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出会い
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初めてお姉様と会ったのは、私が九歳の時だった。父に見たことのないような豪華な家に連れられ、『ここが今日から私たちの家だ』と言われた時は頭がおかしくなったのかと思った。
三人暮らしだったが、ほとんど母と二人きりで、たまに父が帰ってくるぐらいだった。『たまにしか帰ってこれなくて悪いな』そう言って優しく撫でてくれる父が好きだった。
父が帰ってこなくて寂しがっている私を見て、『お父様も頑張っているの。私たちも頑張らないとね』そう言いながら私を抱きしめる母が大好きだった。
私はそれで幸せだと思っていた。生活にも困っておらず、優しい両親。けれど違った。優しい両親なんていなかった。父は仕事で忙しいわけではなく、浮気をしていただけだった。しかも浮気相手は母であり、私は浮気相手の子供だった。
そのことだけでもショックだったのに、二人の会話を聞いてからは、二人の顔がとても醜いものに見えた。
「やっとあいつが死んだ。これで家族三人、一緒になれる」
「嬉しいです。オスカー様」
この人たちは誰?
人が亡くなったというのに、そのことを喜び合う二人が人には思えなかった。けれど私は何もできなくて…
私は次の日に大きな家に連れて行かれた。
お姉様の最初の印象はとても綺麗なお人形だと思った。綺麗に整った顔立ち、金色の髪、青い目。そして、二人、ううん。私を含めた三人を見ていた時の無表情は今でも鮮明に残っている。
それもそうだよね。母親が亡くなって次の日には私たちが来たのだから。
父と母は新しい家で、お姉様をいないもののように扱い始めた。家にいた時よりも、二人で一層楽しそうに笑っていた。そのことがとても怖かった。
お姉様を庇う使用人を父は次々と解雇していった。だから私は、元々お姉様付きの専属侍女と料理長を残してほしいとお願いした。父は笑って私のお願いを聞いてくれた。以前のように頭を撫でられた感覚はとても気持ち悪いものだった。
父と離れたところで、元々お姉様付きの専属侍女であるアンさんから声をかけられる。だけど、その目は当たり前だが、嫌悪に満ちていた。
「…私をお嬢様から離して、お嬢様に何をするつもりですか?」
「何もしないわよ。それに、何かするのであれば解雇すればいいだけじゃない?自分の側に知っている人がいるのは安心させるだけなのだから」
「それは…」
「お姉様と私が言っていいのかはわからないけれど、たぶん年上よね?まあそれは置いといて、お姉様には味方が必要と思ったの。だからあなたと料理長を残したんだから」
「私だけでなく料理長も?」
「だって、あの人たちが新しく雇う人がお姉様の分までちゃんとした料理を作るとはとても思わないんだもの。料理長がいれば新しく入ってきた人でも言うことを聞かせられるでしょう?」
「…そこまでしますか」
「あの人たちは異常だもの。全員解雇しているぐらいなのだし、それぐらいするんじゃないかな?」
「……」
「だからね、あなたは私の名前をいくらでも使っていいから、お姉様を今までのように守ってあげてほしいの」
「信じていいのですね」
「信じてもらえるように頑張るわ。料理長にはあなたから話しておいて」
「…わかりました」
ふぅ、これでこの家からお姉様の味方がいなくなることは無くなった。私がお姉様の幸せを潰してしまったんだもの。私はどうなってもいいからお姉様には幸せになってもらいたい。
コンコン
誰かが私の部屋を叩く音がした。
三人暮らしだったが、ほとんど母と二人きりで、たまに父が帰ってくるぐらいだった。『たまにしか帰ってこれなくて悪いな』そう言って優しく撫でてくれる父が好きだった。
父が帰ってこなくて寂しがっている私を見て、『お父様も頑張っているの。私たちも頑張らないとね』そう言いながら私を抱きしめる母が大好きだった。
私はそれで幸せだと思っていた。生活にも困っておらず、優しい両親。けれど違った。優しい両親なんていなかった。父は仕事で忙しいわけではなく、浮気をしていただけだった。しかも浮気相手は母であり、私は浮気相手の子供だった。
そのことだけでもショックだったのに、二人の会話を聞いてからは、二人の顔がとても醜いものに見えた。
「やっとあいつが死んだ。これで家族三人、一緒になれる」
「嬉しいです。オスカー様」
この人たちは誰?
人が亡くなったというのに、そのことを喜び合う二人が人には思えなかった。けれど私は何もできなくて…
私は次の日に大きな家に連れて行かれた。
お姉様の最初の印象はとても綺麗なお人形だと思った。綺麗に整った顔立ち、金色の髪、青い目。そして、二人、ううん。私を含めた三人を見ていた時の無表情は今でも鮮明に残っている。
それもそうだよね。母親が亡くなって次の日には私たちが来たのだから。
父と母は新しい家で、お姉様をいないもののように扱い始めた。家にいた時よりも、二人で一層楽しそうに笑っていた。そのことがとても怖かった。
お姉様を庇う使用人を父は次々と解雇していった。だから私は、元々お姉様付きの専属侍女と料理長を残してほしいとお願いした。父は笑って私のお願いを聞いてくれた。以前のように頭を撫でられた感覚はとても気持ち悪いものだった。
父と離れたところで、元々お姉様付きの専属侍女であるアンさんから声をかけられる。だけど、その目は当たり前だが、嫌悪に満ちていた。
「…私をお嬢様から離して、お嬢様に何をするつもりですか?」
「何もしないわよ。それに、何かするのであれば解雇すればいいだけじゃない?自分の側に知っている人がいるのは安心させるだけなのだから」
「それは…」
「お姉様と私が言っていいのかはわからないけれど、たぶん年上よね?まあそれは置いといて、お姉様には味方が必要と思ったの。だからあなたと料理長を残したんだから」
「私だけでなく料理長も?」
「だって、あの人たちが新しく雇う人がお姉様の分までちゃんとした料理を作るとはとても思わないんだもの。料理長がいれば新しく入ってきた人でも言うことを聞かせられるでしょう?」
「…そこまでしますか」
「あの人たちは異常だもの。全員解雇しているぐらいなのだし、それぐらいするんじゃないかな?」
「……」
「だからね、あなたは私の名前をいくらでも使っていいから、お姉様を今までのように守ってあげてほしいの」
「信じていいのですね」
「信じてもらえるように頑張るわ。料理長にはあなたから話しておいて」
「…わかりました」
ふぅ、これでこの家からお姉様の味方がいなくなることは無くなった。私がお姉様の幸せを潰してしまったんだもの。私はどうなってもいいからお姉様には幸せになってもらいたい。
コンコン
誰かが私の部屋を叩く音がした。
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