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第二章 シャインブレイド

11:サンブルレイド領⑦:アシュリーとヴィクター

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ティーカップを握って難しい顔をしているアシュリーに、ヴィクターは優しく言う。

「王子たちは皆、君を歓迎しただろう?」

「……はい」

エイダンには歓迎されているのか不明だが、アシュリーは敢えて口にはしなかった。

「君の身元が確かなのもある。マーズ様という、母上が父上に並んで信頼していた方のご令嬢だということもある。マーズ様亡き後も母上がずっと気に掛けていたことも知っている。そのような人が、病の母上のそばにいてくれることは、単純にとても嬉しい。しかしそれだけではなく、そういった情報も欲しいと王子たち……特に兄上たちは考えていると思う。だから皆、アシュリーを歓迎しているのだ」

「……とても納得いたしました。陛下のご希望にも、王子殿下たちのご希望にも、出来る範囲で添えることができるように頑張ります」

アシュリーはキリッとした顔で、笑顔のエイダンに向けてそう言ったあと、忘れずに一言付け加えた。

「ただし、私が優先するのは陛下ですので」

ヴィクターは思わず吹き出した。

「ははっ! いいね、アシュリー。そういうハッキリした性格は好きだよ」

"ボッ!!!"

これは、アシュリーの顔に火が付いた音である。
実際には勿論火はついていないのだが、それほどまでにアシュリーは、一瞬のうちに顔を真っ赤にしたのた。

「殿下……私は免疫がないのです。そう言った冗談を言うのはおやめになって下さい」

真っ赤な顔で俯いてアシュリーは言った。
ヴィクターは驚いた顔で言う。

「えっ、免疫がないのか? そんなに可愛いのに」

「……殿下!???」

(面白がられているのかしら?)

アシュリーは顔を上げて、思わずヴィクターを睨んだ。

「えっ、だって本当に可愛いし綺麗な顔をしているではないか」

「……おやめ下さい。全然女らしくないので、全く異性に見向きをされないのです」

(何でこんなことを、わざわざ殿下に自分から言わないといけないのよ……)

アシュリーは思わず目に涙を浮かべた。

「女らしくない? どの辺りが?」

ヴィクターは不思議そうな顔で純粋に尋ねてくる。

「背が高くてガリガリで、色々ぺっちゃんこで……って、何を言わすのですか! もう勘弁して下さい!」

アシュリーは虚しくなり本当に泣きそうになった。
必死に涙を堪えていると、こちらも必死な声でヴィクターが言う。

「すまない。それほどまで気にしているとは思わずに……。では、俺のコンプレックスも教えよう!」

「えっ?」

アシュリーは驚き咄嗟に涙が引っ込んだ。

「俺もこの貧相な身体がコンプレックスなのだ。どんなに鍛えても、イーサン兄上のような鎧の筋肉美にはなれない」

たしかにヴィクターの筋肉は細かった。イーサンのような身体の大きさも威圧感もない。

「やはり騎士の方にとって、身体の大きさは重要なことなのですか?」

「そうとも限らないが、イーサン兄上のパワーは凄いのだ。少々の攻撃ではびくともしないし……。父上に似たあの身体を受け継いだのはイーサン兄上だけなのだ。オーウェンはまだ可能性はあるかもしれないがな。……ずっと俺は、あの身体に憧れて鍛錬に励んだのだが、無理だと悟って諦めたのだ」

「そうなのですね……努力が身を結ばずに残念でしたね……」

(ここサンブルレイドを継ぎたいと仰っているし、ヴィクター殿下もきっとお強いのでしょうね……)

アシュリーは真っ直ぐなヴィクターの努力を想像し、また自分とも重ね、同情心が芽生えてしまう。

(生まれもった体型はどうしようもないもの……)

「ははっ。そう暗くなるな!俺は戦術を変えたのだ。この身軽さを活かす戦術にね」

アシュリーは明るい表情のヴィクターを真正面から見つめる。

「アシュリー、長所と短所は背中合わせだ。捉え方によって変わる。俺は武術を極めることは、生涯諦めない。アシュリーも自虐的になるな!」

「はいっ!」

アシュリーは反射的に返事をしていた。

「俺たちは年も一つしか違わない。共に成長していこうではないか!」

ガッツポーズをしながら、キラキラ輝く瞳でアシュリーを見るヴィクターに、アシュリーは漲る力を感じる。

「はい。私もヴィクター殿下のように、素敵な人間になれるように頑張ります」

「ほらっ!そーゆーところ! ……これは中々根が深いな」

「あっ、すっ、すみません! 陛下にも言われたのに……」

「ああ、俺たちは幼い頃から自分を卑下しないことを教えられて来たからな。アシュリーもおいおいな!」

「……はい」

おずおずとアシュリーは言ったが、ヴィクターと目が合い、二人は大きく笑った。

(ふふっ。励まされてしまったわ……)



こうして、ヴィクターのケロッとした明るさにより、緊張することなく夜を過ごすことが出来たのだった。

ベッドをどちが使うかだけはどちらも譲らなかったため、ジャンケンで決着をつけたのだった。


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