リアルな恋を描く方法

ふじのはら

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一章【憧れ】

4 祝ってあげるよ

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“宮城さん、お久しぶりです。元気ですか?”
“締切に追われてる”

宮城さんからのメッセージは実際の彼らしく無愛想で言葉も少ない。

“忙しいんですね。締切いつなんですか?”

送信してすぐに電話がなった。

「あーごめん、文字入れんの面倒だった。」
「いえ、忙しい時にすみません。」
「んー。徹夜してたから息抜き。」
なんだか眠たそうな宮城さんの声が少しだけ幼く聞こえる。
「締切近いんですか?」
「明後日の朝。1人友だちがアシスタントしてくれてんだけど、毎度ギリギリなんだ。」
「へぇ!アシスタントいるんだ!頑張って下さいね。あ、俺“期限付きの恋”全部読みましたよ。」
「、、あー、ありがと。でも感想とかいらないから。」

またこの人は人を突き放す言い方をする、、
でもまさか読みながらあなたを想像して何度もヌいたとは言えないので俺は黙っていた。

「そうだ、俺昨日彼女出来たんです!」
「うわ、俺が死にかけてる間に青春してんね。まぁ、うん、おめでとー」
「宮城さん、彼女は??」
「いや、いない。ーあ、それより、明後日の夜さ友だちと打ち上げみたいなのやるんだけど来る?彼女出来たのついでに祝ってあげるよ。」
「え!!俺行っていいんですか!?絶対行きます!」
「さっき言ったアシスタントやってる友だち1人いるからな。来るなら明後日17時頃うちおいで」

この電話から俺はかなり浮かれていたようで、学校でハチに
「年上の男と遊ぶのがそんなに嬉しいもんかねぇ。彼女と遊ぶ方が嬉しいでしょ、普通。」
と呆れられたが、ハチには相手が実は漫画家だということを言っていないからわかってもらえなくても仕方がない。

彼女の音羽オトハちゃんは毎日昼休みになると俺の所へ来てくれて、周りの友だちにも注目されたけど、実は俺は彼女のことよりも宮城さんに誘ってもらったことで頭がいっぱいだった。
この時の俺には彼女とデートをするとか、いつキスしようとか、恋人が居たら当然考えそうな事が頭からスッポリと抜け落ちていたんだと思う。

「蒼先輩、今日の放課後暇ですか?どこか一緒に行きませんか?」
「ごめん、今日人と約束しててさ。」
音羽ちゃんが残念そうな表情をして、俺は少しだけ反省した。
「あ、明日の放課後なら大丈夫。」
「じゃあ明日!楽しみにしてますね!」
玄関で俺を待っていたらしい彼女は本当に嬉しそうな顔をして手を振って帰っていった。

「龍之介おまえさ、そんなに彼女に素っ気なかったっけ?」
やりとりを見ていたハチが靴を履きながらチラッと俺を見て顔をしかめる。
「あ?うそ?俺素っ気無い態度だった?」
「まぁ顔も知らなかった人と突然付き合ったんだからそんなもんなのかな。」
そう言って肩をすくめるハチは俺に軽く手をあげると玄関前で待つ桃ちゃんのところへ走って行ってしまった。

素っ気なかったかな?気をつけよう。せっかく出来た彼女なんだから。
そう反省している心の中の別の部分は、宮城さんちに何かお土産を持って行こうと考えている自分がいたけど俺は全く無自覚だった。


「いらっしゃい。入って。」
Tシャツとジーンズのラフな格好に、シャワーから出たばかりなのか髪の毛が少し濡れた宮城さんが俺を出迎えた。
いつもお洒落な服を着て今どきの髪型をしているからか、飾らない彼が新鮮だ。そのせいか相変わらずの綺麗な笑顔に何故か少し緊張してしまう。
促されるままに家に上がると、戸の開け放たれた作業部屋に絵の描かれた紙が散乱していて締切前の作業の大変さが垣間見えた気がした。

「あ、どうもー」
「こんにちは。蒼龍之介って言います。」
リビングのキッチンにいた人に頭を下げる。
宮城さんの友だちでアシスタントをしているというその人は、背が高くて宮城さんよりもガッシリしている。茶色い髪は短くて目を細めて笑う顔は人懐こいという表現がぴったりくるようだ。
「キミがあおい書店の御曹司くんか。俺神原隼人カンバラハヤト。コイツの友だちで仕事の手伝いもしてる。宜しくな。」
宮城さんとは対照的と言わざるを得ない気さくな様子で俺の手を握るとぶんぶん振って俺の緊張をどこかへふっ飛ばしてくれた。

「えっと、神原さん」
「ハヤトで良いよ。」
「じゃあハヤトさん、お料理出来るんですね。これ全部作ったんですか?」
「まぁね。イトが何も出来ないから自然とね。」
「は?俺は出来ないんじゃなくてやらねーの。それにハヤトが勝手にやってんだろ」
髪の毛を乾かしてきた宮城さんが、ハヤトさんの肩を小突いていつもより砕けた言いかたで笑う。

