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9.友達
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12時40分、体育の時間の後の昼食の時間になった。
友達の近くの机をいつも通り借りて、ガタガタとくっつける。4人のいつものメンツが、いつもの場所に座った。
「持久走の後に昼食って、吐き気もするし最悪だと思うー」
友達の貝塚麻衣が口をとんがらせて言った。変な顔をしていても、可愛い。ツインテールが似合う小柄な女の子で、実は違うクラスに彼氏がいる。
「でも、お昼の後の体育よりはマシじゃない?」
私がそう言うと、隣に座る古谷沙月がうんうんと頷いた。
「さすがの私でも昼食べた後は横っ腹痛くなるしな、昼前は慌ただしくて嫌いだけど、まだマシだ。それにしても、吐き気がするほど頑張らなくてもいいんじゃないか?」
「沙月はバレー部で鍛えてるから、手を抜いても速いんだよ。私は頑張らないと、ドベだよ。ドベちん!」
麻衣が恨めしそうに、沙月に文句を言う。
沙月は高身長でスラっとしていて、何でもそつなくこなすタイプだ。短髪のカッコいい女子で、持久走の後なのに爽やかだ。
多少手を抜いていたからこその、余裕のある爽やかさだったのか……。
コンビニのパンの袋を開けようとしていた目の前の柚木楓が、手を止めて麻衣を睨んだ。
「麻衣ー、ドベちんの私の前で、よくそんなことが言えるわね」
癖っ毛の楓の髪が、汗のせいか風のせいか、ぐりんぐりんになっている。ワンちゃんにするように、ぐしゃぐしゃーっと撫でたくてうずうずする。
「ごめん、ごめん。楓、疲れたら悠々と歩いてるし、気にしてるとは思わなくて」
「うん、私もある意味カッコいいなって思ってたよ」
麻衣に続けて私もそう言うと、楓がぎゅっと顔をしかめた。
「無理はしない主義だし、それでいいって思ってるけど、ドベちんって言われると気分悪い!」
そこまで言った後に、得意げに人差し指を立てて、こう続けた。
「でも直す気もない。人間とはそういうものよ」
楓らしい。沙月と比べて、楓は運動全般が苦手だ。でも卑屈にはならず、我が道を進む楓を羨ましいとすら思う。私や麻衣はほとんど手を抜かず、それでも真ん中周辺だ。
「ところで、桜に聞きたいことがあるんだけど」
むっふっふという含み笑いをしながら麻衣に聞かれた。嫌な予感しかしない。
「きょ、拒否権を発動します!」
「まだ、何も聞いてなーい!」
どうしたどうしたといった顔で、楓と沙月がこちらを見る。
「昨日、私たちと一緒に帰るはずだったところを、図書室に寄りたいからって断ったわよね」
「う、うん。そうね」
何も悪いことはしていないのに、冷や汗が出る。
私たち、とは麻衣と楓のことだ。沙月はバレー部があって、週一の休み以外は一緒に帰らない。
高校の近所に住んでいる帰宅部の麻衣とは坂の下まで一緒で、幼馴染の楓とは同じ美術部所属でもあり、自宅も近いから電車も一緒だ。
駄菓子屋さんに寄った日は、たまたま楓が乗り換え駅近くのゲーム屋さんに行くと言うので、興味のない私とは別行動だった。
「その、昨日のたった1日でね」
言いながら、麻衣は自分の机の中から筆箱を取り出し、鉛筆で薄く『Sくん』と書いた。
「仲良く、なってない?」
目ざとい。彼氏持ちは洞察力が違うのだろうか。
「そ、そうかな。気のせいじゃない?」
引きつった笑顔で否定するも、沙月が小声で「だれ、だれ? エス……」と言いながらクラスを見渡し始めた。
王子キャラなのに、恋愛ごとはやっぱり気になるらしい。
「よかったじゃない」
ちらりとも周りを見渡さず、楓が言った。
「ぇ」
今までの会話の中で一番ドクンと心臓が鳴った。
気づかれていた?
もしかして、中学生の時から?
