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アリシア・アースベルト

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 部屋に戻る廊下の途中で、元凶である男が一人、ただ何も知らずに怒鳴っていた。残念ながら、私の父なのだが…

「何をしているのかと聞いているんだ!」

 怒鳴らなくても聞こえている。それに、どうしてこっちに来たんだろう。ずっと、お母さんの相手だけしていればいいのに……

「シア?泣いているのか?お前たち、シアに何をやった!」

 私が泣いている原因が、お姉様たちに怒鳴る。私は迷惑をかけてばっかしだな。父は絶対にお姉様の話を聞かないだろう。
 そして、私がお姉様の所為ではないと言ったところで、脅されていると思われるだけかな?どちらにせよ、父に話を聞くつもりはないだろう。

 だから、私はこれからはお姉様に嫌がらせをしよう。私がお姉様に嫌がらせをしていると知れば、父も私が何かされているというような勘違いはしないだろう。
 それに、父が勝手にお姉様に手を出す機会も減らすことができるだろう。

 お姉様、私はこれからお姉様の妨げになります。ですから、私のことは気にしないでください。
 私も、父と母と一緒でお姉様に必要のない人です。だから、全て無くなるようにしたいと思います。

「ごめんなさい。お父さん。私、少し怖かったの」

 怖かった。お姉様の言ったアリシアが私であることが。父や母と同じように、無意識にでもお姉様から奪っていたことが…

「やはりそいつに何かされたか!」

「違うの、食事をしていた時に話していたでしょう?お父さんはお母さんと私を選んでくれたって。それって、私はアースベルト家の娘になるってことでしょ?」

 選んで欲しくなんてなかった。私は小さい家でも幸せだった。けれど、この家に連れてこられ、お姉様から侯爵令嬢としての身分まで奪おうとしている…

「……ああ」

「それがね、怖かったの。私は平民で、お父さんと違って貴族のことなんて知らないから。だから、お姉様、シェリアを姉として、私は何もしなくて良いようにしたかったの」

 怖かった。好きだった両親が、まるで幻想であったかのように、違う人物に見えるのが。その血が私に流れていることが……

 私は抱きついていたお姉様をそっと押し立ち上がる。話している時に押されると思っていなかったお姉様は、私を驚いた顔で見上げていた。

 私はお姉様を見下ろしながらも、この演技を続ける。

「でもね、違ったの。私はお父さんが選んでくれたのだから、もっと頑張らないといけないって思ったの。だから…ね、お父様…私、これからこの家に、お父様の顔に泥を塗らないように頑張るわ。だから、一つお願いがあるの…」

 そう、私はもっと頑張らないといけない。お姉様から奪ったものを返す為に、父が塗った泥を取り除く為に…

「おお、わかってくれたかい!よかった!それで、お願い?何でも言っていいよ。今まで一緒に入れなかった分、これからはわがままをいっぱい言って良いんだよ?」

 気持ち悪い。でも、この感情を表に出してはいけない。誰にも悟られてはいけない。

 父は自分に都合の悪い人物は全て排除したいだろうから。
 お姉様を今は放っておいても、将来は必ず手を下す。だから、その前に父の手の届かない所へ、お姉様を保護できるように…

 私は今日、アリシアを捨てて、アリシア・アースベルトとして、父と母と一緒にお姉様の前から消え去る。
 そのためには、何としてもお姉様に手を出せない状況にしないと。

 だから、私は父と同じ、悪魔になろう。普通の人なら思いもつかないような願いを口にしよう。
 だって、私はこの人たちの子供なのだから。

「私ね、生きているお人形が欲しいの」

 私は明確に、お姉様を人形と表現した。
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