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4.帰り道
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「そろそろ、行こっか」
次の電車の時間まで、残り20分。そろそろかな、と斉藤くんに声を掛けた。
「そうだな」
短くそう言って彼が歩き出したので、少しだけ後ろを、無言で着いていく。
偶然帰りの時間が一緒になった風を装いながら校舎を出ると、ようやく一息着いた。
グラウンド横の広い坂道を、西陽を浴びながら一緒に下る。
何かそろそろ、話をしたい。
今よりも、仲良くなれる話。
「斉藤くんは、本が好きなんだよね」
結局、無難に本の話題を選んだ。
「そうだね。推理小説も好きだけど、伝記や哲学書も結構読むよ」
「夢分析も興味あるの? さっき読んでたみたいだけど」
「うーん。フロイトやユングの理論にヒントがあればと思ったんだけどね。今までは悪夢が多かったから、ストレスかなと思ってたけど。今日は築山さんのラムネのお陰か不思議な夢を見たから、ちょっとね」
「そうなんだ。ストレス、多いの?」
「両親が、仲悪くて。その影響かと思ってたんだけど」
「そっか。それはキツいね。不思議な夢ってどんな夢?」
あまり重い話は深く聞かれたくないだろうと、軽く返す。
夢の話をすると、今日の夢のキスを思い出して変な顔になりそうで避けたかったけれど、この流れでは聞かないほうが不自然だ。
彼は、「んー」とだけ言いながら、じっとこちらを見た。
「どうしたの?」
「築山さんの昨日の夢は、何だった?」
「え? 私? な、な、なんで?」
思わぬ質問に、必要以上に狼狽えてしまう。
「ちょっと、知りたくて」
「えぇ、えっと、えーっと。マ、マッサージの店に行く夢だったかな。ちょ、ちょっと疲れてるのかもね。夢分析的には、どうなんだろね。あ、はは」
頭の中に、真っ白な施設や裸の私、バニー姿でのキスの映像がちらつく。我ながら、ちょっと挙動不審だ。
「マッサージ……。受けたの? 夢の中で」
「う、受ける前に夢が覚めたかな。あんまり覚えてないけど」
早く話題を変えなくては。誤魔化し続けるのは、精神的に負担だ。
「そのマッサージって……」
「そ、そういえば、斉藤くんって、何でこの高校受けたの? 店とか全然ないし、結構田舎だよね、ここ」
「え、あぁ。静かなところがいいかなって」
「分かる。私も繁華街とかちょっと苦手で。方向音痴なのもあるけど」
無事に話題を変えられた。
夢の話に戻らないよう、会話を続けながら電車に乗り、乗り換えの駅に着いた。乗り換えるには、外を歩かなければならない。
「あそこの道をね、たまには開拓してみようと思って、真っ直ぐ行ってみたの。その脇道にある、駄菓子屋さんで見つけたんだ」
「へぇ、見た目によらず、アクティブなんだね。俺は真っ直ぐ家に帰るタイプだから、そういう店は見つけられないな」
「アクティブではないかなー。珍しいお店は好きだけど、遠くに行くのも面倒だし、スポーツも疲れるのは嫌い。楽に現実逃避するのが、好きだなぁ」
「あー、そう言われると、そんな印象」
「え、そんな印象だったの」
雑談をしながら、大通りを歩く。
結局、ラムネについて誤魔化すいい案は考えつかなかった。売り切れを願いつつ、あったら隠すようにして、見つかったら『早とちりしてた』で乗り切ろうと覚悟を決める。
「こっち、こっちって、えぇぇ……」
あったはずの脇道がない。
キョロキョロと周りを見回すも、それらしい道は他にない。
「どうした?」
「ご、ごめん。道がないの。ここら辺にあったはずなの」
「ふぅん?」
「おかしいな。絶対この道の通りに、細い道があったんだけど」
行ったり来たりするも、それらしい道はない。
「ご、ごめんね。見つけられない。本当にここにあったはずなんだけど」
私の信頼が地に落ちてしまう。どうしよう。
「いや、いいよ。まだ築山さんの家にあるんだよね。玄関先で見せてもらうだけでも、お願いできないかな」
右往左往していると、予期せぬ提案をされた。
「え、うん、いいよ。親も共働きだから、あと1時間は帰ってこないし、上がっていって?」
「ありがとう」
やった!
おうちデートにこぎつけた!
