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第四章 会えない時間

3:キャサリンからの喝

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「キャサリン……。ええ、ウィリアム様からの手紙なの……。でも、またふられてしまったわ……」

苦笑いを向けるリリカに、キャサリンは眉間に皺を寄せる。

「……諦めるの? 頑張ってとても綺麗になったのに……」

「……綺麗?」

キョトンとした顔でリリカは言う。
"綺麗"という言葉は、今までのリリカには無縁だったのだ。

「ええ、とても綺麗になったわ。もともと可愛らしかったけれど、痩せて更に素敵になったわ」

「えっ……そんな、私なんて痩せたってたかが知れているわ! キャサリンに比べれば私なんて……」

「何故私と比べるの? こういう時は、素直に”ありがとう”と言っておけば良いのよ!」

「はっ、はい……」

キャサリンの言葉にリリカは圧倒されつつも、苦笑いする。

(こういうところも気を付けないと……)

褒められ慣れていないリリカは、つい自分を下げる発言をしてしまう癖がついているのだ。

「それで、ウィリアム様のことは諦めるの……?」

「だって、こんなこと書かれたら……」

リリカの言葉にキャサリンは、珍しく険しい顔でリリカのそばまで来て、手から手紙を奪った。

「で、お姉様はまた諦めるの?」

奪った手紙を一瞥したキャサリンは、リリカに同じ質問を繰り返す。

「だって……」

「だってじゃないわよ! どこにも、もう手紙を送って来るなとは書いていないじゃない!!!」

「でも……」

「でもじゃありません! ……頑張ってよ……」

急にキャサリンの声のトーンが下がり、神妙な表情のキャサリンを、リリカは訝しく思う。

「キャサリン、どうかしたの?」

「……スターリン様から手紙はあった?」

「えっ? 私に? いいえ、もらってないけれど……」

リリカは、突然の意外な質問に目を丸くして答えた。

「そうっ!」

キャサリンは急に”パアッ”と明るい表情になる。

「キャサリンももらっていないの?」

「いいえ、やりとりをしているわ!」

「そう、良かったわね?」

「ええっ!」

満面の笑みでその場を去って行くキャサリンの後ろ姿を、訳が分からない様子でリリカは見つめた。
すると急に、キャサリンが振り返った。

「お姉様、ウィリアム様のことを諦めるなら私がもらうわよ?」

”ニッ”と悪戯な顔でキャサリンは言う。
リリカは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてキャサリンを見ている。

「もう、そんな冗談を言って! あなたがスターリン様にぞっこんなのはよく知っているわよ!」

リリカはそう言ったが、優雅に去って行くキャサリンを、何とも言えない気持ちで見送った。

「……本当にそうなれば、私に勝ち目なんてないわ……はっ! もう! また! こんなのでは駄目だわ! 自分の機嫌を取るのは自分よ。落ち込んでなんかいられない! よしっ、手紙を書こう!」

(キャサリンの言う通りよ! どこにも、手紙を送っては駄目だとは書いてはいないわ! まだ諦めるのは早いわ!)

リリカは小さく拳を握り、グッと決意の顔を見せた。

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