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27.女子会
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「本当に、変な部屋だねーっ」
麻衣が、私の部屋をぐるぐる見回しながら、たまに小物を手に取りつつそう言った。
既に、ラムネ菓子は見つからないところへ避難してある。
今日は、麻衣と楓と沙月が急きょ私の家に集まった。
それと言うのも、昨日の斉藤くんとの堤防デートの後に『正式に恋人同士になりました報告』をスマホで飛ばしたばっかりに、とんとん拍子にこうなってしまったのだ。
楓はともかく、他の2人は私の部屋に来たがってたからなぁ。
楓が、パソコン用の椅子から振り返って、うんうんと頷いた。
「でしょ。こんな変な部屋なんだから、私たちが思う以上に桜も変なんだと思う」
「待って楓、楓は私と小学生の時から一緒なんだから、変じゃないことは分かってるはずだよ」
「薄々ずっと変だとは思ってたけど、中学から開花し始めたよね」
「何それ。私に謂れのない背景を付け足さないで」
「仲良いな、2人は」
沙月に苦笑される。
楓によって、私が変っていうイメージで固定されてしまいそうだ。
「それで、楓は桜のパソコンで何やってるんだ?」
沙月が聞くのはもっともだ。
部屋に入るなりパソコンをつけて、何やかんややっているのだから。
私にとっては、いつも通りだけど。
「面白いサイトのショートカットを、デスクトップに貼り付けてる。見たら順番に消してってねって」
「あぁ、いわゆる布教活動な。例えば、どーゆーのだ?」
「入社したらブラックだったみたいな悲哀のこもった読みやすいブログや、抱腹絶倒の面白サイト、技の匠を感じるSNSのアカウントや、一瞬、呪われたかと思うような恐怖の……」
「最後のいらない! 消しといて!」
慌てて、言葉を遮る。
「めちゃくちゃ面白そうだな。後で見よっかな」
「最後の消して、ほんと消して」
うっかり夜に見てしまったら、どうしてくれるんだ。
何とか消そうとパソコンのところへ私も行くと、麻衣がパンパンと手を叩いた。
「もー、みんな、今日は恋バナで盛り上がる日でしょ。ほらほら集まって」
「おかしいな。トリプルデートの予定を決めるためって昨日言ってなかった?」
「細かいことは、いーの!」
麻衣がポンポンと座布団を叩くので、私と沙月はしずしずと座る。
楓は、パソコン用の椅子をぐるりと回転させて、こちらを向いた。
「改めて、正式な恋人、おめでとー!」
「あ、ありがとう」
麻衣の言葉に合わせて、全員に拍手される。
何て恥ずかしい空間だろう。
好きな人も、恋人になった日もバレてて祝われるって、羞恥プレイもいいところだ。
「今の気分はどうですかー?」
麻衣に、マイクに見立てた拳を向けられる。
「いやまぁ、ぼちぼちで」
「もー、もっと盛り上がってこうよー!」
一番盛り上がっているのは、どう見ても麻衣だ。
「それで、どこにするの?」
楓がすかさず、助け船を出す。
この茶番にこれ以上付きあいたくなかったのかもしれない。
麻衣はうーんと腕組みをして考え出した。
可愛い系の女の子に腕組みはあんまり似合わないなーとか、ついどうでもいいことを考えてしまう。
「皆でワイワイならボーリングとかその辺かなー。デートっぽさを出すなら、動物園や水族館とか?」
「どれも楽しそうだな。桜はどこがいい?」
「私は何とも。楓は?」
「そうだねー。デメリットを考えてって、消去法でいいんじゃない?」
「浮かれて弾けてトリプルデートの決め手が消去法なのー!?」
麻衣が頬を膨らませる。
何だろう、そのネーミング。
「基本、消去法で生きてるから、私」
「まぁまぁ。じゃ、楓からそれぞれのデメリットを聞いてみようじゃないか」
「何それ、何それー」
3人との会話が面白すぎて、こっそりと涙が出てきた。
消去法の生き方かぁ。その着眼点は人生に取り入れていきたい。
「まず、ボーリングの類。私たち全員と仲がいいわけじゃない男子2人は気を遣うかもしれないし、会話も発生しやすい。自分の彼氏が他の女子と話してるのも、面白くないんじゃない? だからといって不自然に話さないのもね」
「なるほど。彼氏いないのに鋭いね」
「麻衣、うっさい」
確かに、楓と斉藤くんが仲良くしゃべってたら嫉妬するかもしれない。
沙月と麻衣なら、そんなにはしないと思うけど。何でだろう。
幼馴染だから?
