リアルな恋を描く方法

ふじのはら

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三章【関係】※R18含む

1 たぶん俺のせい

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「蒼くんごめんな」
「いや、、宮城さんが謝らなくても、、でもちょっとビックリ、、」
「、、今のがハヤトの恋人の新田愉ニッタサトシ。もともとあんな感じだけど最近特に病んでる。」
「大丈夫かな、、」
俺の言葉には答えずに、宮城さんはソファに身を投げ出す。
明らかに不機嫌で、そんな彼を見るのは初めてだ。
「宮城さん、、?大丈夫ですか?」
「、、、」
何も答えないので心配になって側へ行って顔を覗き込む。その表情は冷たいと言っても良いくらい無表情だったのに、俺にはなぜだか彼が泣きそうに見えた。
「宮城さん、、?」
「ああは言ったけどアイツの言う通り。たぶん俺のせいなんだ。」
「、、、」
「蒼くんももう帰りな。今日はもう描かない、、」
自分と俺の間に見えない線をひく宮城さんを久しぶりに見た。心がズキッと痛む。
「、、もう少し、、もう少し居させて下さい。」
宮城さんからの返事はなかったけど、それは拒否ではないと俺は受け取って、キッチンで2人分のお茶を淹れた。

彼の前のテーブルにお茶を置いて、俺はただ黙って隣に座っていた。怒っているにしろ悲しんでいるにしろダメージを受けている宮城さんはしばらく無言でいて、やがてふぅっとため息をついた。
「蒼くん、よしかかって良い?」
「うん、どうぞ」
いつかと同じように宮城さんは俺に背中を預けると両足をソファにあげる。
「俺のせいなんだろうな、やっぱり」
「どうしてですか、、?」
「、、俺さ小さい頃から絵ばっかり描いててあんまり人に興味示さない子供だったんだ。ハヤトはあのまんま。社交的で面倒見が良くて友達が多かった。」
「なんか想像できますね」
「だろ?しかも俺は見た目のせいでよくいじめられた。それをハヤトがずっと庇ってたんだ。物心ついた時からそうだった。」
宮城さんは過去の自分とハヤトさんの事を話してくれた。

小学校を卒業し中学生になっても状況は変わらず、女の子みたいな顔をして絵ばかり描いていた宮城さんはたびたび悪口や揶揄いの標的になったようだ。それでもハヤトさんだけはいつも宮城さんの側にいて、彼は辛うじて孤立しなかった。
高校生になると今度は宮城さんの容姿に憧れる女の子が現れ始めてようやく真っ当な学生生活が送れるようになった。宮城さんは漫画も変わらず描いていたが美術部に所属するようになってハヤトさんも空手部に入ってそれなりに充実した生活を送り出していた。そして思春期の彼らはそれぞれ初めての恋愛をした。宮城さんは美術部の2年先輩と付き合いはじめ、ハヤトさんは同性に恋をしたのだ。

「俺がBLを書き始めたのはハヤトがきっかけだったんだ。あの頃のハヤトは同性を好きになる自分が嫌いだったから、同性でも幸せなストーリーを見せたかった。俺なりにハヤトに何か恩返ししたかった気がする。」
「そっか、ハヤトさんの為だったんですね。」
「その頃はさ手伝ってもらってたワケじゃないんだ。まだ趣味の延長で漫画もSNSで出すだけだったから。」
そこで一旦宮城さんは無言になって、もう一度ため息をついた。

「でもハヤトの好きになった人がハヤトと急速に近づいて、もしかしてその恋愛は成就するかもと思っていた矢先、、俺がBL描いているのが学校でバレたんだ。ゲイだのホモだのと噂されるようになって、悪ノリのつもりなのか男どもに性的な嫌がらせを受けるようになった。、、その筆頭がハヤトが好きになった男だった。。」
「え、、」
「ハヤトがその男にうっかり話したんだよ。それだけ信用してたんだろうな。」
微かに宮城さんが震えている気がした。
「酷い話だよな。そいつハヤトを裏切ったんだよ。しかもそいつら俺を捕まえて“やらせろ”って、、まぁギリギリのラインは超えてこなかったのがせめてもの救いだ。」
「それ、、いつの話ですか」
「あー、高1の終わり頃かな。俺そこから1年間くらいまともに高校行ってないんだ。ハヤトもゲイだって噂されて俺と出来てると言われたのに責任感じて泣いて謝るし、俺と付き合っていた人も色んな視線や陰口や嘲笑の中で俺に会わずに卒業して行ったんだ。」
「宮城さんとハヤトさんの関係は壊れなかったんですか、、?」
「そうだな。ハヤトは完全に自分のせいだと思っていたけど俺はハヤトのせいだと思った事はないかな。それまですぐ孤立する俺を庇ってきたのはハヤトだったし。、、そんな俺たちは結局共依存するような形で一緒に地元から逃げて今の大学に入ったんだよ。」

