短い話たち

賽銭泥棒

この神社のお賽銭を盗む奴はいったい誰なのか捜査本部は頭を抱えていた。
神社には最新の防犯カメラや赤外線センサー、人感ライトに挙句は害獣用の罠まで設置したのに、それらはなんの反応も示さず、しかしお賽銭はしっかり盗られているというありさまだった。

当然の話だ。
賽銭泥棒はこの神社の神様なんだから。
神様に姿はないんだから。

神様は毎夜、神通力でお賽銭を抜き取り、それを持って翌日の午前中の２時間ほどだけ街に買物に行く。
その時だけは神通力で人間の姿をしていた。

街に何を買いに行くのかといえば、実はこれが「ドル」なのだ。
円がどんどん安くなる今、人々はこぞって円をドルに換えていく。
ドルが高い今、お賽銭の円をドルに換えて、ドルがもっと高くなった時に円に交換する。そうすればドルが上がった分だけ儲けになる。

○月○日　150円を１ドルに換金
○月×日　１ドルを170円で売却
　　　　　　　　　…20円の儲け

ま、こんな感じか。

半年ほどこんなことをして神様は10万円ばかり儲けた。
拝借したお賽銭はもちろん返した。
だから事件は犯人不明でなんとなく解決ということになった。

さて、神様は儲けたお金をどうしたか？

神様のことだからきっと慈善団体に寄付したか、自分で慈善事業しただろうと普通は思うがそうではない。

なんと神様はまた神通力で人間になって宝くじを買ったのだ。そして知り合いの七福神に当たるようにお願いしに行ったのだ。

頼まれた七福神にも神様の意地があったから、協力してご祈祷をした。よりによって願掛けされたのはお釈迦さまだった。こっちは仏様だ。

神様にお願いされた仏様は筋が違うとまた神様にお願いした。しかし神様は神様でもそれはキリストだった。

これは日本の問題だろうとキリストは日本の神様にお願いした。

「チャリ～ン」とお賽銭が投げられた。
外を見たら見知らぬ外国人が拝んでる。
外国人は「私はキリストと言いますが仏様にあらぬお願いをされて困っています。えー、この番号の宝くじが当たりますようお願いします」と言っている。

「あらー、これ私が買った宝くじじゃん」

巡り巡って神様は自分で買った宝くじを自分で当てなきゃならなくなった。
そこで神様は…

自分で買った宝くじを賽銭箱に入れて、自分が本来いる祠（ほこら）に向かって手を合わせた。

「この宝くじが一等当選したらみんな差し上げますので、どうか当てて下さい」

…宝くじが当たったかどうかは分からない。ただ、キリストがお賽銭で入れたドルはずっと値上がりを続けている。