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第六章 レッドフィールド伯爵家の嵐
2:家族三人の穏やかな時間
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その夜。
ローズのいない屋敷は、とにかく静かで穏やかだ。
三人で食べる食事は、今までになく楽しいものであった。
「お父様、お母様が急に実家に帰るなんて、初めてのことだわ。一体何があったの?」
「ただ少し喧嘩をしただけだよ。ローズには、冷静になる時間が必要なのだ。暫くそっとしておこう」
リリカの問いに、リチャードは苦笑いで答える。
リリカはそれ以上は何も言わずに、ただ心配そうにリチャードを見ていた。
何だかんだ、リチャードがローズのことを愛していることは、屋敷の者は皆よく知っているのだ。
キャサリンも、リチャードに申し訳なさそうに言う。
「私のことがきっかけですよね? ごめんなさい、お父様……」
「いや……。キャサリンは成長するにしたがって、ローズの過干渉が息苦しくなっていたのだろう? 今まで何となく感じながらも、放置していてすまなかった……」
キャサリンとリチャードの会話を聞きながら、リリカも眉を下げた。
(キャサリンが、お母さまの過干渉にそれほど辛い想いをしていただなんて、考えもしなかったわ。私は本当に自分のことばかりだったのね……)
「キャサリン、今までごめんなさい……。私もこれからはもっと、あなたとしっかりと向き合って行きたいと思っているわ……」
リリカのしんみりとした発言に、キャサリンは笑う。
「何を言うのお姉様、もう十分に向き合ってくれているじゃない。私がスターリン様のもとへ行けたのも、素直になれたのも、お姉様のおかげよ!」
「あれは、元々は私のせいだったから責任を感じて……」
「いいえ。今回のことは、早い段階でちゃんと本人に確認をしなかった、私が悪いの。怖くても、事実としっかり向き合う勇気を持つ必要があったのよ。……あれほどお姉様に偉そうに言っていたのに、私こそごめんなさい。……人は、弱くなるのは簡単ね……」
自嘲した笑みを見せるキャサリンに、リリカは真顔で言う。
「人は自己防衛ばかりの弱い生き物よ……。相手が本当に大切な人ならば尚更、臆病になってしまう気持ちもわかるわ……」
「ははっ!」
しんみりとした空気に、リチャードの笑い声が豪快に響き渡った。
突然笑い出したリチャードを、リリカとキャサリンは訝しがる。
「「お父様?」」
「おっ、二人の声が被ったな! さすが双子だ、息がぴったりだな!……二人共、立派に成長したな! 父は嬉しいぞ! 」
そう笑顔で言ったリチャードは、すぐに寂しそうな顔に変わった。
「今までは母親であるローズが、二人の成長を妨げていたのだな……。せっかく双子なのに、一緒に遊ぶなどの交流も持てずに…。私も同罪だな。まともに注意も出来ず、ローズを正しい道へ導くことが出来なかった……」
「……これからは、私達のことは心配せずに、お母様と夫婦の時間を大切に過ごして下さい」
キャサリンの言葉に、リチャードは笑顔を浮かべる。
「……そうだな。一週間くらいしたら、迎えに行ってやろうかな」
しかし、リチャードはすぐに”ハッ”とする。
「いや、まだリリカのこともある! それに、ウィリアムとスターリンの帰国を待たなければ! まだまだ心配させてもらうぞ!」
「お父様、私のことも心配なさらないで下さい。……実は、色々と考えているのです」
リリカは微笑みを浮かべ、父に安心して欲しい旨を伝える。
「そのようだな。ブルーム伯爵から聞いている。リリカに領地運営について教えていると……。ウィリアムもいないのに、ブルーム伯爵邸へ通っていると思ったら……」
リチャードの苦笑いに、リリカは慌てる。
「報告せずに申し訳ありません! ”ウィリアム様が研究をやめて伯爵を継ぐことになった”と聞いて、思い付いたのです。……もしウィリアム様が私と結婚して下さるなら、私が主に領地運営を行えば、ウィリアム様は研究を続けることが出来るのではないかと……」
そう言うとリリカは、頬を赤らめて慌てて付け加えた。
「ウィリアム様が結婚して下さるのかもわからないのに、そもそもふられているのに、気が早いことはわかっています! ただ、何もせずに帰りを待つことは出来ずに……。私が勝手にしていることなのです! 今は当たり障りのない部分のみを、教えて頂くことにしています」
「わかっている。……リリカ、本当に強くなったな」
リチャードのしみじみとした物言いに、リリカは恥ずかしくなってしまう。
「ありがとうございます。……けれど本当は不安なのです。ウィリアム様にどう思われるか……」
父に認められた嬉しさで、リリカはつい弱音を吐いてしまった。
しかしそこで、キャサリンが二人の会話に口を挟んだ。
「お姉様、本当に強くなったわね! 不安を口に出せるのは強い証拠よ! 私も見習わなきゃ……」
「えっ? そうなの?」
リリカはポカンとした顔で言う。
「もちろん、ネガティブオーラ全開の不安の放出はよくないわ。けれど、今のお姉様は違うじゃない。”不安はあるけど頑張る”っていう意思表明よね? 本当に強くて、お姉様はかっこいいわ!」
キャサリンの言葉に、リリカは目に涙を浮かべる。
それは、リリカにとってとても嬉しい言葉だったのだ。
「かっこいいだなんて……。かっこいいのはキャサリンよ……」
「ははっ。本当に二人が仲良くなって嬉しい限りだな! リリカ、後悔しないように、したいようにしてみなさい。お父様は応援するぞ!」
「私も応援するわ!」
二人からのエールに、リリカは更に嬉し涙を流したのだった。
