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命令

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「貴様! 教師を買収したであろう!」

 掲示板に張り出されたテストの順位を見ていると、聞きたくもない怒鳴り声…………聞きたくもない声で怒鳴り声? が後ろの方から聞こえる。

 掲示板に貼られているのは上位50名。教師から聞かされた話ですと、3組ですら最下位に近いアレがこのような場所に来ること自体場違いと言えるでしょう。

「殿下……ここは殿下が来れるような……いえ、殿下が来るような場所ではございませんよ」
「き、貴様! 俺を馬鹿にして「事実じゃないですか」貴様っ! 不敬罪だぞ!」

 好きですね、不敬罪。『敬う』という言葉をもう一度勉強した方がいいのではないでしょうか?

「いいえ、私と殿下が婚約した後、陛下から直々に嘘偽りなく話して良いと許可をいただいております。なので、殿下が馬鹿である限り、私が馬鹿と言っても不敬罪には当たりません。……事実ですから」
「なっ、なっ」

 実際、陛下が思っていたのとは違うのでしょうが、何も問題はありません。プライドの高いアレの事ですから陛下に何か言う事はないでしょう。

「クソっ! 俺を馬鹿にしやがって。……だが今回は違うぞ! 俺はお前が教師を買収した証拠を抑えているのだからな。連れて来い!」

 ドヤ顔をした後、誰を連れて来るのかと思ったら……一時行方不明になっていた臨時教師の方じゃないですか。

「コイツを買収して俺のテストの点数を下げさせたのだろう。でなければ、俺がここに載っていない理由がない!」
「私が? その方を?」
「ああそうだ。お前の手口なんてわかっているんだよ!」

 顔を青ざめて震える臨時教師。私を見つめるその視線は怯えではなく救い。なるほど……

「……買収したのは私ではなくあなたでしょ?」
「な、なにを……酷い言い掛かりはやめて貰おうか」
「そちらこそ酷い言い掛かりだと思いませんか? そもそもあなたの成績から言ってどちらの言い分が正しいかなんて子供でもわかる事です。あなたこそどうして今回は50位以内に入れるという自信を持っているのですか?」
「そ、それは…………俺が勉強をしたからに決まっているだろう!」

 嘘をつくならもっとマシな嘘をつけば良いのに……。授業にほとんど参加していない事もわざわざ私に知らされているとは思わないのでしょうね。迷惑しかかけないこの男は……。

「……ならばその勉強が足りなかった……そう思わないのですか? 私なら記述ミスをまず疑うのですが……まるで上位に入る事は確定していたというような言い分ですよね」
「くっ……、いや! 俺はそんな事をしていない!」

 アレの言葉に臨時教師が大きく首を横に振る。彼を捉えていた騎士達もどこか様子がおかしい事に気づき、彼から離れている。

「……どいつもコイツも俺を嵌めようとしやがって! 今は俺よりもお前の事だろ!」

 人差し指をビシッと指す。その先にはもちろん私……。話ができない人をどう納得させるか? 答えは二つ。
 一つは話をしない事。そしてもう一つは信じきっている持論を自分で論破させる事。

「では証言してもらいましょう」
「証言……だと」
「はい。ちょうど殿下が証人を連れて来てくれた事ですし……ちょうどいいではありませんか」

 私の発言に臨時教師はギョッとし、アレは嫌そうな顔をする。その表情だけで周りにいる人たちは皆今回の真相を理解してしまい、白けた顔をしている。

「……コイツはお前の息がかかっているのだろう! 俺が不利になる証言をされても困る」
「あら、殿下は王族です。王族の命令は私の命令権よりも低いのですか?」
「そ、そんな訳ないだろう!」
「ではこう命令してはどうですか。『嘘偽りなく命令された事を話せ』……と」
「あ、ああ! 言ってやるさ! おいっ、お前、嘘偽りなく命令された事を話せ!」

 本当に言いました。クリスティーナの言う通りに……。自分が上だと思うと何も考えずに突き進む。
 こんなやり方があっただなんて……。

「私は殿下に点数を改ざんするように命じられました!!」

 先程まで顔を青ざめてていた臨時教師は学園中に響き渡る声で叫んだ。
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