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19.公園
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「桜ちゃん? もしかして、甘いの苦手?」
しまった。沈黙しすぎた。
心配そうに聞かれてしまった。
「ううん! 大好きだよ。ごめん、感動しすぎて泣きそうになっちゃった。そう言えば、料理するって言ってたもんね。お菓子も作れるなんて尊敬する」
彼はホッとしたようにカップケーキを取り出して、私に手渡してくれた。
「大したことないよ。家にある材料で作った、普通のカップケーキだし。3つあるから、ここで1つ食べてく?」
「うん、食べる! すごいよ、十分。3つあるなら斉藤くんも一緒に食べよ?」
私だけもぐもぐするのは、ちょっと恥ずかしい。
「俺は1つ食べてきたし、全部あげようと思ったんだけど」
「それなら、あと1つ食べたら2つずつだよ? 斉藤くんより多いのは気が引けるし、一緒に食べたいな。お腹いっぱいなら私、もらっちゃうけど」
斉藤くんは、うーんと悩む素振りをした後に、「じゃ、食べよっかな」と言って、もう1つ取り出した。
「じゃぁ、いただきます」
そう言って、パクリとかぶりつく。
ふわりと滑らかな舌触りで、甘くて美味しい。
「しっとりふわふわ、すっごく美味しい。幸せすぎて、もう人生に悔いなしだよ」
もうこの世に満足して、成仏してしまいそうなほど、私の心もふわふわしている。
「まだまだ人生長いのに、何言ってるの」
愛おしい人を見るような目で笑いながら、私の口の少し下に手を伸ばされる。
人差し指で拭うようにされた後、指についたカップケーキの欠片を、パクリと彼が食べた。
食べカスがついてたんだー!!!
恥ずかしい。
その上、それを取って、食べちゃうとか。
バカップルだ!
バカップルでしょ!
紛うことなき、バカップルでしょ!
ヤバい。
このままバカップル道を、突き進んでしまいそう。
嬉しくてドキドキする気持ちと、まさか自分がバカップルのような行為をするとはという気恥ずかしさと、それすらも幸せに感じてしまう頭のおかしさに身悶えしてしまう。
ここは冷静にならなくてはと「ありがとう」と小さく言って、もう一口食べてふと前を向くと、知り合いと目が合った。
か、か、か、楓だーーーー!!!
公園の入口近くから、固まったようにこちらを見ていた。
ボーイッシュな服に、癖っ毛な髪がうねっている。どう見ても、楓だ。
そう言えば、楓はこの団地に住んでるんだった……。
今のイチャイチャ、見られたかなと焦りながら、手を振ってみる。
ハッとしたようにワンテンポ置いて、手を銃の形にしてこちらをバンと撃つ真似をしてから、バイバイと手を振って立ち去っていった。
「楓に見つかっちゃったね」
「柚木さん、この辺なの?」
「うん、この団地に住んでるよ」
大体の方向を指差す。
「そっか、同じ中学の奴も結構住んでるのかもな。他にも見られたかも」
「嫌だよね、やっぱり」
「いいや。見られてたほうが、気分いいな」
「気分いいの?」
「もちろん。牽制になるだろ? 女子だったとしても、他の男子に言っといてくれるかもしれない」
あっははと笑って、残りのカップケーキを食べる。
ずっとずっと、これからもずっと、こんな会話ができる関係でいたい。
「同じ中学だった友達から、見かけたよーって、付きあってんのって聞かれたら、なんて言うの?」
またずるい質問をしてしまった。
ずるすぎて、自分にうんざりする。
「そうだな。付きあってるって言っちゃうかもな。他の奴の可能性は潰しておきたい」
「なんか、顔こわいよ?」
「ワンチャンあるかもと思われるケースを想像したら、ムカついたんだよ」
「そんな風に思われるほど、モテないって、私」
何がどうしてどうなって、こんなに好かれたんだろう。
「でも、楓に見られたってことは、明日付きあってるのって聞かれるかもなぁ。なんて答えたらいい?」
また、ずるい質問だ。
ゆっくりと仲良くなりたいって言ってくれたのに、関係性を決めさせようとしている。
「いいよ、付きあってるって言って」
「いいの?」
「どうせ言うなら、他の男に聞こえるように言って」
「あっはは、また言ってる。私、モテないから大丈夫なのに」
いつの間にか、2人ともカップケーキを1つずつ食べ終わってしまった。
彼は、私の手からカップケーキを包んでいた薄い紙を抜き取ると、別のビニール袋に入れて、携帯用の小さなウェットティッシュを私に渡した。
「い……至れり尽くせりだね。斉藤くんと仲良くなる女子、みんな斉藤くんを好きになっちゃいそう。今、危機感を感じたよ」
「他の子には、やらないって」
「いやいや、ナチュラルにやっちゃいそう。ちょっと結婚の予約しといていいですか?」
「ははは」
くすくす笑いながら、「ハイ」と残りのカップケーキが1つ入った紙袋を手渡される。
今日の逢瀬は、もう終わってしまう。テスト勉強という現実に戻らなければならない。
どちらともなく立ち上がり、手をつなぎたいなと思ったら、手を差し出された。
街中でイチャつくカップルを見て、恥ずかしいなと思っていたけれど、気持ちが分かってしまった。
2人きりで会える日は限られている。
愛情だって、いつまでも続くなんて保証はない。