宮城さんは高校に行けなかった間に“九条キュウジョウゆい”が誕生したのだと話した。

要するに、ハヤトさんはいじめられて孤立しがちな宮城さんを子供の時から庇って来たのに、順調に行き始めた高校生活を自分のせいで壊してしまった事に責任を感じてずっと自分と一緒にいるのだと彼は言うのだ。
でも宮城さんは自分のことを守って来たハヤトさんを悪く思う気持ちは全くないばかりか、ハヤトさんの心の支えとしてBL漫画を描き始めたと。

幼馴染とは言っても、地元から遠く離れた土地で同じ大学に通っているのにはそういう理由があったのだ。
俺は言葉にこそ出しはしなかったけれど、あのロンという人の気持ちが少しだけわかった気がした。2人の絆のようなものが深すぎて、とても他人が入ることの出来ないものを感じる。

宮城さんはその話を淡々と話したあと、気持ちが落ち着いたのかいつもの彼に戻っていて、これから仕事をすると言う。
「宮城さん、このまま泊まったらダメですか?」
「俺のことなら心配しなくていいよ」
「それもあるけど、、何か俺も少し動揺してて、ここに居たいです」
「、、まぁ良いけど。ー俺夜中まであっちの部屋に篭るから俺のベッドで寝な。」
一瞬困った顔をした彼は“家にはちゃんと連絡するように”と年上らしいことを言って了承してくれた。

俺がベッドに入ったのはもう1時近かった。一応持って来ていた勉強道具を出してリビングで勉強していたのだ。宮城さんも仕事部屋にこもっていてリビングに戻ってくる事は無かった。
人のベッドで、しかも宮城さんのベッドで寝る事に落ち着かなさを感じつつもようやく眠りについた頃だと思う。

ベッドがギシと音を立てて俺は目を覚ました。
「宮城さん?」
「あ、ごめん、起こした?」
「仕事終わったんですか?」
間接照明だけの薄明かりの中彼を見上げると、驚いた事に同じベッドに入ろうとしているようだった。
「うん、終わった。あっちのベッドで寝れなくて、、。」
「あ、じゃあ俺が向こうに、、」
「ベッドの上いろいろ置いてるからここで我慢して」
横に入った宮城さんに緊張して目が覚めた。
セミダブルのベッドは2人寝れなくはないけれど広々とはいかない。

仕事でもなんでもない宮城さんの完全なプライベートな空間に入ってしまった、、
しかも数時間前に彼の決して順風満帆とは言えない過去の話を聞いたばかりだ。
落ち着け、落ち着け。彼はただの男の先輩だ。

宮城さんの温かい背中が腕にわずかに触れていて、その存在を意識してしまう。動くのがなんだか怖い。
「あ、の、、宮城さん?俺やっぱり向こうで、、」
「もしかして他人と眠れない人?」
「いや、ちが、、宮城さんに緊張して、、」
背中を向けたまま「なにそれ」と彼がクスッと笑う。眠たいのか普段より柔らかい言い方にドキドキが増す。

細い背中を抱きしめたい。宮城さんは怒るだろうか。気持ち悪く思うだろうか。いや、違う。ダメだ変なこと考えるな。
腕を伸ばすな。腕を伸ばすな。腕を伸ばすな。
心の中でひたすら唱えていると、

「俺は人がいるの結構好きなんだ。あったかいじゃん」彼はそう言って、ふっと笑って続けた。
「ま、ハヤトとしか一緒に、、、」
宮城さんの言葉がプツリと途切れた。

「あの、蒼くん?」
「、、あったかい、、です」
俺の腕は背中から宮城さんを抱き締めていた。

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