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第一章 女王と五人の王子たち

1:女王エリザベス

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「アシュリー、私の話し相手として城に来てはくれないかしら?」

ブルック王国の女王であるエリザベスは、アシュリーの母マーズの墓参りの後でオーグナー伯爵邸を訪れて言った。

エリザベスは年に最低二回は墓参りをし、その足で必ず、ローズの夫であるモーグナー伯爵と長女アシュリー、次女ペニーの様子を伺いに来てくれる。
今年十七歳になるアシュリーは、黒髪にグリーンの瞳といういで立ちで、亡き母マーズにとてもよく似ていた。

「女王陛下、それは一体どのような御意向でしょうか?」

四人で談笑中にエリザベスのした突然の発言に、驚きながらもアシュリーの父が口を開いた。

「私の子どもは男ばかり五人だし、女の話し相手が欲しいのよ。年々マーズに似てくるアシュリーを見ていたら、マーズを思い出して懐かしいしね」

「そうゆうことなら是非、城に通わせましょう」

お茶を啜りながら昔を懐かしむように言う女王に、伯爵は笑顔で快諾する。

「いえ、城に住んで欲しいのよ。そうね……侍女としてそばにいて貰うのはどうかしら?」

この国の王であるエリザベスは、現在四十五歳である。158cm、58kgとややぽっちゃりした体型で、一見"町のおばちゃん"という見た目だ。
しかし、なんとも言えない独特のオーラがあり、とても貫禄があった。

「えっ……!?」

黙って話を聞いていたアシュリーは思わず驚きの声が漏れ、すぐに口を手で塞いだ。
そんなアシュリーを見て微笑んだ女王エリザベスは、オーグナー伯爵を見て尋ねる。

「伯爵、今のこの領地の一番の問題点は何だと考えているかしら?」

「えっ、はっはい、今年は農作物も豊作ですし、今は特に問題は見当たらず順調です。なので、これが維持できるように領主として精一杯努める所存でございます」

「そう。領地が落ち着いていて何よりだわ」

「はい、ありがとうございます」

突然の質問に驚きながらもすぐに答えた伯爵との会話の後、女王エリザベスは再びアシュリーを見て口を開いた。

「アシュリー、あなたはこの領地の一番の問題点は何だと考えているかしら?」

「えっ……!?」

再び驚きに声が漏れたアシュリーだが、今度は口を手で覆う余裕はなく、口をポカンと開けている。
いつも女王エリザベスは、会う度にアシュリーに色々と質問をして来る。
その内容は、ただの近況から始まり、ここ数年は知識や思考を問うようなことを尋ねてくるようになっていた。

アシュリーはグッと口を一旦つぐんだ後、緊張しながら口を開いた。

「私は、子どもや若い人が少ないことが問題だと考えています」

「少ないの?」

「はい。昨年領地で亡くなった人数は十人なのに対し、産まれた子どもは三人です。そして、十五歳から五十五歳までの働き盛りの人数の割合は、年々減少しています」

「それは何故だと考えているの?」

「若い世代に領地を出る人が多いからです。ここオーグナー領は農耕が主です。しかし隣のラングール領は、王都に隣接していることもあり、商業が盛んで活気があります。そのラングール領へ若い世代が移住するケースが多発しているのです」

「そう……では、ここオーグナー領はどうするのかしら?」

伯爵は二人の会話を眉を顰めて聞いている。
いつもアシュリーと意見交換をしている二つ下で十五歳のペニーは、アシュリーの横で大きく頷きながら聞いていた。

「はい、ここオーグナー領も農耕のみに頼る時代は終わるべきだと考えております。農業は気候にも影響され易く不安定です。他の収入源を作ることで領地の安定と領民の安心にも繋がり、領地の活性化にも繋がると考えています。具体的内容については現在ペニーと考えているところで、意見が纏まり次第、父へ提案しようと考えていたところです」

アシュリーは、結論の出ていないあやふやなことは言わなかった。
そこもまた、女王エリザベスは好ましく感じる。ニコッと笑い、再びモーグナー伯爵を見て言う。

「いずれここの領地はアシュリーかペニーが継ぐ予定なのよね。姉妹二人で切磋琢磨しながら勉強をしている様子を、私はいつも女王として心強く思いながら見ています。男児はいなくても、ここオーグナー領は安心ね」

「……はい、二人とも妻に似て聡明に育ってくれております……」

面目なく居心地が悪そうに、伯爵は苦笑いで言った。

「アシュリーがそばにいてくれたら、私はとても嬉しいわ。城での生活は学びも多いと思うわよ? アシュリー、どうかしら?」

アシュリーは目を輝かせる。

「……お父様さえよろしければ、私は是非行きたいです」

アシュリーは父の顔を伺う。
伯爵は駄目だなどと言えるわけがないなかった。

「陛下、アシュリーをよろしくお願いいたします」



アシュリーは領地経営を学ぶにつれ、王都や城への興味関心は増していた。
そしてしばしば来訪してくれて母の親友だった、ここブルック王国の現トップに君臨するこの女性に対しても、関心が増すばかりだったのだ。

(城や王都での生活……楽しみだわ。勉強にもなるはず。将来領地に還元できる知識を身に付けたいわ。それに、お母様の話も聞く機会があると良いな……)

アシュリーはそのようなことを思いながら、初めての領地を出ての新しい生活に心を躍らせた。



こうして、アシュリーは女王エリザベスの侍女として城で生活することとなったのだ。

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