短い話たち

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ものを食べながら口が
「しかしなんで人って話すんだ?」
と言った途端、食べていたものが飛び散った。
隣の口が
「食べながらしゃべるな!」
と怒った。
とりあえず噛んでいたものを飲み込んだ口は
「なんで僕らがしゃべらなきゃならないんだってことが言いたいんだ!」
と、やり返した。
それを聞いて隣の口は
「言われてみればそうかな、ごめん」
と謝った。
「だろ?僕らは食べることが仕事なんだ。僕らが食べなきゃ、ご主人様は飢え死にしてしまうんだ。なのに僕らはしゃべるなんて付帯業務までさせられているんだ。よく考えてみろよ、目だって鼻だって耳だってみんなふたつあるんだ。仕事がふたつあっても分け合えるんだ。なのに僕らはひとつしかないんだ。ひとつでふたつやらなきゃならないんだ。不公平だと思わないか?」
食べ物がなくなってすっきりした口は、その分たくさんの言葉を吐き出した。
「もっとゆっくりしゃべれよ。言葉が多くて分かりにくいよ」
隣の口が言った。
「ほらそうだ。僕らは一生懸命しゃべるとそう注意されるんだ。ほかにも「沈黙は金なり」とか「言葉は短く」とかあげくの果ては「目は口ほどにものを言う」とか、仕事してない目を褒めるんだぜ?まったく。僕らに仕事させといてそのくせ僕らの仕事がいけないみたいなこと言うんだ、人間は」
「そう言われればおかしいよなぁ」
ふたつの口はしばらく黙り込んでしまった。
黙ってしまうと、口たちは落ち着かなくなった。
「なぁ」
どちらともなく「なぁ」が漏れてしまった。
「なぁ、もしかして僕たちの本職はこっちの方じゃないか?」
口が聞いた。
「しゃべる方か?」
隣の口がまた聞いた。
「そうだよ、こっちだよ」
口が断定した。
「そうかもなぁ、食べるのが付帯業務かもなぁ」
「そうだ、しゃべる代わりにストライキしたらいいんだ、食べるの」
「それって、ハンストか?」
「ああそうさ」
「でも僕らが食べないとご主人様、死んじゃうぞ?」
「あ、そうか。そしたら僕らも死んじゃうな」
ふたつの口はまた黙り込んでしまった。
「なぁ」
やっぱりどちらからともなく言ってしまう。
「なんかいい方法ないかなぁ」

「あなた、さっきから何考え込んでるの?ずっと黙って」
「うん、あの、ま、実はさ、僕、あの、このレーズンっていうやつがさ、苦手なんだよね」
「え?ずっと食べてたじゃない。結婚以来」
「いや、せっかく君が作ってくれてたから」
「1年も黙ってたの?」
「まぁ」
「言ってくれたらいいのに」
「あれこれ自問自答してたんだよね、言うべきか食べるべきか」
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