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第四章 嘘が誠となる時

3:決行

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(決意が揺らがないうちにというのもあるけれど、少しでも早い方が良いわ。きっと仲間は他にもいて、シャインブレイドを探しているのでしょうし……)

アシュリーはこの一週間、ただ馬車に揺られていた訳ではない。
エリザベスと一緒に逃げる隙はないかと、ずっと観察をしていた。

(よしっ、やるわよ! 絶対に生きて陛下の命令を遂行する! そしてヴィクター殿下にまた会う!!!)

アシュリーは計画を決めた。

「夜の用を足す際に決行いたします」

同乗の男が交代する隙に、エリザベスにこそっとそれだけを伝えると、エリザベスは力強く頷いた。
そして二人は手を握り合う。

お互いと国の無事を願って……






(今夜はここで一晩を過ごすのね……)

暗くなってから馬車は、いつものように人気のない森の中で止まった。
そしてこの日最後の用を足しに外へ出た時、アシュリーは辺りを見渡した。

木々に囲まれ静まり返っている。
森は暗く、深く、今にも吸い込まれそうだ。

昨日から、顔に傷のある男の姿は見えなかった。
他の仲間に会いに行っているのかもしれない。

(あの人が戻って来たら、方針が変わる可能性があるわ)

アシュリーはそう考えていた。
おそらくそれまでは、今まで通りストレスを最低限にして穏やかに過ごさせて在処を聞き出そうという計画を続けるのではないかと。

馬車から20m ほどの所では、焚き火をしている。
12月に入り一気に冷え込み出したため、焚き火に手をかざしながら馬で移動している三人の男たちが話している。

(1日の終わりだもの、疲れも出て気が緩むわよね)

アシュリーは(よしっ)と思った。

アシュリー達を用を足しに連れでた監視役の男以外は、皆焚き火の所にいるのだ。

「あっ、あの、あちらの方が草が高いのであちらでも良いですか?」

アシュリーはぱっと見渡し、焚き火から遠く、森が暗い方をさした。

「ああ、どこでも良いから早くしてくれ」

アシュリーはエリザベスの手を取って草が高く男から見渡し難い所まで入る。
歩きながらエリザベスにアイコンタクトをすると、エリザベスは頷いた。

今まで不審な行動を一切起こしていないアシュリーとエリザベスに油断をしたのだろう。
見張りの男は、二人から10mほどの所で焚き火の方を見ている。

「あれ、アシュリー、脱げないわ」

「あっ、引っかかっていますね。少しお待ち下さいね」

二人は会話をしながら、アシュリーは森の方を見渡す。
真っ暗だが、走り去れそうな方向を見定める。

(あそこだ! 森に囲まれて育ったのだから、森の中はお手のものよ!)

アシュリーは自分にそう言い聞かせる。

アシュリーとエリザベスは握手をし、ジッと見つめ合った。
チラッと男を見て、こちらを見ていないことを確認する。

「はい、取れましたよ。あ、気をつけて下さい! ゆっくりしゃがみましょう」

そう言いながらアシュリーはそっと森の奥へ去って行く。

「アシュリー、これはどうなってるのかしら? アシュリー、ちょっとこっちを持っていてくれる?あらら……」

エリザベスはアシュリーの音を掻き消すように、少し大きめの声で話し続ける。

数分後、ボーッとしていた男がふとエリザベスの方を見るが、しゃがんでいると後頭部が少し見えるだけで草が高くてよく見えない。

「まだか?」

「少し待って下さい! ……あっ、あの、お察し下さい! 」

「ああ、大きいほうか」

エリザベスは恥を忍んで時間稼ぎをする。

また数分後、男は声をかける。

「おい、良い加減にしろよ! 途中でも終われ! 戻って来い!」

「はーい、もう戻ります!」

エリザベスはわざとゆっくりと戻る。

「お兄さん、シャインブレイドはどこにあるのかしら?」

「はっ?」

「あれっ? ここはシャインブレイドを隠している森ではなかったかしら?」

「へっ!? あっ、そうそう、シャインブレイドを隠している森だ。えーっと何て名前の森だったかなぁ、ここは」

男の必死の形相に、エリザベスは調子が乗ってくる。

「あの大きな木はどこだったかしら?」

「大きな木!?」

「ええ、大きな木の根元に箱に入れて埋めたじゃない。忘れたの?」

ふふっとエリザベスは笑う。

「どんな木だったかな!?」

「大きな木よ。あなたと私の思い出の木。ね、ローレン覚えているでしょう?」

エリザベスは話しやすいように、男を夫のローレンだと思い込んでいることとした。

そんなエリザベスの嘘八百が繰り広げられる中、やっと巡って来たチャンスを物にしようと、男は一生懸命聞き出そうとする。

「おい、どうした?」

男がヒートアップして声が大きくなったため、焚き火にいた男が一人やって来た。

「シャインブレイドの在処の話をしていたのだ!」

「それで、もう一人の女はどこだ?」

やって来た男は冷静に言う。

「へっ?」

見張り役の男の顔が、一気に青ざめた。

そこで初めてアシュリーがいないことが男たちに知られることとなり、三人の男たちはすぐに馬に跨り探しに出た。

しかし既に、エリザベスは約二十分もの時間を稼ぐことに成功していたのだった。


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