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5:初めてのデート
しおりを挟む翌日デート当日の空は快晴で、夏真っ盛りの暑さだった。
「旦那様、ここです! よかった! 並ばずに入れそうです」
お目当てのカフェは人気でティータイムは混み合うと聞いていた為、時間をずらして早めの昼食を済ませて昼過ぎに来店をした。
今日のマリーは、マリーの目の色に合わせたグリーンのドレスを選んだ。
金髪でウェーブのかかった髪も、同じ色のリボンで侍女に結いあげて貰った。
そして色白の肌に映える、真っ赤な口紅を塗った。
そう、マリーは精一杯のお洒落をしたのだ。
「旦那様、今日の私は如何ですか?」
注文をした商品を待っている間に、マリーは勇気を出して聞いてみた。
「ああ、良いんじゃないか?」
マストはマリーの方を見ずに、窓の外を眺めながら言った。
その様子に、マリーは"ムッ"とした。
「旦那様、質問です! 私は今日、何色のドレスを着ているでしょうか?」
マリーの質問にマストは"パッ"とマリーの方を見て真顔で答える。
「グリーン」
急にマストと目が合い、驚いたからなのかトキメキを感じたからなのかは定かではなかったが、マリーは胸が"ドキッ"とするのを感じた。
「……あ、当たりです」
マリーはドギマギしながらも、笑顔で答えた。
今日は出来る限り笑顔で過ごそうと決めている。
「お待たせいたしました」
注文した商品がテーブルに並び、マリーは目を輝かせた。
少しふくよかな健康体型のマリーは、見た目通り食べることが大好きなのだ。
「わあ、美味しそう! いただきます」
マリーは生クリームたっぷりの苺のショートケーキと紅茶を、マストはチョコレートクリームの挟まったチョコレートケーキと珈琲を注文していた。
「美味しい!!!」
マリーは感動しながらマストを見ると、マストは無表情でマリーを見ながら珈琲を飲んでいた。
「旦那様、とても美味しいです!」
「良かったな」
興奮するマリーに、変わらず無表情でマストは答えた。
感動を分かち合いたかったマリーは、マストの反応を物足りなく感じながらケーキをもう一口、口に入れた。
(あーあ、せっかくの美味しいケーキなのに、そんな反応をされたらしらけて味が落ちてしまうではありませんか……)
そんなことを考え、笑顔を忘れて少し不貞腐れながらケーキを食べていると、マストの声でマリーはマストの方を見た。
「まだ食べられるのなら、これも食べていいぞ」
マストが一口だけ食べた残りのケーキだった。
「えっ、もう召し上がらないのですか?」
「ああ、もう十分だ」
「甘いものはお好きではありませんでしたか?」
「いや、その様なことはないが、量は要らない。今は一口で十分だ」
そう言ってマストは、ブラックの珈琲を啜った。
マストと暮らし始めて日の浅いマリーでも、マストが紅茶よりも珈琲が好きだということは知っていた。
「珈琲は美味しいですか?」
「ああ、まあこんなものだろう」
無表情のマストにマリーは"もやっ"としながら、罪のないケーキは有り難く戴くこととする。
「では、ケーキは遠慮なく戴きます」
実は気になっていたケーキだったので、マリーはケーキを貰えたことは嬉しかった。
「私が食べなければ残すつもりだったのですか?」
マリーは食べ物を平気で残す人が嫌いだ。
特にこの様な店で注文品を残せば、作った人が"美味しくなかったのではないか"とがっかりすることが目に見えているからだ。
「いや、食べるだろうと思っていた」
「へっ?」
「最後までこの二つで悩んでいたから。だから、これを俺は注文したのだ」
マストの意外な言葉にマリーが驚いていると、マストは変わらない無表情で"シレッ"とそう言った。
「……えっ、そうだったのですか!? あっ、ありがとうございます!」
マリーは素直に嬉しかった。
チョコレートケーキを食べることが出来たことよりも、マリーが最後までその二つで迷っていたことに、マストが気付いていてくれていたことが嬉しかった。
それは、マリーに関心を少なからず持ってくれているという証だから……。
先程まで不満気だったのが嘘の様に、マリーは一気にご機嫌になり残りのケーキを味わった。
「よくその様な甘いものを、そんなにたくさん食べることが出来るな」
そう呆れた様に言うマストの言葉は聞き流しながら。
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