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閑話

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 夕暮れ過ぎ、多くの生徒が帰宅した中、教室には人影が2つ残っていた。

「それで? 俺になんのようだ、王子様? いや、もう王太子様と呼んだ方がいいか?」
「……まだ王子……だ。父上はまだ言及していない」
「ほう、あそこまで愚かを晒してまだ決めかねるか。だが、婚約は白紙になったのだろう? それならアレに未来はないではないか」

 アインは重々しく、苦しそう雰囲気に対し、ベルフリートは相手を煽るような、人を小馬鹿にする雰囲気を醸し出しているが、目が笑っていない。

「……父上はまだリリアを諦めていない」
「ふはは、面白い冗談を言うな。その関係は王族総出で握り潰したであろうに……。唯一リリアが王族と関わる事になるならば、それはお前次第であろう?」
「母上ともそう話している。だが、父上はリリアのことに関してだけはどこか楽観視している。いや、しすぎている。理由はおそらく……」
「今までの彼女の我慢のせいだな。今回の息子の我儘も彼女ならまたなんとかしてくれる、許してくれると思い込んでいる。つくづく何も見えていない王なことだ」

 アインとベルフリートの予想は正しい。王はアウレウスの話を全て鵜呑みにしているわけではない。だが、アウレウスがそこまで言うのだから、リリアにもなんらかの不手際があるのだと思っている。
 だから、アウレウスから謝ることにより、意地を張っているリリアも謝り、お互いの距離が縮まって今回の問題も解消できるのではないかと思っている。

「おそらく、ローズ公爵が来ていなかったら間違いなくリリアを呼び出していらないことを言っていたことだろう……はぁ」
「自分の兄に父親に苦労されている王子様が、わざわざもう一度学園に来てまで俺にそんな話を聞かせに来たのか?」

 そんなことよりももっとやる事はあるだろう。そう言わんばかりのベルフリートの態度に、アインはもう一度ため息をついた。

「はぁ……。そんな事でわざわざ来るとでも? これは僕から貴方への宣戦布告です」
「俺に? そうだな、リリアをかけると言うのならば考えないこともない」
「リリアを景品にする事はない。だが、リリアが関わることでもある」
「……内容は?」
「期間は一年…リリアが学園を卒業するまでにリリアを惚れさせる事。勝者は心置きなくリリアを国に連れて帰れる」
「いいだろう。乗った」

 ベルフリートはこの勝負を受ける前からリリアを自国に掻っ攫うつもりでいた。もちろん、無理矢理ではなく、リリアの同意を得てだが。
 例えそれが国同士の揉め事になろうとも、リリアにはその価値があると思っていた。だからこそ、王族直々にこのような提案をしてくれるのは面倒事が減ったぐらいの感覚だった。

 その思いは余裕の表情となって現れる。

「……もう勝ったつもりでいるんですか?」
「なに、妹殿のお陰でようやく土俵に立てた男が大きな口を叩くもんだと感心しただけだよ」
「なんだと!」
「そうではないか。妹殿がアレを大勢の前で醜態を晒させたのだろう? それは確かに姉であるリリアのためだろうが、貴殿のためにでもあるのではないか?」
「僕の……」
「俺はアレが婚約者のままでも気にしないからな。今のままでは手を出せない貴殿のことを思って計画を早めたのだろう。そちらには味方が多くて羨ましい限りだな」

 絶対に思ってない。アインはそう思いながらもグッと堪え、ベルフリートの言葉を考え直す。
 ――確かに、ティアは卒業の時を目標にしていたはずだった。愚兄がバカすぎて勝手に早まったのかと思っていたけど……、まさか僕が対等に動けるように?

「気付いたか? まぁどちらでもいい。俺は俺で好きにやらせてもらうだけだ」
「……リリアは渡さないぞ」
「さあ? そればかりはお姫様の気分次第だからな。知っている男がアレだけなら、案外コロッと行くかもしれねぇぞ?」

 自身の、国の将来のため、お互いに牽制し合う。どちらが優勢かは目に見えて明らかだが、アインは諦めず、ベルフリートを睨み続ける。
 その後もアインとベルフリートの言い合いは続いた。
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