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24-4.夢2アリス

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「明日、会わないか?」
「ふぇ?」

 食べることに意識をシフトして、もぐもぐしていたら目の前からデートのお誘いが降ってきた。

 というか、斉藤くん食べてないし。
 私だけガッツいているみたいで、恥ずかしい。

「急だし、その辺を歩くだけでいいからさ」
「う、うん。いいよ」

 この前は楓に見つかったし、また誰かに見つかりそうな気もするけど。
 それも、いいか。

 はー、ガトーショコラ、美味しかった!
 フランボワーズ、切り分けていいかな。いや、その前に軽くマカロンを食べよう。

「桜ちゃん」
「んん?」

 口の中で、マカロンがほろほろと溶けて、柚子の匂いが広がる。
 この味は全部、斉藤くんの想像からできているんだろうか。
 もう私の持っているラムネと、全部交換したい。毎日招待されたい。毎日食べたい。

「既に、俺への愛が薄れてる気がするんだけど、気のせいかな」

 なぜか、悲しそうなうるうるした瞳で見つめられている。
 最近、ちょっとキャラ崩壊してないかな、斉藤くん。
 それとも、それも含めて麻衣の言ってた甘えてるってやつ?

「そんなことないよ。愛、あるよ。めいっぱいある。お菓子が美味しすぎるだけ」
「そうかな」

 駄目だ。薔薇の香りがするマカロンが気になって仕方がない。
 そっと、崩れないように右手で掴んだ。美味しそう。

 突然、斉藤くんが立ち上がると、コツコツと足音をたてながら長テーブルをまわって私の背後に立った。

 ぎゅっと椅子ごと抱きしめられる。

「斉藤くん……?」
「今日も寝る前に、他の男との妄想してきたんでしょ?」
「ぐっ」
「それで俺の夢に来て、俺なんて眼中に入らないかのように、ずっと食べてるし」
「うっ」

 今度は私が責められるターンらしい。

「これが最初の夢だったら、きっと俺のこと、その、えっと……」

 最初の夢だったら?
 私は、どうしてたんだっけ?

「お、襲ってくれた、だろ? 俺よりお菓子を選ぶことは……ごめん、やっぱいい」

 私を背後から抱きしめたまま、肩口にはぁぁぁぁーっとため息をつきながら突っ伏した。

「えっと、それはつまり、お菓子に嫉妬?」
「だから、もういいって」
「斉藤くん、そんな可愛いタイプだったっけ?」
「余裕だな、余裕すぎるよ。俺だけが振り回されてる」
「そんなことは……わきゃぁ!」

 突然、私の座っていた椅子がなくなった。そのまま斉藤くんの身体の中にすっぽりと収まる。

「夢でも、脱いでくれなくなっちゃったし」
「ぬ、脱いでほしかったんだ?」
「勝手にさ、あんな格好で現れて、あんな妄想見せられてさ、あんな表情まで見せといて、いきなり距離とか作らないでよ」
「距離、ないよ? ちゃんと斉藤くんの腕の中にいるよ」

 いつの間にか、ソファの上で斉藤くんに抱きしめられている。

 現実では、別の家に住んでいて、学校があって、外でいちゃいちゃもなかなかできない。自宅は親も帰ってくるし、ゆっくりと2人きりでくつろぐ機会は、ないと言ってもいい。

 今しかないんだな、と思いながら、すりすりと顔を押しつけた。

 あったかいし、夢みたい。
 そっと彼の手に自分の手を合わせる。

「なら、脱がせていい?」

 そっと私の手をのせたまま、彼の手が胸の上に置かれる。
 改めて、今はこの世界で2人きり、襲われてもおかしくないんだと気づいて緊張感が走った。

「最初の夢と逆だね」

 突然焦り始めた自分に気づかれたくなくて、余裕ぶって笑ってみせる。

「うん。今なら、あの時の桜ちゃんの気持ちが分かるよ。我慢できない、ちょっとだけ触らせて」
「……っ」

 顔が熱い。鼓動が速い。
 今は、好かれている。
 触りたいって思われるほど、好かれているんだ。
 エロス的な愛かもしれないけど、それでもいい。

「い、いいよ」

 どうなっちゃうんだろう。
 手に入らないと欲しくて仕方なかったのに、求められると不安になるなんて。

 ふわっと服が消えた。
 ずっと右手に持っていたマカロンは、テーブルの上にワープした。

 直接、斉藤くんの手が私の胸に触れる。

「どう触ったら、気持ちいいの? 分からないから、教えて」
「それは恥ずかしくて、無理」

 ただ触っているだけの手つきとは違って、外から内へと迫ってくるような、やらしい手つきで揉まれる。

「考えてること、俺に伝わってほしいなーって願えば、できるのかな」
「そ、それはやめて。試そうともしないで」
「それなら、口で教えて」

 くり、と乳首をつままれる。

「ん、やぁっ」
「触られの、いや?」
「それは、嫌じゃないけど、ぁあ、んっ」

 指が、1本だけ私の中に入ってきた。
 まさか、ここまでするとは思わなかった。

「1本だけで、めちゃくちゃキツイな」
「そ、そうなの?」
「現実と一緒? 自分の指、入れたことある?」
「セクハラ! セクハラすぎ! な、ないもん」
「ふーん」
「怖くて、本当にないもん。シャワーなら、あるかもしれないけど……」
「へぇ。シャワー、あてるの? 気持ちいいんだ」
「んっ、やぁ、忘れて、んんっ」

 ゆっくりと中を擦られる感覚が気持ちいい。
 でも、思った以上に怖い。

「緊張してるのも、あるのかな。あー、でももう、夢から覚めそう」
「えぇ、このタイミングで?」
「明日、メール送るから」
「んんっ、ま、待ってる」

 最後に、後ろから頬にちゅーっとキスをすると、彼は消えた。
 身体への愛撫が突如として消えて、心許なくなる。

「もう、好き勝手して」

 一言そう呟き、私も消えた。
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