あとは、ラムネのパッケージさえどうにかすればいい。
このまま急接近して、一気に仲良くなるぞ!
次の電車の時間まで、残り20分。そろそろかな、と斉藤くんに声を掛けた。
「そうだな」
短くそう言って彼が歩き出したので、少しだけ後ろを、無言で着いていく。
偶然帰りの時間が一緒になった風を装いながら校舎を出ると、ようやく一息着いた。
グラウンド横の広い坂道を、西陽を浴びながら一緒に下る。
何かそろそろ、話をしたい。
今よりも、仲良くなれる話。
「斉藤くんは、本が好きなんだよね」
結局、無難に本の話題を選んだ。
「そうだね。推理小説も好きだけど、伝記や哲学書も結構読むよ」
「夢分析も興味あるの? さっき読んでたみたいだけど」
「うーん。フロイトやユングの理論にヒントがあればと思ったんだけどね。今までは悪夢が多かったから、ストレスかなと思ってたけど。今日は築山さんのラムネのお陰か不思議な夢を見たから、ちょっとね」
「そうなんだ。ストレス、多いの?」
「両親が、仲悪くて。その影響かと思ってたんだけど」
「そっか。それはキツいね。不思議な夢ってどんな夢?」
あまり重い話は深く聞かれたくないだろうと、軽く返す。
夢の話をすると、今日の夢のキスを思い出して変な顔になりそうで避けたかったけれど、この流れでは聞かないほうが不自然だ。
彼は、「んー」とだけ言いながら、じっとこちらを見た。
「どうしたの?」
「築山さんの昨日の夢は、何だった?」
「え? 私? な、な、なんで?」
思わぬ質問に、必要以上に狼狽えてしまう。
「ちょっと、知りたくて」
「えぇ、えっと、えーっと。マ、マッサージの店に行く夢だったかな。ちょ、ちょっと疲れてるのかもね。夢分析的には、どうなんだろね。あ、はは」
頭の中に、真っ白な施設や裸の私、バニー姿でのキスの映像がちらつく。我ながら、ちょっと挙動不審だ。
「マッサージ……。受けたの? 夢の中で」
「う、受ける前に夢が覚めたかな。あんまり覚えてないけど」
早く話題を変えなくては。誤魔化し続けるのは、精神的に負担だ。
「そのマッサージって……」
「そ、そういえば、斉藤くんって、何でこの高校受けたの? 店とか全然ないし、結構田舎だよね、ここ」
「え、あぁ。静かなところがいいかなって」
「分かる。私も繁華街とかちょっと苦手で。方向音痴なのもあるけど」
無事に話題を変えられた。
夢の話に戻らないよう、会話を続けながら電車に乗り、乗り換えの駅に着いた。乗り換えるには、外を歩かなければならない。
「あそこの道をね、たまには開拓してみようと思って、真っ直ぐ行ってみたの。その脇道にある、駄菓子屋さんで見つけたんだ」
「へぇ、見た目によらず、アクティブなんだね。俺は真っ直ぐ家に帰るタイプだから、そういう店は見つけられないな」
「アクティブではないかなー。珍しいお店は好きだけど、遠くに行くのも面倒だし、スポーツも疲れるのは嫌い。楽に現実逃避するのが、好きだなぁ」
「あー、そう言われると、そんな印象」
「え、そんな印象だったの」
雑談をしながら、大通りを歩く。
結局、ラムネについて誤魔化すいい案は考えつかなかった。売り切れを願いつつ、あったら隠すようにして、見つかったら『早とちりしてた』で乗り切ろうと覚悟を決める。
「こっち、こっちって、えぇぇ……」
あったはずの脇道がない。
キョロキョロと周りを見回すも、それらしい道は他にない。
「どうした?」
「ご、ごめん。道がないの。ここら辺にあったはずなの」
「ふぅん?」
「おかしいな。絶対この道の通りに、細い道があったんだけど」
行ったり来たりするも、それらしい道はない。
「ご、ごめんね。見つけられない。本当にここにあったはずなんだけど」
私の信頼が地に落ちてしまう。どうしよう。
「いや、いいよ。まだ築山さんの家にあるんだよね。玄関先で見せてもらうだけでも、お願いできないかな」
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「え、うん、いいよ。親も共働きだから、あと1時間は帰ってこないし、上がっていって?」
「ありがとう」
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