【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!

ひかり芽衣

文字の大きさ
上 下
36 / 51

36:みんなでお出掛け

しおりを挟む
「外は寒いですから、温かくして出掛けましょうね」

そう言いながら、マリーはフリージアとリリーを着込ませた。

時は1月、リリーはもうすぐ1歳になろうとしている。



「マリー、今日は誘ってくれてありがとう。雪が積もらなくてよかったわね。馬車もスムーズに進めるわ」

支度を早く終えたローラは、侍女アリスを連れて子供部屋を訪ねて来た。
実際はあまり上質とは言えない毛皮のコートを身に纏っているが、来ているローラの品の良さが滲み出ており上質な物に見える。

「こんにちは、ローラ様。お天気が良くて良かったですね。フリージア様とリリー様も、今支度が出来たところです」

「そう、それはちょうど良かったわ! アリス、私の鞄を持ってくれる? 私はリリーを抱っこするわ」

そう言うとローラは、リリーを手慣れた様子で抱っこした。

「さあ、リリー、フリージア、行きましょう!」

「いくー!」

駆け出しそうになったフリージアの手を、マリーは慌てて取る。

「フリージア様、手を繋いで行きましょう」

マリーは自分の質素なコートを腕にかけ、フリージアに引っ張られるように歩いた。

マリーの身の回りの物は全て、使用人達のお下がりだ。
離縁時に、自分の服や装飾品などは好きにして良いと言われたため、全てを換金して少しの金を手元に残し、残りは兄であるブルースへ渡したのである。

その自分に残した金で、マリーはフリージアとリリーの頭文字である"F &L"という文字を彫ったネックレスを作った。
一生のお守りにしようと思ったのだ。
この先何があろうと、頑張り抜くために……
そのネックレスは、いつも肌身離さず身に付けている。


階段を降りると、マストが待っていた。

「伯爵様、本日はご一緒させていただけて嬉しいです」

ローラは満面の笑みでマストへそう言う。

「ああ……。さあ、行くか」

マストはローラと目も合わせずに、外へ出て行った。
寂しそうなローラの後ろ姿を見ながら、マリーは複雑な想いを抱く。

(ホッ……あれ? 私は何でホッとしているの。そうか、やっぱり旦那様とローラ様の仲の良い様子を見るのは複雑なのね……。前妻だもの、当然のことよね。うん)

マリーはそう自分を納得させながら、続けて思う。

(それにしても旦那様、全然練習の成果が出ていませんよ? あれでは以前と全く変わらないではないですか……。照れているのかしら?)

フリージアに引っ張られて我に返ると、ローラはもう既に馬車に乗っていた。

「フリージア、おいで」

マリーが手を離すと、馬車の前で待っていたマストの元へフリージアはよちよちと駆け寄った。

「ぱぱー!」

マストに抱きかかえられるフリージアを見ながら、マリーはマストへ声を掛ける。

「旦那様、馬車はひとつですか?」

「ああ」

「それなら、狭いと思うので私はご一緒するのを遠慮いたします」

てっきりふたつ用意されていると思っていた馬車が一つなのだ。
当然、大人三人と子供二人が乗ればぎゅうぎゅうで狭い。

「駄目だ。私の条件は守ってもらう」

「しかし旦那様、狭いですよ……」

真顔で言うマストに、マリーは困り顔で返した。
そう、マストの出した今回の外出条件は、”マリーも同行する事”なのだ。

「馬車が二つあれば、マリーはどちらに乗る?」

「それはもちろん、四人で一つに乗っていただいて、私は荷物と一緒にもう一つの馬車に……」

「そう思って一つにしたのだ。詰めれば大丈夫だ。町までは30分程度だしな。さあ、行くぞ」

そう言ってマストは、フリージアと馬車へ乗った。

(大人がローラ様だけだと、さすがにまだ気まずいと考えられたのかしら……)

マリーは諦めて馬車へ乗ることとした。
扉を開けると、左手側にはマストとフリージアが、右手側にはリリーを抱っこしたローラが乗っている。
仕方なくマリーは空いている、ローラの隣でマストの前に腰を下ろしたのだった……







