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第四章 嘘が誠となる時
11:帰城
しおりを挟む「行くぞ! しっかりとしがみついていろよ! 何かあれば俺の胸を叩け。いいな!?」
サンブルレイド公爵夫妻に礼を伝えた後、アシュリーはヴィクターと出発した。
ヴィクターの背後で馬に跨り、しっかりとヴィクターに抱きついた。
(きっと、ヴィクター殿下に抱きつけるのは最初で最後ね)
一瞬そんな邪なことが頭を過ぎるが、すぐに気を引き締めた。
(足手纏いにならないように、そして殿下が少しでもスピードを出しやすいように、しっかりとしがみついていないと……)
サンブルレイドから城までは馬を飛ばしても2日はかかるのだ。
「えっ、宿に泊まるのですか!?」
夜も少しでも進んで、野営で少し睡眠を得る程度かと思っていたアシュリーは驚いた。
「ああ、今晩はここに泊まる」
アシュリーは顰めっ面で奥歯を噛み締める。
(私がいなければこんな所に宿泊したりしなかったはずよ。やはり足手纏いになってしまった……)
そんなアシュリーの顔を見てヴィクターは溜め息をつく。
そして、アシュリーの右頬を軽くつねった。
「痛っ!」
実際はさほど痛くはなかったが、驚いてアシュリーは大袈裟な反応をしてまう。
「アシュリー、そんな顔をするな。無理をして風邪が再び悪化する方が、進めなくなる。今晩はベッドでしっかりと身体を休ませて、明日再び馬を飛ばした方が結果的にも良いはずだ」
ヴィクターはつねる手を離し、笑顔で言う。
「安心しろ。アシュリーが頑張ってくれたおかげで思ったよりも今日進めたから、明日の夕方には城へ着ける」
こうして二人は宿で一泊し、翌日の早朝に再び出発をしたのだった。
もちろん今回も同室だったが、今回はどちらがベッドに寝るかのジャンケンはしてもらえなかった。
(陛下、どうかご無事で……)
アシュリーは祈りながらも、疲れからすぐにベッドで眠りについた。
こうして翌日の夕方、二人は城へ到着したのだった。
「私の渡したノートは、見た目は本のようなのです。なのできっと、目立たないように他の書物と一緒に置いているはずです! 書斎と寝室の本棚から調べましょう!」
アシュリーのその言葉で、二人はすぐにエリザベスの書斎へ向かった。
「王子たちと医者を呼んでくれ」
向かう途中でヴィクターは執事長にそう言った。
「医者ですか? 私はもう大丈夫ですよ?」
「体調は幸い悪化はしていないようだが、顔の傷は手当をし直して貰った方が良いだろう。……ところで、失礼」
早歩きで書斎へ向かいながら話していると、いきなりヴィクターがアシュリーをお姫様抱っこする。
「なっ……で、殿下!?」
「足がまだ痛むのだろう? 君の早歩きは俺のゆっくり歩きだ。嫌だろうが辛抱してくれ」
そう言われると、アシュリーは我慢するしかなかった。
途中すれ違う侍女の視線が痛くて、アシュリーはずっと両手で顔を覆っていた。
「アシュリー!」
その声にアシュリーはバッと顔をあげた。
「セリーナ様!」
「無事で良かったわ! 陛下は!?」
「陛下はまだ捕まっております。私一人無事に戻って申し訳ありません」
「何を言うの! 私の代わりに連れて行かれたというのに……。無事で良かったわ」
「セリーナ様もご無事で何よりです」
ヴィクターの早歩きに小走りでついて行きながら、涙目になってセリーナは言う。
アシュリーもセリーナとの久しぶりの再会に、少し心が和むのを感じた。
「セリーナ、アシュリー、悪いが先を急ぐぞ」
そんな二人にヴィクターはそう言い、走り出す。
「で、殿下!? 重いですよ!」
「思ったよりも軽かったから走ることにしたのだ。俺も見た目よりも力があるのだぞ!」
ケロッと言うヴィクターを見上げ、アシュリーは顔を真っ赤にして再び手で覆った。
セリーナと別れエリザベスの書斎へ着くと、そっとヴィクターはアシュリーを下ろした。
