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明暗

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「さて、本題と言っても手紙に書いた保護という話ではない」

「違うのですか?」

 確かに、この家にお姉様を匿うとしても、お姉様自身にあの家を返すことは難しいか。とりあえず、目先のお姉様の安全を考えすぎていた。

「それでも君を呼んだのは、ある事実がわかったからなんだ」

「ある事実?」

「ああ、アリーシャ殿、前アースベルト侯爵は陛下に時期当主をシェリア嬢と指名する手紙を残していて、陛下も処理している。つまり、今君の父が当主を名乗っているが、本当の当主はシェリア嬢なのだよ」

「本当ですか!!」

 思わない出来事に腰をあげる。はしたないと言われても今だけは許して欲しい。これであの父を失脚させられ…ダメだ。

 落ち着きを取り戻し、椅子に座り直す。

「おい!お前ももっと喜べよ。これで、シェリーを自由にできるんだろ?」

「いいえ、できません。今のままでは…」

「なっ」

 ここで、父の無能さが悪い方向に向けられるとは考えてもいなかった。

「どういうことだよ!正式な当主はシェリーなんだろ?それだけで十分じゃないか!?」

「ええ、お姉様が成人していたり、せめて王都の学園に通っていればそうだったのでしょう。けれど、今のお姉様では年齢が足りない」

「ああ、それに前アースベルト侯爵に手を出せなかったものたちが今はすぐに手を出せるのだ。そんな機会に今の当主を落とそうとすれば黙っていない。邪魔をされるか、もしくは年齢を理由に自分たちの手駒を代理人として推薦してくるに決まっている。私も阻止できないわけではないが…」

「はい。レオス様を婿として出すのに、管理までを手伝うとなれば、十中八九『アースベルト家を乗っ取るつもりか』と言い出すでしょう」
 
 ほんと、どの口が言うのでしょうね。まぁ、ただの想像に過ぎませんが…エヴァンス公爵様も言うのです。間違ってはないのでしょう。

「そんな…」

「せめて、レオス様が学園を卒業していれば別の話だったのですが…」

「残念ながら、レオスが入学するのは来年だ」

「だが、シェリーが学園に入学すればいいんだろう?飛び級でもシェリーならいけるだろう?」

 飛び級の制度があるのであれば、来年には…いえ、それもダメですね。

「それもダメです。お姉様が入学するようなことを父が許すはずがありません。私が連れて行くと言っても今回限りはダメでしょうね…」

 だから、物語での公爵様はレオス様の自由を許したのかもしれませんね。お姉様の学園に行く許可を与える代わりに、婚約者を取り替えることを条件とした。それならば、お姉様も学園に通えるでしょう。ですが、今それをすればレオス様に負担が掛かってしまいますね。

「ああ。だから最後の手段としてあの男が当主ではいられないぐらいの犯罪の証拠を見つければ良い。流石に他の貴族たちも犯罪者を当主として置いておけとは言えまい」

 犯罪の証拠…

「毒殺…」

「ああ、何か決定的なことが知れればいいのだが…」

 でも、私がアーシャ先生が亡くなるまで、父とあったのは家でしかない。流石に家では毒は用意しないだろう。それに、父と出かけたのは母が倒れて、母をどこかに連れて行く前に孤児院に連れて行かれた時ぐらい…

「あっ」

「何か思いつくことがあったのかい?」

 みんなの視線が集まる。その中でリオン様が訪ねてくる。

「…はい。違うかもしれませんが、毒草の中で、触るだけで倒れるようなものはありますか?」

 あの時、父に唯一怒られたのは大量に置いてあった草を触ろうとした時だけだった。
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