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最終章:新たな国王の誕生
6:帰城
しおりを挟む「ヴィクター!!! 応援を連れて来た!!!」
「兄上!!!」
地面に膝をついているローイを見ながらヴィクターのそばに行ったイーサンは、ヴィクターの無事を確認すると小声で尋ねる。
「シャインブレイドは?」
「アシュリーが守ってくれています」
「殿下!!!」
続々とやって来る騎士たちに、ヴィクターは大声で言う。
「ローイと輩たちを捕えろ! 我が騎士五名の無事も確認しろ!」
「はっ!!!」
手足を縄に括られ太腿の止血処置をされているローイの元へ、イーサンは行って口を開いた。
「ローイ様、お久しぶりです。頼まれたので、一つだけお伝えしておきます。ティガレストの女性があなたを探していました」
イーサンは、ローイの眉がピクっと動くのを見逃さなかった。
(やはりローイ様で合っていたか)
「もうすぐ子が産まれるそうです。大きな腹で、彼女の父親も怪我をして働けず、生活に困っていました。このままでは子を産んだあとも育てられるか心配だ、戻って来て欲しいと」
「……」
「……あと、ティガレストで共に過ごしたローレルという人物は決して悪人ではなかった、とも言っていました」
何も言わずに目を見開いているローイに、イーサンは淡々と真顔で最後に質問をした。
「あなたが陛下を誘拐する前にこのことを知っていたら、思いとどまったでしょうか?」
「……弟に手を掛けた時点で、もう俺は後戻りが出来なくなっていたさ……。あの時に怪我をしたせいで、一年遅くなった、ただそれだけだ」
イーサンは何も言わずにその場を去った。
その様子を見ていたアシュリーは思う。
(妻と子と穏やかに暮らす、そういう選択がローイ様にもあったのよね……。人は道を踏み外すと戻るのが難しいどころか、後戻り出来ないこともあるわ……)
ジーッとシャインブレイドを抱き抱えてローイを見つめているアシュリーに、足の応急処置を受けたヴィクターが近づいて来た。
「アシュリー、助太刀には助かったよ」
「あっ、いえ、微力ながら手助けになったのならよかったです!」
険しい顔のほぐれたヴィクターを見て、アシュリーはホッとした顔で言う。
「……ヴィクター殿下、私の差し上げたリボンを持っていらしたのですね」
「ああ……お守りだ。実際に助けてくれたしな」
少しはにかみなから、ヴィクターは笑顔でそう言った。
その時……
「逃げたぞ!!! 追え!!!」
急に騎士が大声を上げた。
馬に乗せようとしたローイが騎士を襲い、馬を奪って逃げたのだ。
手のひらに尖った金属を忍ばせていたようだ。
「俺は追う。ヴィクターはシャインブレイドを持って城に戻れ」
イーサンはそう言うと、馬へ飛び乗り去って行った。
「ヴィクター! アシュリー! 無事で良かった!」
シャインブレイドを持って城へ戻ったアシュリーとヴィクターは、明らかに安堵の表情を見せるアダムに出迎えられた。
「シャインブレイドだ! 久しぶりに見たが、やはり神々しい輝きだね。よく持ち帰ってくれた。礼を言うよ」
アシュリーとヴィクターは目を見合わせ、お互いの健闘を讃え合うように微笑み合った。
「夜が明けたら就任式をするよ。それから、続けて出陣式も行う。陛下を助け、一気に反乱者達を成敗しよう! それでいいかな? ヴィクター」
「えっ? ああ」
ヴィクターはこの流れで、何故自分に問われられたのか意味がわからなかった。
今までなら、アダムやエリザベスにこのような内容のことを問われることはなかったからだ。
すると、アダムからエリザベスのノートを手渡される。
「記載されている最後のページを見てごらん」
その言葉にアシュリーとヴィクターはノートを覗き込む。
そこにはこう書かれていた。
"国王をヴィクター、騎士統括をアダム、サンブルレイド領次期領主をイーサンとする"
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