それとも私が、女性として楓を1番魅力的で、斉藤くんを取られてもおかしくないと無意識に思ってるのかな。
「なんか、桜から熱い視線を感じる」
「ううん、気にせず続けて」
「気になるけど、まぁ。で、動物園や遊園地の類は、梅雨に入るから雨だとイマイチ。水族館は、イルカショーとかイベントに間に合うように時間決めるのが面倒ってとこかな。そっちは逆に会話は少なくなるかもね」
「ふーむ。それなら水族館か?」
沙月がまとめに入るそばで、麻衣が勢いよくスマホを操作している。
画面にイルカが一瞬見えたから、水族館について調べているのかな。
「消去法なんて認めないもん。水族館、今、真珠取り出し体験やってるんだって! アクセもそれで作ってもらえるみたい。皆で記念に作ろっか!」
そう言って、虹色に光るアコヤ貝の上に真珠がコロンと輝くページを、水戸黄門かのように私たちに見せた。
「へぇ、綺麗だな。ストラップにもできるんだな」
「男子2人はいいの?」
楓が聞くも、すかさず麻衣が「ノンノンノン」と指を振った。
「男子にもやってもらって、真珠は私たちにプレゼントよ。ね、桜!」
「う、うーん。そこは分かんないけど、相談してみる」
「じゃ、決まりで! 日程は大丈夫な日を日程決めアプリに各自入れつつ、男2人にも聞いて確定ね。やっと恋バナに移れるね」
「じゃ、楓のお勧めサイトでも皆で見ますかー」
わざとらしく言って、立ち上がる。
「お、そうそう見たいんだった」
沙月も立ち上がって楓の真横に立った。
「じゃ、まずは恐怖の……」
「そんなぁーーー」
麻衣が、待ってのポーズで情け無い声をあげた。
仕方ない、私は麻衣に付きあってあげるか。
もう一度座り直すと、よしよしと頭を撫でる。
「分かった分かった。麻衣の、恋バナになら付きあうよー」
「もー、それでもいいけど!」
口を尖らせながら照れた様子を見せる麻衣に、少し驚く。
もう何年も真鍋くんと付きあっているはずなのに、こんな顔ができるほど好きでいられるんだ。
長続きの秘訣を伝授してもらうつもりで、惚気に付きあうとしようか。
私たちは、それから数時間、麻衣と真鍋くんとの出会いから入る長い長い話を胸やけがするほど堪能した。
麻衣が、私の部屋をぐるぐる見回しながら、たまに小物を手に取りつつそう言った。
既に、ラムネ菓子は見つからないところへ避難してある。
今日は、麻衣と楓と沙月が急きょ私の家に集まった。
それと言うのも、昨日の斉藤くんとの堤防デートの後に『正式に恋人同士になりました報告』をスマホで飛ばしたばっかりに、とんとん拍子にこうなってしまったのだ。
楓はともかく、他の2人は私の部屋に来たがってたからなぁ。
楓が、パソコン用の椅子から振り返って、うんうんと頷いた。
「でしょ。こんな変な部屋なんだから、私たちが思う以上に桜も変なんだと思う」
「待って楓、楓は私と小学生の時から一緒なんだから、変じゃないことは分かってるはずだよ」
「薄々ずっと変だとは思ってたけど、中学から開花し始めたよね」
「何それ。私に謂れのない背景を付け足さないで」
「仲良いな、2人は」
沙月に苦笑される。
楓によって、私が変っていうイメージで固定されてしまいそうだ。
「それで、楓は桜のパソコンで何やってるんだ?」
沙月が聞くのはもっともだ。
部屋に入るなりパソコンをつけて、何やかんややっているのだから。
私にとっては、いつも通りだけど。
「面白いサイトのショートカットを、デスクトップに貼り付けてる。見たら順番に消してってねって」
「あぁ、いわゆる布教活動な。例えば、どーゆーのだ?」
「入社したらブラックだったみたいな悲哀のこもった読みやすいブログや、抱腹絶倒の面白サイト、技の匠を感じるSNSのアカウントや、一瞬、呪われたかと思うような恐怖の……」
「最後のいらない! 消しといて!」
慌てて、言葉を遮る。
「めちゃくちゃ面白そうだな。後で見よっかな」
「最後の消して、ほんと消して」
うっかり夜に見てしまったら、どうしてくれるんだ。
何とか消そうとパソコンのところへ私も行くと、麻衣がパンパンと手を叩いた。
「もー、みんな、今日は恋バナで盛り上がる日でしょ。ほらほら集まって」
「おかしいな。トリプルデートの予定を決めるためって昨日言ってなかった?」
「細かいことは、いーの!」
麻衣がポンポンと座布団を叩くので、私と沙月はしずしずと座る。
