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21:離縁一か月後
しおりを挟むマリーが侍女として働き出してから1ヶ月が経った頃、紅葉がとても綺麗な季節となっていた。
「まりー!」
フリージアはすっかり、マリーのことをマリーと呼ぶ様になった。
「フリージア、前を見て歩け」
「キャハハー!!!」
マストの注意はフリージアの耳には入らず、左にいるマリーの手を取り、マリーの顔をニコニコと見ながらフリージアは走り出した。
「フリージア様、あれは何でしょう?」
フリージアに前を向かせる為に、マリーは言った。
前を向いたフリージアの目の前には、真っ赤に染まった山が一面に広がっている。
今日は、マストの時間が空いたため近くの山へ紅葉を見に来たのに、マリーも同行していた。
今はマストがリリーを抱いている。
最近仕事が忙しくリリーと触れ合えていないからと、マストからの申し出だった。
愛おしそうに胸に抱えたリリーを見下ろすマストを見て、マリーは思う。
(本当に、父親としては良いのよね……)
立ち止まって目の前の真っ赤な山を"ジーッ"と見ているフリージアの横で、マリーはマストに釘付けだった。
屋敷へ戻ると時刻はちょうど午後3時のティータイムだった。
「今朝出先でケーキを買って来たから、フリージアに出してやってくれ」
「畏まりました。フリージア様にお出しいたします」
「ニつあるから、一つは君が食べると良い」
真顔でその様な事を言うマストに、マリーは驚いた顔をした。
「……侍女は、フリージア様と一緒にお茶などいたしません」
マリーをチラッと見て、マストは言う。
「普段はそうだな。だが本日は、私が良いと言っているから良いのだ」
マストは部屋を出ようとドアの取手に手を掛けた所で止まった。
そして振り返り、困り顔のマリーを見て言う。
「……フリージアも、一人で食べるよりも誰かと一緒に食べる方が喜ぶだろうから」
そう言って、今度こそ部屋を出て行ったのだった。
言葉通りの意味しかないのであろうが、マリーは一緒にお茶をしやすくする様に声を掛けてくれた様に感じた。
(……フリージア様のためよね)
マリーは深く考えないようにして、お茶の準備に取り掛かる。
しかしマストが購入して来たというケーキを見て、マリーは再び驚いた。
「このケーキ……あの時の……」
そうそれは、マリーとマストが初めてのデートの時に行ったケーキ屋の物であったのだ。
そして中には、あの時マリーが注文した苺のショートケーキが二つ入っている。
「……覚えていたのかしら……」
マリーは少し心が温かくなったが、すぐにその様な甘い思考は捨て去った。
「偶然よ! 人気のケーキ屋だし、フリージア様は苺と生クリームがお好きだもの!」
そう独り言を言ってから、待っているフリージアのために、マリーは無心にお茶の準備を急いでした。
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