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生徒会

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 逃げるように教室に戻ってきた後も、頭の中はベル様の言葉で一杯一杯だった。

「お前には自ら俺の国に来てほしいからな」

 その言葉を思い出すだけで頬が、身体が熱くなる。

 ベル様は私を求めてくれている。アレの御守りとしてではなく、私自身を求めてくれている。

「……ア様、リリア様、大丈夫ですか?」
「えっ、ええ、少し考え事を……申し訳ありません。それでなんのお話でしょうか?」
「別に大した事じゃないよ。最近いろんな噂を聞くようになったけど大丈夫かって話……です」
「いつも通りに話していただいて結構ですよ。それに、それでしたら私は大丈夫です。私よりも今は生徒会長であるポーラ様の方が忙しいのではないですか?」
「あはは、まぁね。常識を持っている人だけなら忙しくないはずなんだけどね」

 目の前で苦笑いをする女性、ポーラ・リーヴェルト…彼女は現生徒会長であり、多くの先生方からも信頼を寄せている人物である。そんな彼女の今の仕事は彼女たちの卒業に向けての準備であったり、次期生徒会長を誰にするかの話し合いなのだが……

「以前もおっしゃっていた人たちですか?」
「そうなの。学力ではなく地位を優先するべきだーってね。なら私がしている仕事はアホでもできるのかって話よ! まったく、失礼するわ」

 今の所の次期生徒会長の候補は2人。私とアレです。そして生徒会長、もとい生徒会のほとんどは私になってほしいとおっしゃってくれているのですが……まぁ、どこにでも例外というものは一部いるもので……

「生徒会長は殿下がなるべきに決まっている!」
「何度も言っていますが、殿下に務まると本気で思っているのですか!」
「うっ……だが、王族がならなくてはどうするのだ!」

 そこは言い淀むのですね……。話を聞いていたら最初からアレに全部期待している人だと思っていました。

「ごめんなさい。来てもらって早々、嫌な話を聞かせちゃって」
「いいえ、気にしないでください。それで私を生徒会室に連れてきたのはこの話し合いの為ですか?」
「うん。本当はダメなんだろうけど、これからもこう言った事があるだろうから、どんな意見が出て来るか参考になるかわかんないけど、知れるかと思って……迷惑だったかな」
「いあえ、そんなことはありません。お気遣いありがとうございます。ですが、あの人たちを相手するより、当の本人を相手にする方が疲れそうです」
「あ、あはは……」

 リリアがボソリと呟けば、ポーラは引き攣った笑いをしながら明後日の方向を見る。どうやら聞かなかった事にするらしい。
 そうしている間にも話し合いはヒートアップする。

「なら殿下が会長になってローズ様が副会長になればいいだろう! なぁ、みんな!」

 しかし、その掛け声には誰も答えない。答えようとしない。顔を青くしながらただジッと一点を見つめている。

「おいどうしたんだよみんな! 俺の後ろに何か……あっ……か、会長それと……ロ、ローズ様……」

 可哀想なぐらい目をキョロキョロとさせ、何かこの状況の改善策を探し出す男子生徒の向かって、ポーラは慈愛に満ちた表情をする。
 
「私がいない間に好き勝手言っていたみたいですね」

 その声は表情からは想像できないような冷たいものだった。

「ち、違うんです。これは……そう! 意見をまとめていただけで……決して会長がいない時に決めようとしていた訳では……」
「……それで? どのような意見にまとまったのかしら?」
「そ、その……それは……」
「私に全てを押し付ける。そうですよね?」

 アレも仕事も、全部私に。私にしかできない? そんな都合のいい押し付けの言葉には聞き飽きた。私は決してアレの御守りではないのです。

「……決めました。アレが生徒会長になって私に仕事が回って来るのであればこの学園を辞めます」
「リリア様!?」
「ついでにこの国からも出ていきます。これは私の意思です。それを含めてアレを上に置くべきか議論してくださいね。では、失礼します」
「まっ、待ってください! ローズ様!」

 廊下に一人で出ると、肌寒い風が吹く。私も逃げてばかりではいられませんね。ティアもいろいろとやってくれていますが、やはりアレと決着をつけるのは私でないと……。
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