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第二章 シャインブレイド

10:サンブルレイド領⑥:シャインブレイド

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「頼みとは、一体何でしょうか?」

「シャインブレイドのことは知っているか?」

「シャインブレイドですか? 国王が代々受け継いでいるという剣だと認識していますが……」

アシュリーは、急に意外な名称が出て来て驚いた顔をしている。

「ああ、そうだ。正確には、この国の武力を指揮するトップである騎士団統括が継承して来たのだ」

「武力を指揮するトップ……」

「ここブルック王国は、農作物も豊かで宝石や鉱石も眠っているなど、とにかく資源が豊かだ。おまけに気候もよく、天災も少ない。様々な国に"あわよくば自国に"と狙われており、戦争の多い国である。そのため我が国は、自国を守るために騎士が多い。各領地には騎士団があり、更にサンブルレイドには3つ、王都には5つの騎士団がある」

「はい。その全国騎士団のトップである騎士団統括が、ローレル殿下だったと把握しております」

騎士団統括が強い権力を誇示しているのは当然だろう。
今までは女王陛下の夫であるローレル殿下が、騎士団統括だった。
一年前に亡くなってからは、それまでNo.2だったグリーフが代理をしている。
因みに、グリーフが王子たちへ武術を教えたそうだ。

「その通りだ。今までは武力に長けた人物が国を継いでいたこともあり、国王が騎士団統括であることが殆どで、シャインブレイドも一人に受け継がれて来た。だが今回は国王ではない父上が統括であったため、母上と父上の二人が共同でシャインブレイドを受け継いでいるのだ」

「そうなのですね」

(何が問題なのかしら?)

アシュリーは話の意図がわからなかった。

「そのシャインブレイドを持つ者が、国の武力を指揮出来ると言われている。勿論、本来は国王の発言の方が上なのだがな」

「……はぁ……」

真面目に話続けるヴィクターに、アシュリーは思わず間抜けな声をあげてしまう。

「つまり、この国を乗っ取るのに、シャインブレイドを奪うことが手っ取り早いということだ」

「えっ!?」

アシュリーはいきなりの核心に、目を見開いた。

「ここサンブルレイドと同じで、騎士の中にも野心を持つ者や、騎士を挫折し町で悪事を働く者……様々いる。王家に反発心を持っている者も少なくない。なんなら、乗っ取ろうと企んでいる者もいる」

(この国はそんなに物騒なの……!?)

アシュリーは、自分が平和ボケしていたことを恥じた。

「シャインブレイドを手に入れ、"我がこの国の武力を指揮する者だ、皆続け!"と声をあげるものがいれば、間違いなく反乱が起きる。国は揺れる」

「……」

「シャインブレイドは、盗難防止に継承された者しか在処を知らないのだ。もしこのまま母上の物忘れが進み、シャインブレイドの在処を次期継承者へ伝える前に伝えることが出来なくなることを、私たちは心配している」

「なるほど……」

アシュリーはやっとヴィクターの発言の意図がわかり、考え込む。

(物忘れは嘘だとは言えないし……)

「あっあの、そのシャインブレイドが人目に晒される機会はあるのですか?」

「ああ、ある。騎士団のトップが変わる就任式の時に、直接前任者から後任者へ手渡される。あとは、大きな戦争の決起会で皆の士気を高めるために、騎士団統括が壇上で高々と掲げるのだ」

アシュリーには想像もつかない光景だった。

「騎士の方々の士気を高める、大切な役割のある剣なのですね」

「そうなのだ。不思議と、そのシャインブレイドを見ると力が漲って負ける気がしないのだ。実際に負けていないしな」

「いつから受け継がれているのでしょう?」

「起源はわかっていないのだ。ただ、この国の歴史の一番古い書物に、"シャインブレイドが国の守り神である"と記載されている」

遠くを見るような目で話すヴィクターを見ながら、アシュリーは言う。

「とても大切な剣だということが、よくわかりました」

「それはよかった。つまり、母上がシャインブレイドのことを何か言っていたら教えて欲しい。そして、病気が進行し自分で物事の判断が出来なくなる前に、時期国王及び騎士団統括を任命するように、出来たらアシュリーにも働きかけて欲しいのだ」

「なっ……!? そんな大それたこと、私には荷が重過ぎます!」

慌てふためくアシュリーを見て、ヴィクターは苦笑いした。

「だよな。アシュリーに頼むべき内容ではないよな。ただ、この内情は知っておいてくれ。そして、何かわかれば、そして母上の病気の進行具合を、教えてほしい」

「……わかりました」

(両方のスパイになってしまった感じね……)

アシュリーはゴクリと唾を飲み込んだのだった……


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