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36:みんなでお出掛け
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「外は寒いですから、温かくして出掛けましょうね」
そう言いながら、マリーはフリージアとリリーを着込ませた。
時は1月、リリーはもうすぐ1歳になろうとしている。
「マリー、今日は誘ってくれてありがとう。雪が積もらなくてよかったわね。馬車もスムーズに進めるわ」
支度を早く終えたローラは、侍女アリスを連れて子供部屋を訪ねて来た。
実際はあまり上質とは言えない毛皮のコートを身に纏っているが、来ているローラの品の良さが滲み出ており上質な物に見える。
「こんにちは、ローラ様。お天気が良くて良かったですね。フリージア様とリリー様も、今支度が出来たところです」
「そう、それはちょうど良かったわ! アリス、私の鞄を持ってくれる? 私はリリーを抱っこするわ」
そう言うとローラは、リリーを手慣れた様子で抱っこした。
「さあ、リリー、フリージア、行きましょう!」
「いくー!」
駆け出しそうになったフリージアの手を、マリーは慌てて取る。
「フリージア様、手を繋いで行きましょう」
マリーは自分の質素なコートを腕にかけ、フリージアに引っ張られるように歩いた。
マリーの身の回りの物は全て、使用人達のお下がりだ。
離縁時に、自分の服や装飾品などは好きにして良いと言われたため、全てを換金して少しの金を手元に残し、残りは兄であるブルースへ渡したのである。
その自分に残した金で、マリーはフリージアとリリーの頭文字である"F &L"という文字を彫ったネックレスを作った。
一生のお守りにしようと思ったのだ。
この先何があろうと、頑張り抜くために……
そのネックレスは、いつも肌身離さず身に付けている。
階段を降りると、マストが待っていた。
「伯爵様、本日はご一緒させていただけて嬉しいです」
ローラは満面の笑みでマストへそう言う。
「ああ……。さあ、行くか」
マストはローラと目も合わせずに、外へ出て行った。
寂しそうなローラの後ろ姿を見ながら、マリーは複雑な想いを抱く。
(ホッ……あれ? 私は何でホッとしているの。そうか、やっぱり旦那様とローラ様の仲の良い様子を見るのは複雑なのね……。前妻だもの、当然のことよね。うん)
マリーはそう自分を納得させながら、続けて思う。
(それにしても旦那様、全然練習の成果が出ていませんよ? あれでは以前と全く変わらないではないですか……。照れているのかしら?)
フリージアに引っ張られて我に返ると、ローラはもう既に馬車に乗っていた。
「フリージア、おいで」
マリーが手を離すと、馬車の前で待っていたマストの元へフリージアはよちよちと駆け寄った。
「ぱぱー!」
マストに抱きかかえられるフリージアを見ながら、マリーはマストへ声を掛ける。
「旦那様、馬車はひとつですか?」
「ああ」
「それなら、狭いと思うので私はご一緒するのを遠慮いたします」
てっきりふたつ用意されていると思っていた馬車が一つなのだ。
当然、大人三人と子供二人が乗ればぎゅうぎゅうで狭い。
「駄目だ。私の条件は守ってもらう」
「しかし旦那様、狭いですよ……」
真顔で言うマストに、マリーは困り顔で返した。
そう、マストの出した今回の外出条件は、”マリーも同行する事”なのだ。
「馬車が二つあれば、マリーはどちらに乗る?」
「それはもちろん、四人で一つに乗っていただいて、私は荷物と一緒にもう一つの馬車に……」
「そう思って一つにしたのだ。詰めれば大丈夫だ。町までは30分程度だしな。さあ、行くぞ」
そう言ってマストは、フリージアと馬車へ乗った。
(大人がローラ様だけだと、さすがにまだ気まずいと考えられたのかしら……)
マリーは諦めて馬車へ乗ることとした。
扉を開けると、左手側にはマストとフリージアが、右手側にはリリーを抱っこしたローラが乗っている。
