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セリフ

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 シェリア様に殺されるなら仕方ないと思える。だって、近い将来、自分を傷つける可能性があるのだから。その前に不安をなくしておく方がいいに決まっている。

「…アリシア」

「は、はい!」

「どうしよう!私、いじめをしなければ、いじめられることはないと思ってた。そういえば全部嘘だったって、忘れてた!」

「えっ…えーと…」

 なんて言えばいいのですか!普通そこを忘れますか!忘れないですよね。あんな風に格好良く、「全部アリシアが嘘を言いふらしていただけだった」と言っていたのに!
 もしかして、その物語に書いてあった言葉を、これカッコいいと思って覚えていただけなんじゃ…

「どうしよう。セリフは覚えていたのだけれど、あんまり内容は覚えていないの!」

「私に言われてもどうしようも…セリフ?」

「ああ、セリフというのは小説の中で、登場人物が話す会話のようなものよ」

「申し訳ありません、参考に、私…じゃない、アリシアがシェリア様をいじめ始めたきっかけは何か覚えていますか?」

「きっかけ?きっかけかー。『今までいい暮らしをしてきたんですから、全部私にください』って書いてあったかな?どう?何か参考になりそう?」

「申し訳ありません。その物語のアリシアは正真正銘、あの悪魔たちの子供であり、クズだということしかわかりませんでした。そして、それが私…」

 ほんと、どうしてこうなってしまったんでしょうね。もし、私が物語のアリシアならこんな風に考えることもなく、好き勝手に生きていけたんでしょうか…
 人の死を喜び、自分の子供をいないように扱うような父と、それを受け入れ、新しい家を喜ぶ母。その子供をいじめ、立場を奪うような娘。お似合いですね。
 そしてその血が流れ、今まさにそうなっているのが私…
 
 どうして、私なんでしょうか。誰もこんな家に住みたいなんて望んでいないのに。普通の両親に普通の家、一緒にご飯を食べて、楽しかったことを話す。それだけで私はよかったのに。
 ああ、頭が痛い。シェリア様がぼやけて見える。体がふわふわして、あれ?体の力が抜け…

 地面が近くなり、だけど倒れる前に誰かに助けられたのはわかった。

「ありがとうアン。それとアリシアをベッドに寝かしてあげて」

「…はい。お嬢様」

「あなたが残ってくれて嬉しいわ」

「お嬢様は私がこの子の専属になると以前から言っていましたから…」

「ええ、実際にそうなったでしょう?」

「はい。ですが、お嬢様が言っていたことは違いました。それに料理長のことも…」

「あなたに言われて思い出したけど、『たまに残飯が渡されるだけだった』って書かれていたのよね。すっかり忘れていたわ」

「それを言われて思い出すのですか!…もういいです。お嬢様はそのような方でしたね。大事な時にはしっかりと決めてくださるのに、それ以外の時ではどうして…」

「あはははは…迷惑をかけてごめんね」

「構いません。そんなお嬢様が私は好きですから。それよりもこの子は信頼できるのですか」

「とりあえず様子見かな?私は大丈夫だと思うんだけどね」

 そこまでは聞こえて、私の意識はぷつりとなくなった。
 
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