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第一章 女王と五人の王子たち
9:第三王子ヴィクター①
しおりを挟む翌日、アシュリーはエリザベスに中庭へ呼び出された。
アシュリーは城入りして一週間も経たないが、庭にはよく来ている。
城の中央に中庭があるため、中庭を通る方が近いことがよくあるのだ。
そんな中庭のメイン通路から少し離れたところに、こじんまりと可愛らしい猫脚のテーブルと椅子があった。
そこに座ってお茶を飲んでいるエリザベスは、アシュリーに気付いて話しかける。
「アシュリー、部屋の花をかえてくれていたのよね? 呼び出してごめんなさい。急な来客があるから、同席して欲しくて呼んだの」
「来客ですか? ……わかりました」
アシュリーは(誰だろう?)と思いながら、エリザベスの後ろへ控える。
するとすぐに来客者がやって来た。
「陛下、ご無沙汰しております」
「本当よ。サンブルレイド領ばかりに行っていないで、もっと元気な顔を見せに帰って来てちょうだい」
そう言いながら二人は抱き合う。
アシュリーはエリザベス越しに、その訪問者を見つめる。
エリザベスの頭の上から、その人物の顔が出ているのだ。
(あっ! 第三王子殿下だわ!!!)
アシュリーが思い出せたことにスッキリした気分になっていると、急に話しかけられた。
「アシュリー、紹介するわね。第三王子のヴィクタよよ。ヴィクター、こちらはアシュリー。私の親友マーズの娘で、侍女兼話し相手として城に来てもらったの」
エリザベスの紹介を受けて、アシュリーはすぐに挨拶をする。
「アシュリーと申します。よろしくお願いいたします」
「はじめまして。ヴィクターです。母がお世話になっています」
ヴィクターはイーサンほどではないが、堅物そうな第一印象をアシュリーは受けた。
それほどキチッとした姿勢で、騎士の挨拶をされたのだ。
(アダム殿下やイーサン殿下とはまた違う、でも印象に残るオーラのある人ね……)
アシュリーは不思議とヴィクターから目が離せなかった。
ヴィクターは20歳で、アシュリーの三つ年上でイーサンの一つ年下だ。
173cm、73kgのいわゆる細マッチョの体型であるヴィクターは、腰に剣をさしているから騎士なのだろう。
体格の違いもあるからだろうが、イーサンのような威圧感は一切ない。
「アシュリーを紹介したかったから、丁度良かったよ。良いタイミングで来てくれたね」
エリザベスは上機嫌でそう言う。
「俺は、いつものお伺いの訪問のつもりだったんだけどな」
ヴィクターは苦笑いでボソッとそう言うと、エリザベスはその言葉を拾って笑顔で言った。
「ははっ。やっぱりいつものなのね! 私の答えもいつもと同じで、"ノー"よ」
(いつもの……?)
アシュリーが不思議そうに佇んでいるのに気付いたヴィクターは、わざわざ説明してくれる。
「私はサンブルレイド公爵の養子になって跡を継ぎたいと考えているのです。そのお許しが、陛下から中々いただけずに困っているのです」
真顔でわざとらしく"はあっ"とため息をついてそう言うヴィクターの様子から、この二人のやりとりが日の浅いことではないことが伺える。
(何度もこのやり取りを繰り返しているのね……)
「アシュリー、もう下がって良いよ」
アシュリーがアシュリーの知らない親子の歴史を感じていると、エリザベスにそう言われたので一言挨拶をして立ち去ろうとした。
その時……---
「アシュリーさん!」
ヴィクターに急に呼び止められて驚いて振り返ると、透き通った青い瞳と目が合った。
"ビュウッ"
急に吹いた風にヴィクターの綺麗な金髪がなびく。
サラサラの前髪が上がり、お目見えしたおでこをアシュリーは思わず見つめた。
(形の良いおでこ。綺麗な青い瞳。綺麗な金髪……)
ボーっとしているアシュリーに、ヴィクターは真面目な顔で言う。
「母のことを宜しくお願いします! 何かあればいつでも……俺はいつもこの城にはいないから……何かあれば兄たちに言って下さい! 遠慮なく! 優しい兄たちなので、何でも聞いてくれるはずです! ……とにかく、よろしくお願いします!」
そう言って、アシュリーに頭を下げた。
「なっ! 殿下!!! なりません! おやめ下さい! 頭を上げて下さい!!!」
アシュリーは慌ててそう言うが、ヴィクターは頭を上げない。
「わかりました! 私に出来る最善を尽くさせていただきます! 何かあればすぐに王子殿下のどなたかに相談することもお約束いたします!!!」
その言葉を聞いてやっとヴィクターは頭を上げ、”ニッ”と笑って言った。
「約束ですよ」
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