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第一章 女王と五人の王子たち

12:第四王子エイダン&第五王子オーウェン②

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エイダンが残骸を持ち去ったことで片付けが終わったアシュリーも、その場を立ち去ろとした。

その時、アシュリーは急に何かに飛び掛かられた。

「キャッ!!!」

「ワンッ!!!」

「えっ、犬!?」

犬に飛び掛かられた反動で思わず尻もちをついてしまったアシュリーは、アシュリーの腕にスッポリ収まるサイズの真っ白なフワフワの犬に、そのまま顔をペロペロと舐められている。

「ちょっ、ちょっと……」

アシュリーがあたふたしていると、犬は急にアシュリーから離れた。
何かを見つけたようで、口に咥えて、再びアシュリーの所に戻って来た。
何かを咥えたまま頭を低くして、お尻を上げて尻尾をフリフリと振っている。

大きなまん丸の目は、『遊んで』と言っているかのように輝いている。

「君、お名前は?」

アシュリーが話しかけると、その犬は伏せて謎のものをカジカジと噛み出した。
とても集中していて、話しかけても犬はアシュリーの方を見てはくれない。
元々自分に自信のないアシュリーは、犬に無視されて少し傷付いてしまう。

「ねー、こっちを向いてよー」

犬はアシュリーにそっぽを向いて、一心不乱に噛み続けている。

「可愛いけど、こっちを向いてくれないと可愛くないわよー」

誰か来たら恥ずかしいので、アシュリーは犬にだけ聞こえる声の大きさで話しかける。

「ねー、こっち向いてよー」

そこでアシュリーは、ふと思いついた言葉を口にしてみた。

「お菓子!」

そう呼ぶと、犬は目を輝かせてアシュリーの膝の上に飛び乗って来た。

「わっ!凄いジャンプ力ね! って、ちょっと落ち着いて!!! ごめん、嘘なの!!! 何もあげられるものはないのー!!!」

あまりの犬の興奮ように、アシュリーは再び地面に尻もちをついてしまう。
犬の興奮は落ち着かず、ハアハアとどんどん息が上がっている。しかし、目の輝きは一向に失われる気配がない。

その時、"ガシャガシャ"と袋の音が大きく響いた。
その音に反応した犬は、そちらの方へ走って行く。

そこにはエイダンが立っていて、犬に何か食べ物を与えたようだ。
犬は嬉しそうに尻尾を振りながら、何かを食べている。
そしてエイダンは、その隙に先ほどまで犬が咥えていた物を回収した。
どうやら、さっきの残骸の残りのようだ。

「あっあの、ありがとうございます。助かりました」

エイダンは何も言わず、犬を眺めている。

「あっあのっ、第四王子殿下、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません! 私は女王陛下の侍女としてやって参りました、オーグナー伯爵の娘アシュリーでございます」

アシュリーは立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。

「……この犬、オーウェンの」

それだけを言ってエイダンは立ち去ろうとするが、犬が脚にまとわりついて思うように足を進めずにいる。

(普段から交流があるのかしら? 随分懐いているわね……)

アシュリーがエイダンと犬の戯れ(エイダンは少し迷惑そう)を、ほのぼのと見ていると、声がした。

「パン!」

その声に犬は一瞬反応したが、チラッと見ただけで、エイダンに飛び掛かり続けている。

「もー!!! パンは本当にエイダン兄様のことが好きなんだからー! 僕の犬なのにー!!!」

膨れっ面をしながら近付いてくる人物を見て、アシュリーは驚く。
記憶の中のオーウェン第五王子はまだまだ子どもだったが、今目の前に居るオーウェンは少年の姿だったからだ。
身長もアシュリーより少し低い程度だ。

アシュリーが月日の流れを実感していると、エイダンが犬をホイッと抱えてオーウェンに渡した。
犬はエイダンに向かってキャンキャンと吠えているが、お構いなしにエイダンは去って行ったのだった。


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