仕方なくマリーは空いている、ローラの隣でマストの前に腰を下ろしたのだった……
そう言いながら、マリーはフリージアとリリーを着込ませた。
時は1月、リリーはもうすぐ1歳になろうとしている。
「マリー、今日は誘ってくれてありがとう。雪が積もらなくてよかったわね。馬車もスムーズに進めるわ」
支度を早く終えたローラは、侍女アリスを連れて子供部屋を訪ねて来た。
実際はあまり上質とは言えない毛皮のコートを身に纏っているが、来ているローラの品の良さが滲み出ており上質な物に見える。
「こんにちは、ローラ様。お天気が良くて良かったですね。フリージア様とリリー様も、今支度が出来たところです」
「そう、それはちょうど良かったわ! アリス、私の鞄を持ってくれる? 私はリリーを抱っこするわ」
そう言うとローラは、リリーを手慣れた様子で抱っこした。
「さあ、リリー、フリージア、行きましょう!」
「いくー!」
駆け出しそうになったフリージアの手を、マリーは慌てて取る。
「フリージア様、手を繋いで行きましょう」
マリーは自分の質素なコートを腕にかけ、フリージアに引っ張られるように歩いた。
マリーの身の回りの物は全て、使用人達のお下がりだ。
離縁時に、自分の服や装飾品などは好きにして良いと言われたため、全てを換金して少しの金を手元に残し、残りは兄であるブルースへ渡したのである。
その自分に残した金で、マリーはフリージアとリリーの頭文字である"F &L"という文字を彫ったネックレスを作った。
一生のお守りにしようと思ったのだ。
この先何があろうと、頑張り抜くために……
そのネックレスは、いつも肌身離さず身に付けている。
階段を降りると、マストが待っていた。
「伯爵様、本日はご一緒させていただけて嬉しいです」
ローラは満面の笑みでマストへそう言う。
「ああ……。さあ、行くか」
マストはローラと目も合わせずに、外へ出て行った。
寂しそうなローラの後ろ姿を見ながら、マリーは複雑な想いを抱く。
(ホッ……あれ? 私は何でホッとしているの。そうか、やっぱり旦那様とローラ様の仲の良い様子を見るのは複雑なのね……。前妻だもの、当然のことよね。うん)
マリーはそう自分を納得させながら、続けて思う。
(それにしても旦那様、全然練習の成果が出ていませんよ? あれでは以前と全く変わらないではないですか……。照れているのかしら?)
フリージアに引っ張られて我に返ると、ローラはもう既に馬車に乗っていた。
「フリージア、おいで」
マリーが手を離すと、馬車の前で待っていたマストの元へフリージアはよちよちと駆け寄った。
「ぱぱー!」
マストに抱きかかえられるフリージアを見ながら、マリーはマストへ声を掛ける。
「旦那様、馬車はひとつですか?」
「ああ」
「それなら、狭いと思うので私はご一緒するのを遠慮いたします」
てっきりふたつ用意されていると思っていた馬車が一つなのだ。
当然、大人三人と子供二人が乗ればぎゅうぎゅうで狭い。
「駄目だ。私の条件は守ってもらう」
「しかし旦那様、狭いですよ……」
真顔で言うマストに、マリーは困り顔で返した。
そう、マストの出した今回の外出条件は、”マリーも同行する事”なのだ。
「馬車が二つあれば、マリーはどちらに乗る?」
「それはもちろん、四人で一つに乗っていただいて、私は荷物と一緒にもう一つの馬車に……」
「そう思って一つにしたのだ。詰めれば大丈夫だ。町までは30分程度だしな。さあ、行くぞ」
そう言ってマストは、フリージアと馬車へ乗った。
(大人がローラ様だけだと、さすがにまだ気まずいと考えられたのかしら……)
マリーは諦めて馬車へ乗ることとした。
扉を開けると、左手側にはマストとフリージアが、右手側にはリリーを抱っこしたローラが乗っている。
仕方なくマリーは空いている、ローラの隣でマストの前に腰を下ろしたのだった……
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