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最終章:新たな国王の誕生
4:シャインブレイド③戦闘
しおりを挟む10分ほど経っただろうか。
そっと扉の開く音がした。
(誰か来たわ!)
アシュリーは階段を降りてすぐの、左側の壁に身を潜めている。
エイダンに追加で貰った黒い球を握りしめて……
(静かに黙って降りてくる……。きっと敵ね……)
アシュリーはゴクッと唾を飲み込んだ。
(大丈夫よアシュリー、私はやれるわ。今回は地上にはヴィクター殿下もいる。きっとすぐに助けに来て下さるわ)
どんどん近づいて来る足音に、アシュリーは身構えた。
その人物は棺の部屋に辿り着くと、身体を入れる前に顔だけ出して部屋を見渡した。
そして左を見た瞬間に、アシュリーと目が合う……
「うわっ!!!」
アシュリーは黒い球を顔面目掛けて投げつけた。
1mもない距離だったため、見事敵中した。
「なっ、何だこれは!? 何も見えない!!!」
敵は咄嗟に顔に張り付いているものを取ろうと、手に握っていた剣を落とした。
その隙にアシュリーは足をかけて敵を地面に倒し、足の上にローレルの棺の蓋を置いて脚の動きを邪魔する。
そしていつも服の下に忍ばせている紐で、顔の物体がついて顔面から離れなくなっている両腕を結び、蓋の下で動けなくなっている両足も隙間に手を入れて結んだ。
それから蓋をどけて棺に戻し、海老のように跳ねて逃れようともがく男を眺めた。
(領地でよく動物を捕まえていたから、頑丈な結び方を知っていて役に立ったわ。さあ、これ以上は私には無理だわ。ヴィクター殿下よりも一回り大きいかしら? とてもじゃないけど、私には動かせない。下手なことはせずに助けを待ちましょう)
他に武器の所持が無いかのチェックを出来る範囲でした後、アシュリーは再び元の位置へ戻り新たな侵入者に備える。
それから約5分後、今度は勢いよく扉の開く音がした。
「アシュリー!!!」
アシュリーの名前を呼びながら階段を駆け降りて来るその声に、アシュリーは安堵の息を吐く。
「ヴィクター殿下!」
ヴィクターは棺の部屋へ着き、ホッとした顔をしているアシュリーの姿を目にした瞬間、アシュリーを抱きしめた。
「……良かった……」
アシュリーが驚きに思わず息を止めていると、アシュリーの背後に寝転ぶ男にヴィクターは気付いた。
「……アシュリー、やはり君はただ者ではないな……」
「……エイダン殿下のおかげです……」
「それだけではない。君の勇気と行動力、そして実力も素晴らしい。騎士になれそうだ……。あの紐は?」
「いつも紐を持ち歩いているのです。領地ではいつどこで動物に遭遇してもおかしくなかったですし、それ以外でも何かと役に立つので持ち歩く癖がついていて……。誘拐された時は奪われましたが。それよりも、で、殿下……、私は大丈夫ですので、お離し下さい」
この会話は全て、ヴィクターの腕の中で行われていた。
そろそろアシュリーには限界だった。
(胸が爆発しそう。お願い、離して!)
「俺が大丈夫じゃない。ここに輩が入って行くのが見えて、息が止まるかと思った。それにも関わらず、敵に囲まれていてすぐに来られなかった。俺が守ると誓っていたのに……」
ヴィクターはギュッとアシュリーを抱きしめる。
「私は守られるだけの女ではありませんよ?」
アシュリーは身体を離し、ヴィクターを見上げて言った。
アシュリーのその意志の灯ったまっすぐな瞳を見て、ヴィクターは自分の傲慢さを感じる。
「……そうだったな。……よし!」
ヴィクターは自分に喝を入れ、アシュリーが捕らえた男に尋ねる。
「おい、陛下の居場所を知っているか?」
「あっ?何のことだよ!」
見るからに質素な身なりのこの男は、街のごろつきだろう。
(何も知らないでしょうね……)
アシュリーはそう思った。
しかしヴィクターは他の質問をする。
「ローイは今ここに向かっているのか?」
「ローイ、誰だそれ?」
「では、ローレルは?」
その名前を聞いた途端、余計なことを言ったと自覚した男は慌てて口を閉じ、何も言わなくなった。
(やはりローイ様なのね! 行動しやすいように本名は名乗っていないのね……)
「向かっているのだな。城であのような騒ぎを起こしたのだ、きっと近くにいるのだろうと思っていた。アシュリー、こいつは墓の外に投げ捨てて行こう」
そう言いながら、ヴィクターはアシュリーにアイコンタクトを送って来た。
(ああ、シャインブレイドはどこかと尋ねられているのね!)
アシュリーはそそっと、さっき戻したばかりのローレルの棺の蓋を開けた。
(ローレル殿下、お邪魔しました)
アシュリーは心の中でそう言ってからシャインブレイドを取り出し、輩を抱えるヴィクターの代わりに再び抱き抱えた。
「ローイ様を捕まえるチャンスだが、こちらの数が少な過ぎる。圧倒的不利だ。騎士達を見殺しにする訳にも行かないし、今回は諦めて奴らが来る前にここを去ろう。今回は他の大きな目的の方が大事だ」
ヴィクターは歩きながらそういった。
……しかし、もう既に遅かった。
ヴィクターとアシュリーが再び地上に出て他の五人の騎士と合流した時、丘の下にはどんどん馬が集まって来ていた。
二人乗りで来ているようで、到着し次第一人は地面へ降りて行った。
馬は30頭はいそうだ。つまり、人間は60人はいる。
「クソッ、もう来たか」
ヴィクターが悪態を思わずつくほどに、圧倒的に不利な立場だった。
「ここから城まで馬を飛ばせば30分ほどだ。一番元気のあるお前、城へ知らせに行け。他のものはおとりにになりつつ城方向へ逃げろ! 俺は大事な荷を運ぶ。俺の援護も頼む。城に着くか応援が来るかまで……なんとか、逃げ切るぞ!」
「はっ!」
「ごろつきばかりで馬術も戦闘も俺たちの方が上だ! 怯むな! 行くぞ!」
ヴィクターは敵の集団を睨みつけて言った。
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