上 下
49 / 60
最終章:新たな国王の誕生

4:シャインブレイド③戦闘

しおりを挟む



10分ほど経っただろうか。
そっと扉の開く音がした。

(誰か来たわ!)

アシュリーは階段を降りてすぐの、左側の壁に身を潜めている。
エイダンに追加で貰った黒い球を握りしめて……

(静かに黙って降りてくる……。きっと敵ね……)

アシュリーはゴクッと唾を飲み込んだ。

(大丈夫よアシュリー、私はやれるわ。今回は地上にはヴィクター殿下もいる。きっとすぐに助けに来て下さるわ)

どんどん近づいて来る足音に、アシュリーは身構えた。
その人物は棺の部屋に辿り着くと、身体を入れる前に顔だけ出して部屋を見渡した。
そして左を見た瞬間に、アシュリーと目が合う……

「うわっ!!!」

アシュリーは黒い球を顔面目掛けて投げつけた。
1mもない距離だったため、見事敵中した。

「なっ、何だこれは!? 何も見えない!!!」

敵は咄嗟に顔に張り付いているものを取ろうと、手に握っていた剣を落とした。
その隙にアシュリーは足をかけて敵を地面に倒し、足の上にローレルの棺の蓋を置いて脚の動きを邪魔する。
そしていつも服の下に忍ばせている紐で、顔の物体がついて顔面から離れなくなっている両腕を結び、蓋の下で動けなくなっている両足も隙間に手を入れて結んだ。
それから蓋をどけて棺に戻し、海老のように跳ねて逃れようともがく男を眺めた。

(領地でよく動物を捕まえていたから、頑丈な結び方を知っていて役に立ったわ。さあ、これ以上は私には無理だわ。ヴィクター殿下よりも一回り大きいかしら? とてもじゃないけど、私には動かせない。下手なことはせずに助けを待ちましょう)

他に武器の所持が無いかのチェックを出来る範囲でした後、アシュリーは再び元の位置へ戻り新たな侵入者に備える。



それから約5分後、今度は勢いよく扉の開く音がした。

「アシュリー!!!」

アシュリーの名前を呼びながら階段を駆け降りて来るその声に、アシュリーは安堵の息を吐く。

「ヴィクター殿下!」

ヴィクターは棺の部屋へ着き、ホッとした顔をしているアシュリーの姿を目にした瞬間、アシュリーを抱きしめた。

「……良かった……」

アシュリーが驚きに思わず息を止めていると、アシュリーの背後に寝転ぶ男にヴィクターは気付いた。

「……アシュリー、やはり君はただ者ではないな……」

「……エイダン殿下のおかげです……」

「それだけではない。君の勇気と行動力、そして実力も素晴らしい。騎士になれそうだ……。あの紐は?」

「いつも紐を持ち歩いているのです。領地ではいつどこで動物に遭遇してもおかしくなかったですし、それ以外でも何かと役に立つので持ち歩く癖がついていて……。誘拐された時は奪われましたが。それよりも、で、殿下……、私は大丈夫ですので、お離し下さい」

この会話は全て、ヴィクターの腕の中で行われていた。
そろそろアシュリーには限界だった。

(胸が爆発しそう。お願い、離して!)

「俺が大丈夫じゃない。ここに輩が入って行くのが見えて、息が止まるかと思った。それにも関わらず、敵に囲まれていてすぐに来られなかった。俺が守ると誓っていたのに……」

ヴィクターはギュッとアシュリーを抱きしめる。

「私は守られるだけの女ではありませんよ?」

アシュリーは身体を離し、ヴィクターを見上げて言った。

アシュリーのその意志の灯ったまっすぐな瞳を見て、ヴィクターは自分の傲慢さを感じる。

「……そうだったな。……よし!」

ヴィクターは自分に喝を入れ、アシュリーが捕らえた男に尋ねる。

「おい、陛下の居場所を知っているか?」

「あっ?何のことだよ!」

見るからに質素な身なりのこの男は、街のごろつきだろう。

(何も知らないでしょうね……)

アシュリーはそう思った。
しかしヴィクターは他の質問をする。

「ローイは今ここに向かっているのか?」

「ローイ、誰だそれ?」

「では、ローレルは?」

その名前を聞いた途端、余計なことを言ったと自覚した男は慌てて口を閉じ、何も言わなくなった。

(やはりローイ様なのね! 行動しやすいように本名は名乗っていないのね……)

「向かっているのだな。城であのような騒ぎを起こしたのだ、きっと近くにいるのだろうと思っていた。アシュリー、こいつは墓の外に投げ捨てて行こう」

そう言いながら、ヴィクターはアシュリーにアイコンタクトを送って来た。

(ああ、シャインブレイドはどこかと尋ねられているのね!)

アシュリーはそそっと、さっき戻したばかりのローレルの棺の蓋を開けた。

(ローレル殿下、お邪魔しました)

アシュリーは心の中でそう言ってからシャインブレイドを取り出し、輩を抱えるヴィクターの代わりに再び抱き抱えた。

「ローイ様を捕まえるチャンスだが、こちらの数が少な過ぎる。圧倒的不利だ。騎士達を見殺しにする訳にも行かないし、今回は諦めて奴らが来る前にここを去ろう。今回は他の大きな目的の方が大事だ」

ヴィクターは歩きながらそういった。



……しかし、もう既に遅かった。

ヴィクターとアシュリーが再び地上に出て他の五人の騎士と合流した時、丘の下にはどんどん馬が集まって来ていた。
二人乗りで来ているようで、到着し次第一人は地面へ降りて行った。

馬は30頭はいそうだ。つまり、人間は60人はいる。

「クソッ、もう来たか」

ヴィクターが悪態を思わずつくほどに、圧倒的に不利な立場だった。

「ここから城まで馬を飛ばせば30分ほどだ。一番元気のあるお前、城へ知らせに行け。他のものはおとりにになりつつ城方向へ逃げろ! 俺は大事な荷を運ぶ。俺の援護も頼む。城に着くか応援が来るかまで……なんとか、逃げ切るぞ!」

「はっ!」

「ごろつきばかりで馬術も戦闘も俺たちの方が上だ! 怯むな! 行くぞ!」

ヴィクターは敵の集団を睨みつけて言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~

くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」  幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。  ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。  それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。  上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。 「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」  彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく…… 『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

呪われた白猫王子は、飼い主の王女様を可愛がりたい 【ネコ科王子の手なずけ方】

鷹凪きら
恋愛
セレナはとある国の四番目の王女として生まれたが、その存在を疎んでいた国王である父は彼女を城に軟禁した。 3人の姉からは陰湿な苛めが繰り返される毎日。 そんな風に人と会うこともなく城の中で生きてきたセレナに、何故か隣国の王子から結婚の申し込みが。 その王子とは全く面識がなかったが、彼はセレナを知っているようだった。 「あぁ、やっと会えた」 そう言って嫁いだ先で出迎えてくれたその人は、セレナを溺愛し始める。 しかし顔よし、頭よし、性格よし(?)のその王子には秘密があった。 それはある条件に触れると、呪いによってその姿を『猫』へと変えてしまうことで――!? これは、虐げられて生きてきた王女と、そんな彼女を愛してしまった呪われた王子の物語。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

処理中です...