(応援してくれる家族が私にもいるのね。私、頑張っても良いのね……。頑張ろう……)
ローズのいない屋敷は、とにかく静かで穏やかだ。
三人で食べる食事は、今までになく楽しいものであった。
「お父様、お母様が急に実家に帰るなんて、初めてのことだわ。一体何があったの?」
「ただ少し喧嘩をしただけだよ。ローズには、冷静になる時間が必要なのだ。暫くそっとしておこう」
リリカの問いに、リチャードは苦笑いで答える。
リリカはそれ以上は何も言わずに、ただ心配そうにリチャードを見ていた。
何だかんだ、リチャードがローズのことを愛していることは、屋敷の者は皆よく知っているのだ。
キャサリンも、リチャードに申し訳なさそうに言う。
「私のことがきっかけですよね? ごめんなさい、お父様……」
「いや……。キャサリンは成長するにしたがって、ローズの過干渉が息苦しくなっていたのだろう? 今まで何となく感じながらも、放置していてすまなかった……」
キャサリンとリチャードの会話を聞きながら、リリカも眉を下げた。
(キャサリンが、お母さまの過干渉にそれほど辛い想いをしていただなんて、考えもしなかったわ。私は本当に自分のことばかりだったのね……)
「キャサリン、今までごめんなさい……。私もこれからはもっと、あなたとしっかりと向き合って行きたいと思っているわ……」
リリカのしんみりとした発言に、キャサリンは笑う。
「何を言うのお姉様、もう十分に向き合ってくれているじゃない。私がスターリン様のもとへ行けたのも、素直になれたのも、お姉様のおかげよ!」
「あれは、元々は私のせいだったから責任を感じて……」
「いいえ。今回のことは、早い段階でちゃんと本人に確認をしなかった、私が悪いの。怖くても、事実としっかり向き合う勇気を持つ必要があったのよ。……あれほどお姉様に偉そうに言っていたのに、私こそごめんなさい。……人は、弱くなるのは簡単ね……」
自嘲した笑みを見せるキャサリンに、リリカは真顔で言う。
「人は自己防衛ばかりの弱い生き物よ……。相手が本当に大切な人ならば尚更、臆病になってしまう気持ちもわかるわ……」
「ははっ!」
しんみりとした空気に、リチャードの笑い声が豪快に響き渡った。
突然笑い出したリチャードを、リリカとキャサリンは訝しがる。
「「お父様?」」
「おっ、二人の声が被ったな! さすが双子だ、息がぴったりだな!……二人共、立派に成長したな! 父は嬉しいぞ! 」
そう笑顔で言ったリチャードは、すぐに寂しそうな顔に変わった。
「今までは母親であるローズが、二人の成長を妨げていたのだな……。せっかく双子なのに、一緒に遊ぶなどの交流も持てずに…。私も同罪だな。まともに注意も出来ず、ローズを正しい道へ導くことが出来なかった……」
「……これからは、私達のことは心配せずに、お母様と夫婦の時間を大切に過ごして下さい」
キャサリンの言葉に、リチャードは笑顔を浮かべる。
「……そうだな。一週間くらいしたら、迎えに行ってやろうかな」
しかし、リチャードはすぐに”ハッ”とする。
「いや、まだリリカのこともある! それに、ウィリアムとスターリンの帰国を待たなければ! まだまだ心配させてもらうぞ!」
「お父様、私のことも心配なさらないで下さい。……実は、色々と考えているのです」
リリカは微笑みを浮かべ、父に安心して欲しい旨を伝える。
「そのようだな。ブルーム伯爵から聞いている。リリカに領地運営について教えていると……。ウィリアムもいないのに、ブルーム伯爵邸へ通っていると思ったら……」
リチャードの苦笑いに、リリカは慌てる。
「報告せずに申し訳ありません! ”ウィリアム様が研究をやめて伯爵を継ぐことになった”と聞いて、思い付いたのです。……もしウィリアム様が私と結婚して下さるなら、私が主に領地運営を行えば、ウィリアム様は研究を続けることが出来るのではないかと……」
そう言うとリリカは、頬を赤らめて慌てて付け加えた。
「ウィリアム様が結婚して下さるのかもわからないのに、そもそもふられているのに、気が早いことはわかっています! ただ、何もせずに帰りを待つことは出来ずに……。私が勝手にしていることなのです! 今は当たり障りのない部分のみを、教えて頂くことにしています」
「わかっている。……リリカ、本当に強くなったな」
リチャードのしみじみとした物言いに、リリカは恥ずかしくなってしまう。
「ありがとうございます。……けれど本当は不安なのです。ウィリアム様にどう思われるか……」
父に認められた嬉しさで、リリカはつい弱音を吐いてしまった。
しかしそこで、キャサリンが二人の会話に口を挟んだ。
「お姉様、本当に強くなったわね! 不安を口に出せるのは強い証拠よ! 私も見習わなきゃ……」
「えっ? そうなの?」
リリカはポカンとした顔で言う。
「もちろん、ネガティブオーラ全開の不安の放出はよくないわ。けれど、今のお姉様は違うじゃない。”不安はあるけど頑張る”っていう意思表明よね? 本当に強くて、お姉様はかっこいいわ!」
キャサリンの言葉に、リリカは目に涙を浮かべる。
それは、リリカにとってとても嬉しい言葉だったのだ。
「かっこいいだなんて……。かっこいいのはキャサリンよ……」
「ははっ。本当に二人が仲良くなって嬉しい限りだな! リリカ、後悔しないように、したいようにしてみなさい。お父様は応援するぞ!」
「私も応援するわ!」
二人からのエールに、リリカは更に嬉し涙を流したのだった。
(応援してくれる家族が私にもいるのね。私、頑張っても良いのね……。頑張ろう……)
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