短い話たち

トマトにとって

トマトにとって
「好き」という言葉は
本当に複雑なものだ

トマトは唯ちゃんのことが好きで
唯ちゃんもトマトのことが好きだった

笑美ちゃんはトマトのことが好きだけど
トマトは笑美ちゃんになんの感情もなかった

笑美ちゃんはトマトに振られて
仕方なく別のトマトと付き合った
そのうち本当にそのトマトを好きになった

結局トマトは
トマトが好きな唯ちゃんにかぶりつかれて
真っ赤な汁を飛ばして死んでしまったけど

トマトが好きな笑美ちゃんは
トマトをずっと大切にして腐らせてしまった
そして笑美ちゃんは
腐ったトマトの前でいつまでも泣いていた

だからトマトにとって
「好き」という言葉は本当に複雑なのだ