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3:義母ローレル
しおりを挟む"コンコン"
「どうぞ」
マストの返事の後、ドアが開き義母となるローレルが入って来た。
「マスト、お客様がいらっしゃっているわよ。マリーの相手は私がするから、お客様を待たせないで」
「母上、わかりました。では、マリーを頼みます。マリー、すまないがそういうことなので席を外させて貰う」
ローレルの言葉に、マストはマリーに一言ことわりを入れてからその場を立ち去った。
部屋に残されたマリーは、立ち上がりローレルに挨拶をする。
「お義母様、これからこの屋敷のことを色々と教えて下さいませ」
ローレルはマストと同じ、黒髪にブルーの瞳だが、マストとは明らかに瞳の暖かさが違った。
女性にしては長身で、スラリとしている。
背筋もピンとしており、自信に満ち溢れているようにマリーの目には映った。
ローレルに"ジロッ"と見られたマリーは、冷たい瞳に思わず身をすくませた。
「マリー、マストの前妻との離婚理由をご存知かしら?」
「……いいえ」
「子供が出来なかったからよ。前妻は諦めて自分から出て行ったわ。マリー、ここタングール家が求める嫁の勤めはただ一つよ。子を産みなさい。男児を」
冷たく言い放つローレルに、マリーは目を見開き固まることしか出来なかった。
(ああ、お義母様にとって私は後継を産むための道具でしかないのだわ。だから何の準備もいらないと、嫁入りを急がせたのね……)
勿論、その役割の占める割合が大きいことはわかっている。
しかし、こうもストレートに言われては良い気持ちはしない。
(……私は幸せになるのよ)
内心これからのことを考えると不安しかないマリーだが、そう自分に言い聞かせた。
そして、"何も気にしていません"という様子を装い、顔に落ち着いた笑顔を貼り付けてローレルへ返事をする。
「努力いたします」
数日後、簡単な挙式のみで二人は正式な夫婦となった。
あまりにも簡素で内心少し寂しかったマリーだが、極力金を掛けたくないと思っているのが明らかなローレルに何も言うことは出来なかった。
マストには「好きにすると良い」と言われた。
(伯爵様、"好きにすれば良い"は優しさでも思い遣りでもないのですよ……。丸投げされて悲しいだけなのですよ……)
部屋から中庭に咲く向日葵を見ながら、マリーはそう思う。
太陽の方に一生懸命に背伸びして向き成長しようとする逞しい向日葵の姿に、いつもなら元気づけられるマリーだったが、今日は元気になるどころか悲しくなった。
タングール伯爵邸で暮らすようになってからマリーは、虚しい気持ちが募るばかりだった……
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