リアルな恋を描く方法

ふじのはら

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五章【リアルな続きを】※R18含む

1 1人でどうしろっての

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俺たちが再会を果たした翌日。
俺は宮代さんが今住んでいる家へ招待された。学校とバイトが終わってすっかり夜遅くなってからだ。

昨日あのサイクリングロードから俺の狭いアパートに移動してしばらく話をした。
俺が想像していたよりもずっとハヤトさんが俺を見守ってくれてたことや、それが宮城さんの頼みであったこと。
俺があんな事をしでかして宮城さんの前から消えた後、すぐに宮城さんは連載中の漫画に細工を始めた事。
驚いた事に、その時既に漫画の中のストーリーと自分のリアルをリンクさせたストーリーを最後まで思い描いていたというのだ。
大学生にしてBL漫画で成功する彼は、やっぱり普通の人じゃないんだと俺はしみじみ思った。

ハヤトさんが何度も来ているというそのマンションを、宮城さんの後について2階まで階段で上がり玄関を通って部屋へ入った。間取りも当然違うけれど以前彼が住んでいた部屋より少し広いんじゃないだろうか。
リビングと、リビングに面して2つの洋室。パッと見彼の仕事を連想させるものは殆ど見当たらなかった。

一方の洋室には以前と同じように本棚やセミダブルのベッドがあって、記憶に残るままの宮城さんの寝室だった。その部屋に以前の自分と宮城さんの関係を垣間見て鼓動が少し速くなる。前を歩く彼の白いうなじや細い手首が、服に隠れた部分を思い出させた。
急に性的なものを感じてソワソワと落ち着かなくなるなんて、これじゃあまるで初めて彼女の家に来た高校生だ。恥ずかしい、、。

俺がそんな事を考えているなんて知る筈もない宮城さんが、何気なく向けてくれる笑顔さえもまともに見ることが出来ないのだ。

そのドキドキを隠すために、わざとらしく家の中を見回していると隣の洋室に視線が吸い寄せられた。

「え?これどういう作りですか?ここが2階ってこと??」

部屋の角に細い螺旋階段があって下の階へ降りて行けるようだ。マンションの2階の部屋に入って、まさか室内で1階へ降りられるとは思ってもみなかった。
「そう、今いるのが俺の家の2階なんだよ。ここで1階と繋がってるけど、仕事関係の人は普通に1階の玄関から出入りする仕組み。」
そう言って宮城さんは細い螺旋階段を降りて行く。
降りた所は同じ広さの部屋だ。
鍵を開けて部屋から出ると、そこは事務所のようで机とパソコンが並んでいて、本棚やキャラクタグッズなどが飾られた一角もあった。

「あれ?先生、まだやるんですか?ーっと、どうもすみません。お客様でしたか。」
玄関側からちょうど入って来た男性が、頭を下げた俺に驚きながらもペコリと頭を下げ返す。その視線は俺が誰なのかを尋ねているみたいに宮城さんと俺を交互に行き来した。
「えっと、、ちょっと友人を案内してて、、。すみません。仕事中に。」
「いえいえ。これから長濱さん来るみたいですよ。」
「あ、そうなんだ?向田ムコウダさん、ごめんなさい僕たぶん戻らないです。」
「了解です。大丈夫ですよ。先生」
俺たちよりも年上に見えるその人は穏やかな笑顔を見せるとパソコンのディスプレイに集中した。

「あの人がアシスタントの向田さん。ちなみに既婚者ね。忙しい時はもう一人来てくれるんだ。」
2階に戻ると、ソファに座る俺へコーヒーを出しながら宮城さんは説明してくれた。
コーヒーを受け取ろうと見上げた俺の視線が宮城さんの視線とぶつかって一瞬止まる。だけど思わず俺は目を逸らしてしまった。

あ、しまった。今のはかなり感じが悪い、、。あからさまに視線をそらせたのがバレバレだ、、。謝ろうか、、

そう思って口を開きかけた時、俺のすぐ隣にどさりと宮城さんが座った。
「いい加減そのよそよそしいのやめよーか。」
身体をこちらに向けて、呆れたとため息をつき軽く睨むようにしてこちらを見ている。
「や、、ごめんなさい!わざとじゃないです、、何か宮城さんが久しぶりだから慣れなくて、、」
「何言ってんの。仮にも俺ら付き合ってましたよね?」
「うわ、その呆れてる目やめて下さい。仕方がないんですって!もう絶対会えないって思った人が目の前にいるんです。何か緊張と言うか信じられないって言うか、、」
狼狽ウロタえて言い訳するのを、大きなため息をついて彼は眺めた後、おもむろに手を伸ばして俺の肩を掴んだ。
「そんなこと言って、これからしようと思ってる事できなかったらどうすんの?」
「え、、?」

