上 下
43 / 43

番外編・終 第二王子・クリス視点

しおりを挟む
 城に着き、お茶会が開かれている部屋に向かう。頼む、居てくれ!

 扉を開けると、驚いた顔をしている彼女が居た。

「そんなに急いで、学園はどうしたのですか?」
「少々…用事があって…早退してきました…」

 急いできたために、喋るのが少し辛い。ゆっくりと深呼吸をし、息を整える。

「さて、あなたの学業に差し支えるほどの緊急の要件はなかったはずですが…」
「僕はフィーア姉様に伝えたいことがあって来ました!」
「私にですか?」

 フィーア姉様は不思議そうにしている。それもそうだろう。僕も今日まで気づいてもいなかったのだから。

「…それは大事なことですか?」
「はい、僕にとって、とても大事なことです」
「わかりました。聞きます」
「二人っきりで、庭に来てもらえませんか?」
「?ええ」

 僕は心臓が痛いのを我慢し、庭に向かう。今はアメリアも来ていない。まあ、どこかで隠れて見ているとは思うが、目に見えないだけまだマシか。

「フィーア姉様はこの場所を覚えていますか?」
「ええ、覚えていますよ。第一王子とのお茶会の場所。約束を破られ、少しショックを受けた場所であり、私が好きな男の子に初めて会った場所です」
「そう言ってもらえて嬉しいです。それに、僕もあのとき、フィーア姉様と出会えてよかったと思っています」

 あのとき、知らない人が庭にいると思った。それだけだったのに、目が離せなくて、近づいた。その行動を今でも褒めてやりたい。だって、そのおかげで、フィーア姉様と出会えたのだから。

「…あのときの約束、覚えていますか?」
「ええ、覚えていますよ。『僕が王になった時には僕の隣で、僕を支えてくれませんか?』ですよね」
「はい。今でもその時の気持ちがなくなってはいません。ずっとあなたのことを思い、この国のことを思い、努力して来ました」
「存じています。忘れていても、クリス様が努力していることは知っていましたから」
「それは嬉しいですね。それで、今日急いでいたのはそのことなんです」
「そのこと?」
「はい。僕はその…フィーア姉様に好意を伝えてもらって、嬉しかったです。思い人が僕を好きでいてくれたと。けれど、僕自身があなたに思いを伝えていないことに気がつきました」

 僕はずっと、僕のことしか考えていなかった。愚兄と婚約を白紙にするときも全部、自分勝手だった。だから…

「フィーア姉様、違う、ソフィア。ずっと、初めて会った時から、あなたのことが好きでした。あなたのことを一時も忘れたことはありません」

「これから今まで以上に大変になると思います。それでも僕と一緒に来てくれますか?」

「はい!もちろんです。私でよければ、ずっと…あなたの隣で」

 嬉しい。自分の気持ちを伝えられた喜びと彼女の返答がとても嬉しい。これだけで、生きていてよかったと思える。

「…ですが、今日学園をサボりましたよね。ですので、今度の休日に会うのは先延ばしですね」
「えっ」
「嬉しかったですよ。クリス様。また、今度ゆっくりとお話ししましょうね。では失礼します」
「フィーア姉様は意地悪ですね」
「はい!だって、私はクリス様の悪役令嬢ですから!」

 僕の悪役令嬢というのは分からない。だけど、彼女にとって、悪役令嬢とは悪いイメージではないのだろう。だって、あんな笑顔で自分を悪役令嬢だというのだから。

しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

sagadai
2021.10.17 sagadai
ネタバレ含む
白キツネ
2021.10.17 白キツネ

読んでいただきありがとうございます!
それに、感想もありがとうございます。

剣術なども十分に修練していなかった為に、生き残ることはないと思っています。もし生き残っているとしたら、sagadai様の言うような新たな話ができるかも知れません。

解除
2021.10.17 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

白キツネ
2021.10.17 白キツネ

報告ありがとございます。
男爵令嬢の名前は「メアリー」が正しく、「マリア」が間違っています。

話数も表示していただけたおかげで、すぐに見つけることができました。ありがとございます。

すぐに訂正させていただきます。混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

解除
きくまろ
2021.09.27 きくまろ
ネタバレ含む
白キツネ
2021.09.28 白キツネ

感想ありがとうございます!
そう言っていただけてとても嬉しく思います。

これからも読んでいただけると嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

辺境伯と悪役令嬢の婚約破棄

六角
恋愛
レイナは王国一の美貌と才能を持つ令嬢だが、その高慢な態度から周囲からは悪役令嬢と呼ばれている。彼女は王太子との婚約者だったが、王太子が異世界から来た転生者であるヒロインに一目惚れしてしまい、婚約を破棄される。レイナは屈辱に耐えながらも、自分の人生をやり直そうと決意する。しかし、彼女の前に現れたのは、王国最北端の辺境伯領を治める冷酷な男、アルベルト伯爵だった。

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉

海林檎
恋愛
※1月4日12時完結 全てが嘘でした。 貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。 婚約破棄できるように。 人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。 貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。 貴方とあの子の仲を取り持ったり···· 私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

ヒロインが可愛すぎるなら悪役令嬢の断罪劇だってゆるされてしまうの

朧月ひより
恋愛
王立学園の創立記念パーティーは、悪役令嬢の断罪劇の場と化していた。 以前は仲睦まじい婚約者同士と評判だった、公爵令嬢オーデリアと第二王子アレクシス。 だが、二人の平穏は「ヒロイン」アリスの登場で掻き回されていく。 可愛すぎるアリスに骨抜きにされてしまう第二王子。だが、奔放に振る舞うアリスには、ある狙いがあり…… 可愛いは正義!系ハッピー断罪劇、開幕!

見た目普通の侯爵令嬢のよくある婚約破棄のお話ですわ。

しゃち子
恋愛
侯爵令嬢コールディ・ノースティンはなんでも欲しがる妹にうんざりしていた。ドレスやリボンはわかるけど、今度は婚約者を欲しいって、何それ! 平凡な侯爵令嬢の努力はみのるのか?見た目普通な令嬢の婚約破棄から始まる物語。

「君の話はつまらない」と言われて婚約を破棄されましたが、本当につまらないのはあなたの方ですよ。

冬吹せいら
恋愛
「君の話はつまらない」  公爵令息のハメッド・リベルトンに婚約破棄をされた伯爵令嬢、リゼッタ・アリスベル。  リゼッタは聡明な美少女だ。  しかし、ハメッドはそんなリゼッタと婚約を破棄し、子爵令嬢のアイナ・ゴールドハンと婚約を結び直す。  その一方、リゼッタに好意を寄せていた侯爵家の令息が、彼女の家を訪れて……?

わたくしが悪役令嬢だった理由

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。 どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。 だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。 シリアスです。コメディーではありません。

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。