だからこそ、できるだけ側にいて、触れていたい。
そんなものなんだ。
しまった。沈黙しすぎた。
心配そうに聞かれてしまった。
「ううん! 大好きだよ。ごめん、感動しすぎて泣きそうになっちゃった。そう言えば、料理するって言ってたもんね。お菓子も作れるなんて尊敬する」
彼はホッとしたようにカップケーキを取り出して、私に手渡してくれた。
「大したことないよ。家にある材料で作った、普通のカップケーキだし。3つあるから、ここで1つ食べてく?」
「うん、食べる! すごいよ、十分。3つあるなら斉藤くんも一緒に食べよ?」
私だけもぐもぐするのは、ちょっと恥ずかしい。
「俺は1つ食べてきたし、全部あげようと思ったんだけど」
「それなら、あと1つ食べたら2つずつだよ? 斉藤くんより多いのは気が引けるし、一緒に食べたいな。お腹いっぱいなら私、もらっちゃうけど」
斉藤くんは、うーんと悩む素振りをした後に、「じゃ、食べよっかな」と言って、もう1つ取り出した。
「じゃぁ、いただきます」
そう言って、パクリとかぶりつく。
ふわりと滑らかな舌触りで、甘くて美味しい。
「しっとりふわふわ、すっごく美味しい。幸せすぎて、もう人生に悔いなしだよ」
もうこの世に満足して、成仏してしまいそうなほど、私の心もふわふわしている。
「まだまだ人生長いのに、何言ってるの」
愛おしい人を見るような目で笑いながら、私の口の少し下に手を伸ばされる。
人差し指で拭うようにされた後、指についたカップケーキの欠片を、パクリと彼が食べた。
食べカスがついてたんだー!!!
恥ずかしい。
その上、それを取って、食べちゃうとか。
バカップルだ!
バカップルでしょ!
紛うことなき、バカップルでしょ!
ヤバい。
このままバカップル道を、突き進んでしまいそう。
嬉しくてドキドキする気持ちと、まさか自分がバカップルのような行為をするとはという気恥ずかしさと、それすらも幸せに感じてしまう頭のおかしさに身悶えしてしまう。
ここは冷静にならなくてはと「ありがとう」と小さく言って、もう一口食べてふと前を向くと、知り合いと目が合った。
か、か、か、楓だーーーー!!!
公園の入口近くから、固まったようにこちらを見ていた。
ボーイッシュな服に、癖っ毛な髪がうねっている。どう見ても、楓だ。
そう言えば、楓はこの団地に住んでるんだった……。
今のイチャイチャ、見られたかなと焦りながら、手を振ってみる。
ハッとしたようにワンテンポ置いて、手を銃の形にしてこちらをバンと撃つ真似をしてから、バイバイと手を振って立ち去っていった。
「楓に見つかっちゃったね」
「柚木さん、この辺なの?」
「うん、この団地に住んでるよ」
大体の方向を指差す。
「そっか、同じ中学の奴も結構住んでるのかもな。他にも見られたかも」
「嫌だよね、やっぱり」
「いいや。見られてたほうが、気分いいな」
「気分いいの?」
「もちろん。牽制になるだろ? 女子だったとしても、他の男子に言っといてくれるかもしれない」
あっははと笑って、残りのカップケーキを食べる。
ずっとずっと、これからもずっと、こんな会話ができる関係でいたい。
「同じ中学だった友達から、見かけたよーって、付きあってんのって聞かれたら、なんて言うの?」
またずるい質問をしてしまった。
ずるすぎて、自分にうんざりする。
「そうだな。付きあってるって言っちゃうかもな。他の奴の可能性は潰しておきたい」
「なんか、顔こわいよ?」
「ワンチャンあるかもと思われるケースを想像したら、ムカついたんだよ」
「そんな風に思われるほど、モテないって、私」
何がどうしてどうなって、こんなに好かれたんだろう。
「でも、楓に見られたってことは、明日付きあってるのって聞かれるかもなぁ。なんて答えたらいい?」
また、ずるい質問だ。
ゆっくりと仲良くなりたいって言ってくれたのに、関係性を決めさせようとしている。
「いいよ、付きあってるって言って」
「いいの?」
「どうせ言うなら、他の男に聞こえるように言って」
「あっはは、また言ってる。私、モテないから大丈夫なのに」
いつの間にか、2人ともカップケーキを1つずつ食べ終わってしまった。
彼は、私の手からカップケーキを包んでいた薄い紙を抜き取ると、別のビニール袋に入れて、携帯用の小さなウェットティッシュを私に渡した。
「い……至れり尽くせりだね。斉藤くんと仲良くなる女子、みんな斉藤くんを好きになっちゃいそう。今、危機感を感じたよ」
「他の子には、やらないって」
「いやいや、ナチュラルにやっちゃいそう。ちょっと結婚の予約しといていいですか?」
「ははは」
くすくす笑いながら、「ハイ」と残りのカップケーキが1つ入った紙袋を手渡される。
今日の逢瀬は、もう終わってしまう。テスト勉強という現実に戻らなければならない。
どちらともなく立ち上がり、手をつなぎたいなと思ったら、手を差し出された。
街中でイチャつくカップルを見て、恥ずかしいなと思っていたけれど、気持ちが分かってしまった。
2人きりで会える日は限られている。
愛情だって、いつまでも続くなんて保証はない。
だからこそ、できるだけ側にいて、触れていたい。
そんなものなんだ。
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