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13:忍耐の日々
しおりを挟むリリーが産まれて数ヶ月が経った。
マストは首のまだ座らないリリーのことも、積極的に抱っこした。
リリーは抱っこでなければ寝ない子であった為、マリーは手が腱鞘炎の様になっていた。
侍女に抱っこを頼めば良かったのだが、頼むくらいなら自分で抱っこをしたかったマリーは、無理をして抱っこをしていたのだった。
しかし、マストは例外であった。
夫が自分の産んだ二人の子どもを抱っこする姿を見る事は、とても嬉しかった。
(マスト様が子供を好きな方で良かったわ……)
マリーは思い描いていた理想に近いその様子を、映像として脳裏に焼き付けている。
今まで辛いことが多かったため、その分嬉しさが大きいのだ。
育児は妻と使用人に任せきりの男性が多い中、マストは驚く程積極的に子ども達と関わった。
しかも、フリージアの時よりも、リリーの時の方が更にそうであったのだ。
マリーとマストは、マリーが思い描いていた夫婦像とは全く異なる生活を送っており、マストには不満がたくさんあった。
しかし、子どもを愛してくれる事だけは嬉しかった。
だからマリーは我慢が出来た。
全くプラスの言葉を掛けてくれないにも関わらず何かあればきつい物言いのマストに、マリーはいつも傷付いていた。
「その様な言い方をしないでも良いではありませんか」
「その様な言い方とは何か? 俺は事実を伝えているだけだ」
傷付いている事を知って欲しくて伝えてもそう返されるだけで、結局はマリーが更に傷付くだけだった。
最近は何か言われる度に悲しくなり、どんどん自尊心が低下して行く。
自分には何も良い所がない様に感じる。
(離縁したい)
いつしかマリーは、そうよく考える様になっていた。
しかし離縁をすれば、子ども達とは離れ離れの生活になってしまう。
(子ども達の前で仲の悪さを取り繕う事が出来なくなれば、子ども達に悪影響だから離縁を申し出ましょう。……そうならないように頑張って我慢するしかないわ……)
マリーはそう考えていた。
フリージアとリリーという二人の子育てに毎日いっぱいいっぱいのマリーは、マストとぶつかる気力はもうなかった……
「あら、女しか産めないマリーじゃない。伯爵家に嫁いで来ておいて、後継ぎの男も産めないなんて。嫁失格ね」
最近、ローレルの嫌味は加速をしていた。
マストのいないところで会う度に、この様な事を言われ続ける日々だ。
(マスト様の前の奥様を追い詰めたという話は真実ね……)
そんなことを思いながら、マリーは耐えていた。
ローレルは孫二人を可愛がることは、決してなかった。
マストのいる場では、最低限の祖母の顔はする。
しかしマストのいない時はいつも、"視界に入っていない"というように、子供たちの存在を無視している。
(男児以外は必要ないということね……)
マリーはそう思うと悔しくて仕方がなかった。
(こんなに可愛い二人を無視するなんて……。この子たちは私が守るわ。お義母様なんて必要ない! 何人分もの愛情を与えて与えて……この子たちに寂しい想いなんてさせないわ!!!)
マリーはいつもそう心に誓う。
ローレルのことをマストに告げ口することはしなかった。
結婚して間もない頃は、単純に義母を悪く言いたくなかった。
しかし今はもう、マストに助けを求める気力がない。
その選択肢を思いつくことすら、今はもうないのだ。
そんな矢先に、マリーの今後の人生を左右する出来事が起きたのだった……ーーー
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