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第二章 シャインブレイド
7:サンブルレイド領③:おつかい
しおりを挟む結局食堂で店主のおすすめをいただいたアシュリーは、ヴィクターと向かい合って同じ物を食べるることにむず痒さを感じた。
「同じ釜の飯を食べたな。これで仲間だな!」
アシュリーが恐縮がっていると、ヴィクターはそう言って"ニカッ"と笑う。
"ドキドキ"
アシュリーは、胸の鼓動が速くなるのが多いことを、自覚し始めていた……
腹ごなしをしたあと、二人はエリザベスのお使いに行った。
サンブルレイドで最近流行っている、平べったい小麦粉のパンのような物を買って来て欲しいと言われたのだ。
店へ向かいながら、ヴィクターは説明をしてくれる。
「新鮮な物は入り難いが、小麦は隣の領地からたくさん仕入れることができていて豊富なのだ。それを、町の物が日持ちのする主食を……と、色々試行錯誤してくれているのだ。町には騎士の家族が多いからな」
「なるほど、遠征へ出る時に持って行けたら良いですものね」
「そうなのだ。パンは嵩張るしな。これは、薄くて持ち運びやすい。しかも小麦の密度が高くて、腹持ちも良いのだ」
とても丁寧にアシュリーに説明してくれるヴィクターの真面目な横顔を、アシュリーはジッと盗み見ていた。
「王都にはないからな。興味があるのなら、俺が持って行ったのに。わざわざアシュリーに遠路はるばる来させなくても……」
「陛下はきっと、私にサンブルレイドを見せたかったのだと思います。陛下は私に、勉強する機会を下さったのかと……」
エリザベスは、ヴィクターと二人の時間を過ごすだけではなく、アシュリーに外の世界を見せようとしてくれたのではないかと、アシュリーは思っていた。
「そうか……。"アシュリーのことは頼んだ"と母上から手紙を貰っている。短い間だが、しっかりエスコートするから任せてくれ!」
またしてもヴィクターの満面の笑みに、アシュリーは眩暈がしそうになる。
(この人は何というか……人たらし?)
アシュリーは、どんどんヴィクターから目が離せなくなって行っていた。
無事におつかいを済ませたあとは、ヴィクターが領内を馬で案内してくれた。
そうこうしているうちに日が暮れ、夕飯を済ませたあと、ヴィクターはアシュリーを町の宿へ連れて来てくれた。
「ヴィクターでん……ヴィクター様、本日は大変ありがとうございました。宿の手配までしていただき、申し訳ありません」
「町の宿で申し訳ない。本当は公爵邸へ宿泊させてもらえる予定だったのだが、公爵のご両親が急遽屋敷へ泊まることになったそうだ。久しぶりにお会いになるのに、私たちに気を遣わせては申し訳ない。私たちはここへ泊まろう」
アシュリーは別れの前に一日のお礼を言ったつもりだったが、何やら信じられない言葉が聞こえて来た。
「へっ……私たち?」
「ああ、俺も泊まる」
「えっ! そんな! ヴィクター様はどうぞ公爵様のお屋敷へお戻り下さいませ!」
「言っただろう? 治安が悪いのだ。アシュリー一人で町の宿に泊めるなんて出来ない。母上もお許しにならないだろう。隣の部屋も考えたが、それでは何かあった時にすぐに対処出来ないし心配だ。不満だろうが、同室を許してくれ」
「ど……同室!???」
テーブルへ荷物を置きながら淡々と言うヴィクターを見ながら、部屋の入り口でアシュリーは目を真ん丸に見開いて固まっている。
「母上にアシュリーのことを託されたのだ。俺には責任がある。我慢してくれ」
ヴィクターは真面目な顔でアシュリーを見て言う。
アシュリーが何も返事を出来ずにいると、ヴィクターが再び口を開いた。
「安心しろ。襲わないから」
"ニヤッ"とした笑みを浮かべてそう言うヴィクターに、アシュリーは一気に顔を真っ赤にした。
「なっ、そのような心配は全くしておりません!」
「そうか、なら問題ないな」
(ああ、もう。心臓がもつかしら……)
そう思いながらも、アシュリーは観念した。
「ああ、けど、俺以外は信用したら駄目だぞ? 俺以外の男は全員、ちゃんと疑えよ!」
そう言うヴィクターを、アシュリーはただ呆然と見ることしか出来なかった。
(……ヴィクター様は疑わなくて良いんだ……)
アシュリーは何故か、少しの寂しさを感じたのだった……
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