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一部 三章 前略、魔王いないらしいけど何とかやっていこうと思います

羽休めは大事だそうです

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 「それで王様、俺はまずどうすればいいんですか?」

昨日の一件でひどく疲れていたのか、それとも安心していたのか分からないが、王様が部屋から出た直後の記憶が無い

でもすごく頭が冴えている。すごく熟睡出来ていたんだろう



「昨日も言ったが、キミにはココから北にある『ガイオス帝国』に行き、魔王の首を取ってきてほしい」

ガイオス? なんか聞いたことあるぞ

「そこって確か、魔物の住処なんですよね?」

「おっ、よく知ってるな。あそこは千二百年前、真っ先に魔物の侵略を受けている
何せツォバーが高い者が多かったからな。
奴の復活の為に必要だったんだろう」

つまりそこにさえ行く事が出来れば、魔王も倒せて先輩も助かるのか。
一石二鳥だな。楽勝ジャン。






俺は扉に手をかけ、外に出ようとした。

しかし、

「ちょーっと待て」

声のする方を振り返ると、目の前に王様がいた

恐らく扉を開ける時点で、こっちに来たのだろう。
しかし座ってた場所からここまで、結構な距離があったはずだ
かなりスピードを出さなければ追いつくことは出来ない筈なのに、足音一つしなかったぞ。


「どこに行く気だ?」

「え? どこってそりゃあ……。その、ガイオスってとこに行けば、全部まるっと解決するんすよね?」

「はあ……お前、冷静なのかせっかちなのかどっちかにしてくれ」

な、何を。俺はいつだって冷静なつもりだ。

「そんな丸腰でいく気か?
どんなロールプレイングゲームでも、まずは装備を整えるだろ」

この世界、ゲームあるのか。少し気になる。……じゃなくて!

「それもそうですね。では武器屋に行きましょう。王様、その手を離してください。……王様?」

しかし、背中にある手は離れる気配がない。

「話は最後まで聞け。第一今行っても、ぞ」



…………へ? 魔王いないの?





 まさかの展開だ。倒すべき相手が目的地にいないなんて。

「えっと、今何と?」

「何度も言わせるな。ガイオスには今、魔王はいない。いるのは門番代わりの下級魔物だけ。倒したところで、彼を助けることは不可能だ」

んな無茶苦茶な。
異世界転生モノに勇者が関わる作品ってのは『魔王が同じ時に生きてる』から成立するんじゃないの!?

それを根底から覆しやがって……


「それで? 魔王はいつ現れるんです?」

「十五年後」

「なるほどじゅ……………は?」

『は?』なんて、久々に使ったかもしれない
それくらい唖然とした。

「オレたちの観測では、魔王の力が回復するまで十五年先と言われている」

そんな涼しい顔されても。

「そんなに!? 俺今十八っすよ!? 三十三になっちゃうじゃないですか!?」

ううう。未だ部活すら行ってないのに……
うなだれていると、王様の笑い声が聞こえてきた

「……なんですか。他人事だと思って」

なんかこのやり取り、ここに来る前にやったな

「ふふっ……、すまない。
さっきオレが言ったじゃないか。『概念が違う』って」

「……それがどうしたんですか」
わざといやしく言ってみる

「いいかい? ここでは時間の進み方が違うんだ。
こっちでいくら歳を取ろうが、あっちは一秒も経過していない
実質的に、キミは一つも歳は取ってないんだよ

そういうこと……なのか?








「そうですか。ならよかったです」

心配事は消えた、のか?

 
「その上で聞きたいのですが、じゃあ俺はどうすればいいんですか?」

「うーん。そうだなあ……。あ、そうだ。
ワタル=モリウチ。せっかくだからこの世界を楽しんでみないかい?」

「え?」

「ここで魔王討伐の準備を進めるのもいいけどね。
せっかく来たんだ、その日まで羽を伸ばすのも悪くないと思う。
実際のところ、気の休まらない日々が続いただろう?」

王様の言う事には一理ある。
疲れた頭のままじゃ、冷静な判断も出来ないからな
どこかでリフレッシュするタイミングが必要だ

そんなことは俺でも理解できるのだが……

「で、でも……っ!」
「キミが一刻も早くヨウヘイ=イワサを助けたいのも分かる。
しかし、Il ne faut pas confondre vitesse et précipitatio『急がば回れ』とも言うじゃないか。
この国の事を知っておいた方が、返って近道なんじゃないか?」

確かに。俺はこの世界に関して、断片的な情報しか知らなさすぎる
ここに馴染んでいけば、もしかしたら何かヒントが得られるかもしれない。

でもやっぱり心配だ。別に王様の事を疑ってるわけじゃないし、
なにより魔法の力を持たない俺が不安がったところでどうにかなるわけではないのだが

「なに。彼の事はエルフィンドの名に懸けて、ちゃんと守っておくさ」

俺の思っていることを察してくれたのだろう。
王様がやさしく声をかけてくれた

「まあ二十五年、こっちで換算しても五年はありますもんね」

「そういうこと。ということでワタル=モリウチくん。






アッチの世界でpetite amieはいたのかい?」
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