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

鈴宮(すずみや)
恋愛
 王族の秘書(=内侍)として城へ出仕することになった、公爵令嬢クララ。ところが内侍は、未来の妃に箔を付けるために設けられた役職だった。  おまけに、この国の王太子は未だ定まっておらず、宰相の娘であるクララは第3王子フリードの内侍兼仮の婚約者として王位継承戦へと巻き込まれていくことに。  けれど、運命の出会いを求めるクララは、政略結婚を受け入れるわけにはいかない。憧れだった宮仕えを諦めて、城から立ち去ろうと思っていたのだが。 「おまえはおまえの目的のために働けばいい」  フリードの側近、コーエンはそう言ってクララに手を差し伸べる。これはフリードが王太子の座を獲得するまでの期間限定の婚約。その間にクララは城で思う存分運命の出会いを探せば良いと言うのだ。  クララは今日も、運命の出会いと婚約破棄を目指して邁進する。

地味に見せてる眼鏡魔道具令嬢は王子の溺愛に気付かない

asamurasaki
恋愛
一応長編、今や番外編の方が長くなりました作品『愛のない政略結婚のはずがいつからか旦那様がグイグイきてどうしていいのかわからないのですが』から派生した、ジークシルード王国の第二王子、セントバーナルと子爵令嬢、エンヴェリカ・クエスベルトの恋物語です。 スピンオフ的な作品ですが、『愛のない〜』 の本編ではヒーローがチラッと名前が出てくる程度でヒロインはまったく出てきません。 『愛のない〜』を読まなくてもこちらの作品だけでもわかる内容となっておりますが、番外編の『ジョルジュミーナの結婚』ではヒーローとヒロインがちょこっと出てきます。 そして同じく番外編の『セントバーナルの憂鬱』ではこの作品のヒーローが主役のお話です。 『愛のない〜』を読んでいらっしゃらない方はこちらをお読み頂いた後に『ジョルジュとミーナの結婚』『セントバーナルの憂鬱』を読んで頂ければ嬉しいです。 もちろん同時でも大丈夫ですが、最初こちらの短編を書く予定がありませんでしたので、ちょいネタバレ的になってますので、ネタバレは嫌だ!という方はご注意下さませ。 このお話は主にヒロインエンヴェリカ視点で進みますが、ヒーローのセントバーナル視点など他のキャラ視点も入る予定です。 表記のないものはすべてエンヴェリカ視点となります。 こちらの作品ジャンルとしては異世界恋愛となってますが、『愛の〜』ではヒロインヴァネッサや王太子妃ナターシャ、元となった乙女ゲームのヒロインメリッサは転生者でしたが、この物語のメインキャラは転生者は登場しない予定です。 この物語は魔法のある世界ですが、魔法、魔術と記載を分けておりますが、本来の意味と違い私の独自の設定とさせて頂いております。 ご了承下さいますようお願いします。 尚、只今感想欄を閉じております。 今後開けるかもしれませんが。 ですので、誤字や脱字などないよう何度も確認をしておりますが、それでも見つけてしまわれましたら申し訳ありません。 その他、ユルユルで設定ございます。 そのあたりをご理解して読んで頂けましたら大変有り難く思います。 よろしくお願い致します!

【完結】義弟に逆襲されています!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ヴァイオレットには、『背が高い』というコンプレックスがある。 その為、パーティではいつも壁の花、二十一歳になるというのに、縁談も来ない。 更には、気になっていた相手を、友人に攫われてしまう…。 そんな時、義弟のミゲルが貴族学院を卒業し、四年ぶりに伯爵家に帰って来た。 四年前と同様に接するヴァイオレットだが、ミゲルは不満な様で…??  異世界恋愛:長めの短編☆ 本編:ヴァイオレット視点 前日譚:ミゲルの話 ※魔法要素無。 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

はずれの聖女

おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。 一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。 シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。 『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。 だがある日、アーノルドに想い人がいると知り…… しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。 なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

処理中です...