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第四章 19
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「逃げろ!」
砕封魔の声を合図にして、若頭たちが外へ出ようとする。
その時だった。
村人たちの動きが突然止まったのだ。
それどころか、突然上を仰ぎ浮いているモジュールの塊に視線を集中させた。
「こ、今度は何が始まるの!?」
逃げ出そうとしていたユズハが、顔を引き攣らせる。
そんな彼女の視線の先では、何と村人たちが枝によって捕らえられ、モジュールに吸収されてしまった。
直後、モジュールが大きく震えたかと思うと、巨大な何かを吐き出した。
人型……のようだが、何処かおかしい。
人間の何倍もの大きさで、体のあちこちがパックリと割れ、それら全てが“武器”のように変化していた。そう。まるで、槍やら斧やら剣、ハンマーのような形をしている。
「こりゃあ。残った村人合体させやがったな」
砕封魔の言葉は一見冗談のように聞こえたが、どこかで緊迫感を孕んでいた。
直後、テレーゼが地面に転がったショーテルをレーツェルに投げた。
「戦力は多い方が良い」
「……」
しかし、レーツェルは地面に仰向けになったまま、なかなかショーテルを手にしようとはしなかった。
そんなレーツェルの姿を見て、砕封魔が舌打ちをしながらも、合体した村人のバグに向かって跳び出した。
しかし、バグの武器の形をした枝が飛んできてしまっては、回避はできるが間合いを詰めることができなかった。
たった今、ハンマーがテレーゼの脳天めがけて勢いよく振り下ろされた。
それに気づきながらも、視線を上げることもせずに、日本刀の切先を頭上に突き立てた。
直後、ハンマーが真っ二つに裂け、地面に突き刺さる。
突き刺さった体の一部を引き抜こうとするバグに向かって、再度駆け出した。
そんな彼女に向かって、バグの複数の“武器”が飛んでくるが、切り払うか、躱すことでさらに前へと進んでいく――はずだった。
何かが聞こえるまでは。
『!』
複数の悲鳴だ。
背後からだ。
テレーゼが、敵の攻撃を回避しながら後ろを振り返った。
実は、テレーゼに攻撃を仕掛けていた武器は囮で、他の武器でユズハ達を襲っていたのだ。
――しまった!
テレーゼが、自分の足に急ブレーキを掛けて反転したが、距離があり間に合わないことは明白だった。
その間も、向かってくる武器に組長や若頭が短い刃物で追っ払おうとするが、結局何の役にも立たず、壁のある方へと追いやられていた。
一方で、レーツェルは相変わらず倒れたままだ。
――こんな時に、“アイツ”がいてくれたら……。
必死に走る砕封魔の脳裏に、ある人物の顔が浮かんでいた。
――普段は流されやすいクセに、急に頑固になるんだよな。
――涙もろくてよ。
――女の尻ばっかり追い掛けてよ。
そんなことを考えるテレーゼの足は、意外と速かったが、やはりユズハのところに到達するには、時間が欲しかった。
――しかたねぇ!