「お二人めちゃくちゃ仲良さそう。」
「え?俺とイト?仲良いっていうか、どっちかって言ったら兄弟みたいなもん?実家が隣同士なんだよ。幼馴染っていうやつ。一緒に風呂に入ったり寝たりする仲だよ」
「変な言い方してんなよ。ーこいつね、俺が絵描いてるのをずっと見てきてて、だから九条ゆいとして活動し始める時とかも側にいたやつなんだよ。」
「まさかBLで稼ぐとは思わなかったけどなー」
アハハと明るく笑うハヤトさんの横で宮城さんはジロリと睨んでみせる。

あれ、、?俺ハヤトさんとどっかで会ったことあるっけ?
いや無いよな?もしかして書店に客として来たことあったかな、、?
宮城さんと笑い合うハヤトさんに既視感を覚えたけれどそれがなんだかわからないまま、俺たち3人はハヤトさんが作った料理を食べて、2人は締切後の打ち上げと俺に彼女が出来た祝杯だと言って酒を飲んだ。
ハヤトさんはよく笑いよく喋り、中学校時代や高校時代の宮城さんの事を話しては宮城さんに怒られて笑っていた。

しかもハヤトさんは程よく俺にも彼女の話や友だちの話を振ってくれて、元々人見知りする性格じゃ無い俺はすっかり彼に打ち解けていた。
宮城さんはいつものように、俺には少し距離があったけどハヤトさんとふざけ合いながら結構な量のお酒を飲んでいたと思う。
土産に持って行ったケーキを皆で食べ終わってすぐに宮城さんはソファに寄りかかった体勢で眠り始めてしまった。

「おーい、イト、そんなとこで寝るなよ」
「んー、、、」
ハヤトさんに揺さぶられても宮城さんは目を閉じたまま頷くだけで、少し赤くなった頬や首筋が妙に色っぽくて俺は思わず彼の漫画を思い出さずにはいられ無くなって目を逸らせる。

「しかたねぇな。もうこうなるとコイツ起きないんだよ。」
そう言いながら慣れたふうにハヤトさんは宮城さんを抱きかかえて隣の部屋のベッドへ放り込む。

「でもさ、珍しいよ。イトがこういう時に人呼ぶの。基本異常な人見知りだからさ。」
「そうなんですか?」
「そうそう。こいつ見た目で結構損してるとこあってさ。あんまり人に心開かないっていうか、、。大学入ってからは特に。」
「見た目、、?綺麗すぎて損なんてするんですか?」
「まー、俺は物心着く前からイトを見てるからホント兄弟みたいな感覚だけど、良い人にも悪い人にも言い寄られるんだよ。女にも男にも。」
「男、、、」
「そ。世の中いろんな人いるからね。同性でも真っ直ぐな気持ちならまだ良いんだけど、悪い男だっているだろ?これでBL描いてるなんて知られたらどういう目に合うか、、」
「だから素顔晒すことあんまり無いんだ、、」
「女の子には逆効果なんだけどね。たまに飲み会とか行くと、イトの素顔見た子は殆ど惚れちゃって、だから男から反感もよくかうんだ。ー蒼くんも気をつけな」
「!俺は別に、宮城さんのことそんな風には、、」
見てない?見てないのかな、俺。宮城さんの顔を思い出しながらヌいたのに?
言葉に詰まった俺をじっとハヤトさんは見ていた。

「ま、イト自身がキミをこういう時に呼ぶってことは少なからず仲良くしたいんだろうから俺としては嬉しいよ。」

手際よく片付けをするハヤトさんを手伝って、あっという間に部屋が綺麗になると
「俺向こうの部屋も片付けるけど来る?」
と俺に声をかけて作業部屋へ入っていく。

そちらも慣れたふうに散乱してる紙を拾っていく。
「漫画って今どきパソコンだけあれば描けるのかと思ってました。」
「ああ、うん。でもイトは考えるときは紙に描く事が多いかな。」
俺も落ちている紙を拾う。当然のように男の絵がほとんどだ。

あれ、、?まて、、
こないだの、、、

「あーー!!」
「うぉ何!?」
「ハヤトさんだ!スケッチブックのデッサンのモデル!!」
そうだ!間違いない。
全てを晒してこのベッドで寝そべって挑発的な顔をしていたモデルだ。
ハヤトさんは一瞬キョトンとしてからすぐにわかったようにバツの悪そうな顔をした。
「うわぁ、見たのかよ。あー、俺さ美術系のモデルのバイトしてて、その流れでね。、、にしてもうわぁ、見られたくねー」
「宮城さんの目の前で、その、、」
「あはは、そう、したよ。他は見てないの?男と絡んでるのとか」
絵と同じように挑発的な目をして笑う。
「み、見てない。宮城さんに取り上げられたから、、」
「イトの前でアソコ勃てるのなんてもう普通の事だよ。ついでに教えてあげるけど、俺ゲイなんだ。男と付き合っててそいつもイトのモデルをやってる。イトのバイトすげぇ給料もらえるから、、ーあ、高校生には刺激強すぎたか?」

顔を赤くして立ち尽くす俺を見て、ハヤトさんは冗談でも言ったようにケラケラと笑っていた。
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