楓は、パソコン用の椅子をぐるりと回転させて、こちらを向いた。
「改めて、正式な恋人、おめでとー!」
「あ、ありがとう」
麻衣の言葉に合わせて、全員に拍手される。
何て恥ずかしい空間だろう。
好きな人も、恋人になった日もバレてて祝われるって、羞恥プレイもいいところだ。
「今の気分はどうですかー?」
麻衣に、マイクに見立てた拳を向けられる。
「いやまぁ、ぼちぼちで」
「もー、もっと盛り上がってこうよー!」
一番盛り上がっているのは、どう見ても麻衣だ。
「それで、どこにするの?」
楓がすかさず、助け船を出す。
この茶番にこれ以上付きあいたくなかったのかもしれない。
麻衣はうーんと腕組みをして考え出した。
可愛い系の女の子に腕組みはあんまり似合わないなーとか、ついどうでもいいことを考えてしまう。
「皆でワイワイならボーリングとかその辺かなー。デートっぽさを出すなら、動物園や水族館とか?」
「どれも楽しそうだな。桜はどこがいい?」
「私は何とも。楓は?」
「そうだねー。デメリットを考えてって、消去法でいいんじゃない?」
「浮かれて弾けてトリプルデートの決め手が消去法なのー!?」
麻衣が頬を膨らませる。
何だろう、そのネーミング。
「基本、消去法で生きてるから、私」
「まぁまぁ。じゃ、楓からそれぞれのデメリットを聞いてみようじゃないか」
「何それ、何それー」
3人との会話が面白すぎて、こっそりと涙が出てきた。
消去法の生き方かぁ。その着眼点は人生に取り入れていきたい。
「まず、ボーリングの類。私たち全員と仲がいいわけじゃない男子2人は気を遣うかもしれないし、会話も発生しやすい。自分の彼氏が他の女子と話してるのも、面白くないんじゃない? だからといって不自然に話さないのもね」
「なるほど。彼氏いないのに鋭いね」
「麻衣、うっさい」
確かに、楓と斉藤くんが仲良くしゃべってたら嫉妬するかもしれない。
沙月と麻衣なら、そんなにはしないと思うけど。何でだろう。
幼馴染だから?
それとも私が、女性として楓を1番魅力的で、斉藤くんを取られてもおかしくないと無意識に思ってるのかな。
「なんか、桜から熱い視線を感じる」
「ううん、気にせず続けて」
「気になるけど、まぁ。で、動物園や遊園地の類は、梅雨に入るから雨だとイマイチ。水族館は、イルカショーとかイベントに間に合うように時間決めるのが面倒ってとこかな。そっちは逆に会話は少なくなるかもね」
「ふーむ。それなら水族館か?」
沙月がまとめに入るそばで、麻衣が勢いよくスマホを操作している。
画面にイルカが一瞬見えたから、水族館について調べているのかな。
「消去法なんて認めないもん。水族館、今、真珠取り出し体験やってるんだって! アクセもそれで作ってもらえるみたい。皆で記念に作ろっか!」
そう言って、虹色に光るアコヤ貝の上に真珠がコロンと輝くページを、水戸黄門かのように私たちに見せた。
「へぇ、綺麗だな。ストラップにもできるんだな」
「男子2人はいいの?」
楓が聞くも、すかさず麻衣が「ノンノンノン」と指を振った。
「男子にもやってもらって、真珠は私たちにプレゼントよ。ね、桜!」
「う、うーん。そこは分かんないけど、相談してみる」
「じゃ、決まりで! 日程は大丈夫な日を日程決めアプリに各自入れつつ、男2人にも聞いて確定ね。やっと恋バナに移れるね」
「じゃ、楓のお勧めサイトでも皆で見ますかー」
わざとらしく言って、立ち上がる。
「お、そうそう見たいんだった」
沙月も立ち上がって楓の真横に立った。
「じゃ、まずは恐怖の……」
「そんなぁーーー」
麻衣が、待ってのポーズで情け無い声をあげた。
仕方ない、私は麻衣に付きあってあげるか。
もう一度座り直すと、よしよしと頭を撫でる。
「分かった分かった。麻衣の、恋バナになら付きあうよー」
「もー、それでもいいけど!」
口を尖らせながら照れた様子を見せる麻衣に、少し驚く。
もう何年も真鍋くんと付きあっているはずなのに、こんな顔ができるほど好きでいられるんだ。
長続きの秘訣を伝授してもらうつもりで、惚気に付きあうとしようか。
私たちは、それから数時間、麻衣と真鍋くんとの出会いから入る長い長い話を胸やけがするほど堪能した。
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