【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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第四章 嘘が誠となる時

4:逃走

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アシュリーは痛めている右手と右足の痛みも忘れて、ひたすら走った。
そして三十分ほど走った所でつまづいてこけた。

そこは落ち葉が積もって絨毯のようになっている。

すると馬の足音が聞こえて来たため、アシュリーはそのまま自分の身体に落ち葉をかけて身を隠した。

「たまにある足跡から、こっち方面に逃げたことは間違いない! 意地でも見つけろ! でなきゃ俺らがリーダーにやられるぞ!」

「ああ! 手分けしよう!」

アシュリーが息を潜めていると、ポツポツと雨が降り始めた。

(足跡を消してくれるし、野生の動物にも遭遇しにくくなる。水分補給にもなるし、恵の雨だわ……)

アシュリーは少しホッとし、そのまま暫く動かなかった。
三十分ほど経っただろうか?
雨はすっかりザーザー降りになっている。

アシュリーは身体を起こし、雨で身体の泥を出来る限り流した。
そして上を向いて口を開ける。

「ああ、生き返るわ……」

ボソッとそう言うと、歩き始めた。

(少しでも遠くへ行かないと……どうか、町に辿り着けますように……!)

アシュリーは祈りながら、衣服が雨に濡れて重たく、足場も悪くなった山道を少しずつ進んで行った。






「クシュッ……クシュンッ……」

(何時間歩いたかしら……?)

夜中になり気温が下がり、濡れた衣類が体に張り付き身体が冷えて来た。
歩いて身体は暖かいはずだが、それを上回る冷えに、思わずクシャミを連発してしまう。

(休みたいけど、止まったら更に身体が冷えるわね……)

そう思い、アシュリーは無心で歩き続けた。

すると茂みを抜け、開けた草原に出る。

(森を抜けたわ……でも、草が短いし見晴らしが良い……身を隠せないわ……)

アシュリーは一瞬躊躇う。

(身を隠せないからこそ、暗いうちに進まなきゃ……)

アシュリーは草原に足を踏み入れる前に、少しだけ休憩をすることにした。

(陛下……私がいなくなったからと、酷い扱いを受けていないと良いけれど……)

「痛っ!」

ふと濡れた顔を擦ると、左頬に手が触れて激痛が走った。

(傷を見ていないからわからないけれど、きっと手当をした方が良いのでしょうね……雨も染みるし、もう一週間以上経つのに腫れて熱も持っているようだわ)

アシュリーは思わずため息をつく。
左頬の痛みを自覚すると、右腕と右脚も痛むことを思い出した。

(はあ……これ以上休んだら動けなくなりそうだわ。進みましょう)

アシュリーは疲労困憊の身体に鞭打ち、気力を振り絞って立ち上がる。

「私は生きる。任務を遂行して陛下を助け出す」

アシュリーは呟く。
そして少しの間を開けて、もう一つ口にする。

「……ヴィクター殿下にもう一度会う」

アシュリーは(よしっ!)と自分に喝を入れ、草原に足を踏み入れた。

時刻は恐らく夜中の2~3時だろうか。
アシュリーが草原を歩き出して1時間ほどした頃、アシュリーの目は灯りを捉えた。

「ひょっとして……」

更に足を進めると、小さな火の光がふたつ見える。
どうやら小さい村のようで、村の入り口にたいまつが焚かれているようだ。

「……村……」

(きっと探しに来るだろうから長居は出来ないわ。馬車か馬を出して貰えないか頼もう……)

ホッとしたのも束の間、アシュリーはすぐに気を引き締めた。

歩くスピードを速め、村へ急ぐ。
身を隠せない草原は恐怖以外の何者でもないのだ。










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