瀬戸くんと恋人たち

ふじのはら

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8話 好きになるということは

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「お兄ちゃん、最近どうしたの?」
妹の朱莉アカリがドアの開け放たれたままの俺の部屋の前で立ち止まって言う。
「あー?何がー?」
「何が、って、、明らかに変だけど、、」
ベッドにうつ伏せに寝転がったまま朱莉を見る。

朱莉は中3の俺の妹だ。俺と違って真面目でしっかり者の妹は土曜日だと言うのに、今日もこれから塾に行くらしく出掛ける用意をしている。たぶん玄関に向かう途中で扉を開けたままの俺の部屋の前を通りかかった。

「もうすぐ夏休みなのに元気ないね。」
「、、あちーから。」
「今日来ないの?マイさんとか。」
「マイ?あー、明日か明後日みんな来るけど何で?」
「マイさんにこの前本借りたから、返したいんだよね。」

よく遊びに来るヤツら、特にマイとはいつの間にか打ち解けているようで、うちに遊びに来たマイは時々俺の部屋じゃなく朱莉の部屋で遊んでいることがある。

「へぇ。」という俺を見てまだ何か言いたげな朱莉

「何?」
「ーあの人、、拓実さん、何で最近来ないの?」
「何でって、、」
「もしかして、ー別れちゃったの?」
「はぁ!?」
思わずビックリして体をおこすと朱莉を見る。

確信がある目をして返事を待っている。
拓実の事は友達として連れて来ていたのに、、女の勘はするどい。

「ー気づいてたん?」
「なんか仲良さそうだったから。」
なぜか少し嬉しそうにはにかむ。
「別れてねーよ、まだ。」
朱莉は俺の言葉にホッとした様子で笑う。
「そっか、良かった。私あの人はお兄ちゃんが連れて来た今までの彼女とは違うって気がして少し嬉しかったんだ。」
「違うって?どの辺がよ?ーまさか性別」
「アハハ!それもあるけど!拓実さんはお兄ちゃんのこと、好きかなって。」

俺は心の中で苦笑する。
ーほら、朱莉にだって拓実はそう見えてるんだ。俺がそう感じても不思議じゃないだろ。

「朱莉さ、その話マイとかに言わんでね。」
「?うん、もちろん」
意外そうな驚いた顔をした朱莉は「行ってきます」と言って立ち去った。


夕方の、椎木たちが帰ってしばらくした頃、俺はその家のチャイムを鳴らした。
誰かも聞かずに鍵がガチャリと開けられる。
「不用心だよ。栞里シオリちゃん。」
「何言ってんの。最近大地くんしか来ないんだから。」

拓実と気まずくなったあの日も此処へ来た。
栞里は「ここは駆け込み寺じゃない」と憮然としていたが、結局は何も聞かずに部屋にいさせてくれた。
ほぼ俺専用みたいなグラスに冷えたお茶をくれる。
テーブルに置きながら
「まだケンカ?してるんだ?」
「あれ?俺の号外出てた?」
「え、大地くんの学校大地くんの号外出んだ!?」
「んなワケあるか。前に女の先輩が言ってただけな。」

グラスの外側についた水滴を指でつついて下に流れるのを見る
「拓実と付き合って1週間で俺その先輩とヤった。」
「は、、、最低。」
「俺もそう思う。」
「ケンカの原因それなの?」
「いや、直接は関係ないけど、、俺のメンタルに関係してきてる。」

栞里はしばらく黙って俺の指先がグラスの水滴を落とすのを見ていた。
「大地くん、私が思ったよりダメージ受けてるんだね。ー全部私に話してみなよ?」
そう言って俺の頭をヨシヨシと撫でてくれた。

俺は拓実に告白されてからの事を全部話した。
最初はただの好奇心で付き合った。ちょっとした刺激的な遊びのようだったのに、俺の浮気を知っても笑ってるだけだったアイツに腹が立って、、
それから拓実を抱けるか少しビビって、、いざとなったらちゃんと拓実に興奮した。だけど喜ぶアイツに胸が苦しくなったし、変なモヤモヤとした違和感を抱き始めた。
ずっと好きだったと言った拓実が、俺の顔や上っ面だけを見て近づいて来たんじゃないと思っていた。ーのに、、アイツには過去にちゃんと付き合ってたヤツがいて、そいつと何度もセックスしている。

「全部混ぜこぜんなってイラつくのに、どれ一つとして俺が文句言える事じゃねーの。好きでもない彼女作って、すぐヤって、あっという間に別れて、彼女に女友だちの事で文句言われても、意味わかんねーめんどくさって思ってたし。」

俺の話を聞いて栞里は大きなため息をついた。
「大地くんさぁ」
「あ?」
「しっかり拓実くんの事好きなんだね」
「ーこれ好きなの?」
テーブルに顎をついたまま栞里をみると、彼女は呆れたというように肩をすぼめて見せる。

「自分の事を本気で好きでいて欲しいんでしょ?今までの女の子みたいに飾りにされるんじゃなくて。」
「まぁ、、ね。」
「自分の事棚に上げて、相手に深い愛情求めて、それが叶わなかったからって勝手に傷ついてる。子どもみたいに。」
「うわ、栞里ちゃんキツ、、」

でも栞里の言う通りだ。

「自分の今までのいい加減さを無かったことにして怒りたいんだね。その人の過去も未来も全部自分だけで良いって。」

「待って、栞里ちゃん。なんかすげー恥ずかしくなって来た。」
俺は栞里の言葉を待ってと手で止めようとしたけど、その手はペシッと彼女に叩かれる。

「瀬戸大地。」
「え、はい。」
「人を好きになるって、恥ずかしくて、苦しくて、痛くて、みっともないの!」

「なんか、栞里だね」
俺は苦笑したけど、彼女はジロッと俺を睨んだだけで、まるでクソガキだったあの頃の俺に説教をする口調で続けた。

「あのね、今までの、軽い言葉で好きって言って、求められるままに応じるのは全然違うの。今までと違うものを拓実くんに求めるなら、自分も今までと同じじゃダメ!ちゃんと向き合わないとダメだよ!」

「、、、」

「わかった!?」

「、、はい。」


その日の夜遅く、俺は携帯を手にしてひどく久しぶりに拓実に電話をかけた。
呼び出し音が暫く鳴るのを聞いていたけれど、拓実は出なかった。

あの図書室での日、夜に拓実から電話が来たのに俺は出なかった。次の日も出なかった。

ーもう手遅れなんかな、、
携帯を置こうとした瞬間、手のひらの中で携帯が鳴る。

「拓実?」
「良かった、、本当に瀬戸さんだ、、」
拓実の声は少し震えている気がした。
「久しぶり、、」

「もう話も、出来ないかと思ってました、、」
「ーうん、悪い。ちょっと色々整理したくて」
「瀬戸さん、、あと一度で良いから、会って下さい。話を聞いて欲しいです。」

ーあと一度、、?

「俺も、拓実に話さなきゃならない事ある。金曜の終業式のあとは?」

「ーはい。その日で大丈夫です。」

「俺の家に来る?」

拓実は一瞬無言になって、
「いえ、瀬戸さんの家の近くの、あの大きい公園で会えますか?」

「ーわかった。」

たったそれだけの短い会話。
それでも彼の静かな声は俺の胸をぎゅっと掴んで少し苦しくさせた。

拓実に会おう。
自分の気持ちも認めて、思ってる事を全部言おう。

好きだと。
いつの間にか揺るぎ無いほど好きなんだと。
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