砕封魔が苦肉の策を、口にした。――なぜか、誰かと声が重なった。
『糸を張れ!』
その言葉で、ユズハが反射的に両手から糸を張り、“壁”を作り出した。
そのため、バグの攻撃を弾くことができた。まぁ。それでも、時間稼ぎに過ぎないのだが……。
そんなことは、この際どうでもいい。
声の主を視線に入れるなり、砕封魔が毒づいた。
いや、その言霊の裏に嬉しさが見え隠れしていた。
「へっ。来るのが遅ぇぞ!」
「待ち合わせした覚えはないぞ」
男はそういうと、地面に転がっているショーテルを手にして、バグの武器の一部を切り落とした。
「早く逃げろ!」
男――レッドは、ユズハの作った壁の前でショーテルを構えながら、バグから視線を外さずに発した。
その言葉にユズハは頷くと、壁の一部を開けて、他の人たちと共に逃がし始めた。
砕封魔の声を合図にして、若頭たちが外へ出ようとする。
その時だった。
村人たちの動きが突然止まったのだ。
それどころか、突然上を仰ぎ浮いているモジュールの塊に視線を集中させた。
「こ、今度は何が始まるの!?」
逃げ出そうとしていたユズハが、顔を引き攣らせる。
そんな彼女の視線の先では、何と村人たちが枝によって捕らえられ、モジュールに吸収されてしまった。
直後、モジュールが大きく震えたかと思うと、巨大な何かを吐き出した。
人型……のようだが、何処かおかしい。
人間の何倍もの大きさで、体のあちこちがパックリと割れ、それら全てが“武器”のように変化していた。そう。まるで、槍やら斧やら剣、ハンマーのような形をしている。
「こりゃあ。残った村人合体させやがったな」
砕封魔の言葉は一見冗談のように聞こえたが、どこかで緊迫感を孕んでいた。
直後、テレーゼが地面に転がったショーテルをレーツェルに投げた。
「戦力は多い方が良い」
「……」
しかし、レーツェルは地面に仰向けになったまま、なかなかショーテルを手にしようとはしなかった。
そんなレーツェルの姿を見て、砕封魔が舌打ちをしながらも、合体した村人のバグに向かって跳び出した。
しかし、バグの武器の形をした枝が飛んできてしまっては、回避はできるが間合いを詰めることができなかった。
たった今、ハンマーがテレーゼの脳天めがけて勢いよく振り下ろされた。
それに気づきながらも、視線を上げることもせずに、日本刀の切先を頭上に突き立てた。
直後、ハンマーが真っ二つに裂け、地面に突き刺さる。
突き刺さった体の一部を引き抜こうとするバグに向かって、再度駆け出した。
そんな彼女に向かって、バグの複数の“武器”が飛んでくるが、切り払うか、躱すことでさらに前へと進んでいく――はずだった。
何かが聞こえるまでは。
『!』
複数の悲鳴だ。
背後からだ。
テレーゼが、敵の攻撃を回避しながら後ろを振り返った。
実は、テレーゼに攻撃を仕掛けていた武器は囮で、他の武器でユズハ達を襲っていたのだ。
――しまった!
テレーゼが、自分の足に急ブレーキを掛けて反転したが、距離があり間に合わないことは明白だった。
その間も、向かってくる武器に組長や若頭が短い刃物で追っ払おうとするが、結局何の役にも立たず、壁のある方へと追いやられていた。
一方で、レーツェルは相変わらず倒れたままだ。
――こんな時に、“アイツ”がいてくれたら……。
必死に走る砕封魔の脳裏に、ある人物の顔が浮かんでいた。
――普段は流されやすいクセに、急に頑固になるんだよな。
――涙もろくてよ。
――女の尻ばっかり追い掛けてよ。
そんなことを考えるテレーゼの足は、意外と速かったが、やはりユズハのところに到達するには、時間が欲しかった。
――しかたねぇ!
砕封魔が苦肉の策を、口にした。――なぜか、誰かと声が重なった。
『糸を張れ!』
その言葉で、ユズハが反射的に両手から糸を張り、“壁”を作り出した。
そのため、バグの攻撃を弾くことができた。まぁ。それでも、時間稼ぎに過ぎないのだが……。
そんなことは、この際どうでもいい。
声の主を視線に入れるなり、砕封魔が毒づいた。
いや、その言霊の裏に嬉しさが見え隠れしていた。
「へっ。来るのが遅ぇぞ!」
「待ち合わせした覚えはないぞ」
男はそういうと、地面に転がっているショーテルを手にして、バグの武器の一部を切り落とした。
「早く逃げろ!」
男――レッドは、ユズハの作った壁の前でショーテルを構えながら、バグから視線を外さずに発した。
その言葉にユズハは頷くと、壁の一部を開けて、他の人たちと共に逃がし始めた。
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