少しだけ目を細めて煽情的に笑うと、彼はすっと俺の顔に近づいた。
キスされるっ、、
咄嗟に目をぎゅっと瞑った俺の唇に、レロっと温かい濡れた感触。
目を開けると、少し顔を離した宮城さんがニコリと笑って赤面した俺をみていた。
「な、、今舐めっ、、」
「ははっ、顔赤いよ。」
笑いながらもう一度顔を寄せた彼はこんどはちゃんとキスをした。
促されるままに舌を絡ませれば、緊張と懐かしさが身体に湧きあがる。すぐに彼の身体に触れたくなったけれど俺はどうにかその気持ちを押さえ込んでいた。どう考えたってあの頃のように気軽には触れられない。

俺の気持ちを察したのか、ふいに顔を離した宮城さんは
「、、やろうよ」
そう言って少し俯いたまま俺の目を覗き込んだ。その真っ直ぐな眼差しに雄っぽさと狩られる獲物のような儚さの両方を感じて俺はゾクリとした。

「だって俺にはそんな資格、、」
「資格?ー、、ちょっとこっち来て」
真っ赤な顔でしどろもどろになる俺の手を引いて、隣の部屋へ移動すると彼はベッドに座って俺を見上げた。
「俺は蒼くんが好きだよ。資格ってそれ以上何か必要?蒼くんがしたくないなら無理は言わないけど」
「したく無いわけ!!」

弾かれたように言う俺に、宮城さんは「じゃあ、」と頷く。
俺はゆっくりと彼のシャツへ両手を伸ばした。

初めて宮城さんとした時の事を思い出す。大好きで触れたくて、相手の気持ちは二の次で、まだ高校生の俺はあの時も緊張しながら彼に触れた。

「うゎ、手震える、、」
宮城さんのシャツのボタンに伸ばした手が微かに震えて、俺は思わず手を引っ込めた。
「ねぇ、宮城さん、俺ホントにあなたに触れて良いんですか?」
自信の無いこどものような小さな声で確認してしまう。宮城さんにあんな事をしておいて、今更何を思って彼を抱けば良いんだろう、、

もう二度と、触れるどころか会う事も無いだろうと覚悟した人が無防備に目の前に座っていて、手を引っ込めた俺を一瞬困惑の顔で見た。
「相変わらず繊細さと大胆さが同居してて面白いよね」
そう言うと宮城さんは自分の手でボタンを外すとパサリとシャツを脱ぐ。

ー面白い?どっちがだ。宮城さんの方がよっぽどだ。普通の感覚の持ち主とは思えない。勝手にいなくなった恋人と会う為にわざと1年もかけるとか、自分の生み出す作品にその仕掛けを組み入れるとか、自分を無理矢理犯した相手とまた普通にセックスしようとすることも、、
あぁ、そういえば自分の恋人と親友が抱き合っているところを怒るどころかデッサンしだすような人だった。

視線で促されて俺も同じようにTシャツを脱いだ。
目の前の白い体は俺よりも一回り程も細い。久しぶりに見るその華奢な身体が愛おしくて、俺は彼の前に膝をつくとその両腕に手をかけてそっと胸元に唇を付けた。
「どうして許してくれるんですか、、?」
鎖骨やみぞおち、そして胸元に軽く口づけしながら聞くと、ベッドに座る彼はじっとしたまま
「どうしてって、、ただ好きなヤツとしたいだけ。俺もただの男なんで、、」
当たり前だと小さく笑う。
「“好きなヤツ”なんて言ってくれるんですね。」
「言うよ。俺だって同じ失敗はしたくない。」
彼の言葉は俺の中にじんわりくるものがあった。暖かいものが胸にひろがって、“本当に良いのか?”と迷う気持ちが徐々に押し流されていく気がする。

胸元にキスをして小さく主張する尖りを軽く吸う。宮城さんは息を小さく呑んでピクリと震えた。
「宮城さん、俺とのこういうこと思い出したりしましたか?」
唇を肌から離さずに喋りながらもう片方の尖を指先で軽く摘む。
「っ、、あたりまえだ。快感だけ教えられて、1人でどうしろっての」
胸の尖りを舌で舐め軽く吸い上げるたび、小さく息を呑む彼がそんな文句を言うだけで自分の中心が反応するのがわかる。

そしてそれは宮城さんも同じだった。
「宮城さんここ、、すごい勃ってますね、、ほらガチガチ」
細身のパンツの股間部分は刺激を欲して硬く勃ち上がっていた。俺は手の平で握るように包み込んでそのまま少しだけ圧をかけながらスリスリとさする。
股間を上下に擦りながら宮城さんの顔を見れば、その目は熱に潤んで俺を見返した。
「蒼くん、たのむ直接触って」
彼は切なげにそう呟いた。

ああ、、敵わない。
そんな顔でそんな事を言うなんて、、

この華奢で美人で“普通”じゃない人はたぶん俺を煽る天才かなにかだ。
いつもそうだった。昔の彼女とは普通の優しいセックスしかした事ないのに、宮城さん相手だと決まって理性が吹っ飛ぶ。

俺は宮城さんをぐっと抱きしめた。
「宮城さん、煽らないで。優しくさせて下さい。」
「やる気になった?」
「ー、、正直宮城さんに誘われて俺が我慢できるハズありません、、」
「良かった。」

宮城さんの腕が俺の背中へまわされる。密着した胸が互いの鼓動と熱を伝え合っているようだった。
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