めてだな。綺麗だ」

「おやめ下さい! 顔の大きなガーゼが更に目立つので、ドレスなんて着たくなかったのです」

「俺は、見ることが出来て嬉しい。少し心が軽くなった気がするよ。今度は顔の傷が治った時に、また着て見せてくれ」

恥ずかしくてヴィクターの目を見られないアシュリーに、ヴィクターはいつもの悪戯っぽい笑みをした。

(傷が残るかもしれませんが……)

アシュリーはそう思いながらもいつものヴィクターの様子にホッとして、訪室の目的を口にする。
 
「ヴィクター殿下、実は、アダム殿下より女王陛下の代わりに国王就任の王冠を授ける役割を任せられました」

「ああ、それでドレスを着ているのか」

困った顔のアシュリーは、笑顔でアシュリーを見ているヴィクターを見上げて言う。

「……私なんかが、よろしいのでしょうか?」

「こらっ!」

ヴィクターは軽く咎める。

「あっ……"なんか"などともうして、申し訳ありません。しかし、私はただの伯爵令嬢であり陛下の侍女です」

「アシュリーがいなければシャインブレイドは手に入らなかった。それに何より、陛下がアシュリーをこの事態に巻き込んだのだ。君はとても勇敢で素敵な女性だ。君に王冠を授けて貰えるなんて、俺は幸運だ」

ヴィクターは一歳の迷いなく、そう言い切った。
ヴィクターのその言葉で、今まで躊躇っていたアシュリーは心を決めた。

「分かりました。新国王陛下がそう仰られるのなら、私は"その任務を遂行するのにふさわしい"そう自己暗示をかけて臨みます! 式直前にお邪魔して、申し訳ありませんでした!」

(迷ったけれどヴィクター殿下と話にきて良かったわ)

アシュリーは覚悟の決まった顔をしている。

「アシュリー、まだ身体が本調子ではないだろう? 手足も痛むだろうし、式が終わったらゆっくり休むのだぞ」

「ありがとうございます」

笑顔で退室しようとしたアシュリーを、ヴィクターが呼び止める。

「アシュリー」

「はい?」

振り返ったアシュリーの目に、初めて目にする自信なさげなヴィクターの顔がうつった。

「俺が国王で良いのだろうか?」

そして、初めての弱音を聞く。

(ヴィクター殿下……私に心を開いて下さっているということかしら……?)

アシュリーは不謹慎ながら、ヴィクターの弱さを垣間見て嬉しい気持ちが芽生えてしまった。

「ヴィクター殿下が良いのです」

アシュリーは真剣な顔でまっすぐにヴィクターの目を見て言う。
そして、次にとびっきりの笑顔を見せて続けた。

「ヴィクター国王陛下の治める国の民でいられることを、心から幸せに思います」

ヴィクターは驚いた顔を一瞬したあと、すぐに破顔した。

「ははっ、そうか。わかった。俺も覚悟を決めよう。ありがとう」

和やかな空気が流れ、アシュリーは再び退室をしようとすると、これまた再び呼び止められた。

「アシュリーは"民"でありたいのか?」

「えっ? はい、勿論……」

ヴィクターは考える顔をしたあと、笑顔で言った。

「今ではないな。まずは陛下を取り戻し、反乱を終息させないとな」

「……はい?」

(何なのかしら?)

アシュリーが訳がわからずポカンとした顔をしていると、アダムに呼ばれて今度こそ退室したのだった。




就任式は滞りなく執り行われた。
アシュリーがヴィクターに王冠を被せた後、ヴィクターと一瞬熱い視線が絡まったような気がしたが、すぐに集まっている騎士や城関係者をヴィクターは見渡した。

(とても堂々とされているわ。本当に素敵……)

アシュリーはこの瞬間をこのような間近でら迎えられたことに、心から感謝の気持ちを抱く。


続いて、ヴィクターから騎士団統括に任命されたアダムに、シャインブレイドが手渡される。

そしてちょうどその時、オーウェンの使者が城へ到着した。
その知らせを受けたヴィクターとアダムは頷き合う。

「皆の者、これを見よ!!!」

アダムはシャインブレイドを壇上で高く掲げた。

「我々にはシャインブレイドがついている。勝利は我々の手に!」

「「「おー!!!!!」」」

全員の雄叫びが会場中にこだまする。
その中央に輝くシャインブレイドは、まさしく勝利の象徴だった。

(凄い……皆の士気が一気に上がった……)

アシュリーは圧倒され、ただただ呆然と立ち尽くしてその光景を眺めていた。

「我が陛下を取り戻し、反逆者たちを捕らえよ!」

そのヴィクターの命令を受け、アダムが声高に宣言する。

「皆の者、出陣だ!!!」

「「「おーっっっ!!!」」」








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