「なになに? もしかして『そう』、なの?」
麻衣が身を乗り出して聞くも、楓はちらりと私を見て、おにぎりの袋を開けながら素知らぬ顔で言った。
「さぁ。ただ、よかったねって思っただけ」
シーン。
4人の間に静寂が訪れる。
楓のおにぎりを頬張るもぐもぐ音だけが続いて、誰も言葉を発しない。
まずい。まだ同じクラスになって1ヶ月程度だ。私が楓にだけ内緒で昔から相談していたとか思われちゃう。
何とかしなくては。
私は焦りながら、次の言葉を探した。
友達の近くの机をいつも通り借りて、ガタガタとくっつける。4人のいつものメンツが、いつもの場所に座った。
「持久走の後に昼食って、吐き気もするし最悪だと思うー」
友達の貝塚麻衣が口をとんがらせて言った。変な顔をしていても、可愛い。ツインテールが似合う小柄な女の子で、実は違うクラスに彼氏がいる。
「でも、お昼の後の体育よりはマシじゃない?」
私がそう言うと、隣に座る古谷沙月がうんうんと頷いた。
「さすがの私でも昼食べた後は横っ腹痛くなるしな、昼前は慌ただしくて嫌いだけど、まだマシだ。それにしても、吐き気がするほど頑張らなくてもいいんじゃないか?」
「沙月はバレー部で鍛えてるから、手を抜いても速いんだよ。私は頑張らないと、ドベだよ。ドベちん!」
麻衣が恨めしそうに、沙月に文句を言う。
沙月は高身長でスラっとしていて、何でもそつなくこなすタイプだ。短髪のカッコいい女子で、持久走の後なのに爽やかだ。
多少手を抜いていたからこその、余裕のある爽やかさだったのか……。
コンビニのパンの袋を開けようとしていた目の前の柚木楓が、手を止めて麻衣を睨んだ。
「麻衣ー、ドベちんの私の前で、よくそんなことが言えるわね」
癖っ毛の楓の髪が、汗のせいか風のせいか、ぐりんぐりんになっている。ワンちゃんにするように、ぐしゃぐしゃーっと撫でたくてうずうずする。
「ごめん、ごめん。楓、疲れたら悠々と歩いてるし、気にしてるとは思わなくて」
「うん、私もある意味カッコいいなって思ってたよ」
麻衣に続けて私もそう言うと、楓がぎゅっと顔をしかめた。
「無理はしない主義だし、それでいいって思ってるけど、ドベちんって言われると気分悪い!」
そこまで言った後に、得意げに人差し指を立てて、こう続けた。
「でも直す気もない。人間とはそういうものよ」
楓らしい。沙月と比べて、楓は運動全般が苦手だ。でも卑屈にはならず、我が道を進む楓を羨ましいとすら思う。私や麻衣はほとんど手を抜かず、それでも真ん中周辺だ。
「ところで、桜に聞きたいことがあるんだけど」
むっふっふという含み笑いをしながら麻衣に聞かれた。嫌な予感しかしない。
「きょ、拒否権を発動します!」
「まだ、何も聞いてなーい!」
どうしたどうしたといった顔で、楓と沙月がこちらを見る。
「昨日、私たちと一緒に帰るはずだったところを、図書室に寄りたいからって断ったわよね」
「う、うん。そうね」
何も悪いことはしていないのに、冷や汗が出る。
私たち、とは麻衣と楓のことだ。沙月はバレー部があって、週一の休み以外は一緒に帰らない。
高校の近所に住んでいる帰宅部の麻衣とは坂の下まで一緒で、幼馴染の楓とは同じ美術部所属でもあり、自宅も近いから電車も一緒だ。
駄菓子屋さんに寄った日は、たまたま楓が乗り換え駅近くのゲーム屋さんに行くと言うので、興味のない私とは別行動だった。
「その、昨日のたった1日でね」
言いながら、麻衣は自分の机の中から筆箱を取り出し、鉛筆で薄く『Sくん』と書いた。
「仲良く、なってない?」
目ざとい。彼氏持ちは洞察力が違うのだろうか。
「そ、そうかな。気のせいじゃない?」
引きつった笑顔で否定するも、沙月が小声で「だれ、だれ? エス……」と言いながらクラスを見渡し始めた。
王子キャラなのに、恋愛ごとはやっぱり気になるらしい。
「よかったじゃない」
ちらりとも周りを見渡さず、楓が言った。
「ぇ」
今までの会話の中で一番ドクンと心臓が鳴った。
気づかれていた?
もしかして、中学生の時から?
「なになに? もしかして『そう』、なの?」
麻衣が身を乗り出して聞くも、楓はちらりと私を見て、おにぎりの袋を開けながら素知らぬ顔で言った。
「さぁ。ただ、よかったねって思っただけ」
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4人の間に静寂が訪れる。
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