「ありがとうございます。この本くらいの分厚さで、苔のような深い緑色の本を探して下さい!」
「わかった! 俺はこちら側から探す」
「では、私はこちら側から探します」
二人は頷き合って作業を開始する。
エリザベスの書斎は、長方形の部屋で扉のある壁以外の三面は一面が本棚であり、書物が敷き詰められている。
二人がノートを探し始めて10分が経過した頃、アダムが書斎へやって来た。
「アシュリー! 無事で良かった! 顔の怪我が酷そうだね……」
「アダム殿下! 私だけ戻って申し訳あ……」
アシュリーの言葉はアダムの人差し指に遮られた。
「謝る必要は一切ないよ。我が騎士に変わり、陛下を守ろうと勇んでくれたことに感謝する。誘拐されて怖かっただろう……無事で本当に良かった」
アダムは優しくアシュリーの目を見て言う。
アシュリーは久しぶりのアダムの綺麗な顔に、改めて"自分は助かったのだ"と実感した。
それと同時にエリザベスに対する申し訳なさが込み上げて来て、焦燥感が湧き上がる。
「早く陛下を助けないと!!!」
「兄上、アシュリーから聞いた情報をもとに、サンブルレイドの騎士たちには捜索させています。情報を他の部隊へも回すようにも指示しています」
「ああ、アシュリーが無事保護されたことと敵の情報を、昨晩速馬が知らせに来たよ。ヴィクター、迅速な対応に感謝する」
ヴィクターは頷き、再び作業に戻る。
アダムは再びアシュリーを見て言う。
「それで、何をしているのかな?」
「ノートを探しているのです! 陛下がそこにシャインブレイドの在処を記していると仰っていました! そして敵よりも先に見つけて欲しいと」
アダムは目を細めた。
「なるほど。私も探そう。その前にアシュリー、一言だけ」
アシュリーは「ん?」とアダムを見る。
「顔の傷が残ったら私のところにお嫁に来たら良いよ」
そう言って抱きしめた。
本気とも冗談とも判断しかねる表情で、ニッコリと笑って。
「さっ、探そう!」
すぐにアダムは固まっているアシュリーを離し、ノート探しを開始する。
その様子を目の当たりにしたヴィクターは、驚きに声が出なかった。
しかしすぐに"グッ"と拳を握り、気を取り直してノート探しを再開した。
固まっていたアシュリーは、一瞬目が合ったが何も言わずにすぐに作業に戻るヴィクターを見て、少しの寂しさを抱いてしまう。
そんな自分を恥ずかしく想い、アシュリーもすぐに作業を再開した。
更に10分後、エイダンとオーウェンも書斎へ到着する。
「医者は今出掛けているから、戻り次第アシュリーの診察に来るって! イーサン兄上は明日城へ戻って来る予定だって! アシュリー!無事で良かった!」
オーウェンはアシュリーに抱きつく。
エイダンは後ろからジッと二人を見ていたが、アシュリーに近付いて来た。
「……黒い球、今度は三個あげる」
「ありがとうございます! とても素晴らしい護衛物でした!」
差し出された巾着袋を、アシュリーは笑顔で受け取った。
「一通り見たが、見当たらないな……」
ヴィクターはため息をつきながら言う。
「何をしているの?」
「オーウェン殿下、陛下の秘密のノートを探しているのです。見た目は本と同じで……」
「ここも見た? 母上は大事な本はここに置いているんだよ」
オーウェンは中央の本棚の中央の段の本をどけ、板を取り外した。
すると奥には本が隠れているではないか。
「さすが探偵オーウェンだね」
アダムの声かけにオーウェンは満更でもなく、「へへん」と鼻を鳴らした。
「これは……」
アダムは深い緑色の本を一冊取り出し、中を開けた。
「ノートだ……」
「「「やった!」」」
アダムの言葉を聞き、アシュリーとヴィクター、オーウェンの声が重なる。
エイダンはボーっと後ろから見ていた。
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