少し長い話たち

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意思(完了)

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頭がなくても、彼は確かに意思を持って動いている。
目がないから私を見つめることはないし、口がないから私に伝えることもない。
でも肩から下の腕は、私の服を脱がせて洗ってくれるし、その足先の指は、疲れた私の背中の皮膚をたぐって揉んでくれる。
「ありがとう」と言っても耳がない彼には伝わらない。「どういたしまして」も彼は言えない。
だから私は彼の腕を撫でて「ありがとう」の意思を伝える。
彼の手が私の手を止めて握る時、彼の「どういたしまして」が伝わる。その手には確かに温かい血が通っている。

私は彼を堤防で拾った。彼は草むらに裸で転がっていた。初めは首なし死体かと思った。でも肌色だけの身体は起き上がった。
怖くはなかった。
それまで私はいろんな人に散々いじめられて来た。そこにはいくつもの顔があった。だから顔がない彼をむしろ愛しんで見ていた。
歩こうとする彼を座らせて、私は着ていたコートを彼に被せ、夜を待って闇に紛れてこの部屋に連れて来た。
彼をベッドに寝かせて身体の寸法を測り、服を買って着せた。
以来彼は私と暮らしている。
この部屋では私の声と生活音しかしない。相変わらずの独り暮らしの音しかしない。しかしここには二人がいる。
私は毎日、彼の首の上にいろんなものを載せてみる。何がいちばん彼らしいかを探ってみる。
コーヒーカップを置いたり時計を置いたり絵を飾ってみたり。でもどれも私が思う彼にならない。
今日は金魚が一匹入った小さな水槽を置いてみた。
不思議と彼は首に載せられたものを落とさない。まるで密着したみたいに置かれたものは彼の一部になる。
水槽の水も彼が横になってもこぼれない。水面の傾きさえ彼の表情になる。
そんな彼に私は安心する。
私は水槽の中に顔があることに気がついた。中で泳ぐ金魚の顔だ。それは目を思い切り見開いたまま、口をパクパクさせて前を向いたり横を向いたりしている。
私になんかまるで無関心なその顔が、私はこれが求めていた彼の顔かも知れないと、水槽をしばらくそのままにしておくことにした。

頭の上に水槽を載せたまま、まるで風景のように彼はその壁際にじっと座っている。
彼がここに来てからも、私のすることはほとんど変わっていない。一人で起き、一人で食事を作り、一人で食べ、一人で出掛け、一人で戻る、その繰り返しだ。
ただどうして分かるのだろう。私が帰ると立ち上がり、私の前に来て服を脱がせてくれる。そして裸になった私の肩に手を置いて座らせる。その次に背中に手を置いてうつ伏せにいざなう。そうして欲しいという、彼の意思を感じる。
うつ伏せになった背中を、彼の両足の指がまるで尺取り虫が歩くように左から右、その上をまた左から右と移動して全体を揉みほぐしてくれる。
対人の緊張ですっかり凝った私の背面は、彼の皮膚の動きと温かさでだんだんほぐれていく。
どうして彼は足の指で私を揉むのだろう。
その疑問はすぐに解けた。
彼の手は、脱がせた私の服を上着と下着に分けて、上着はたたみ、下着は脇に寄せていたのだ。そして私がうつ伏せのまま、ほぐれた背中の余韻に浸っている間に彼はそっと立ち上がって、下着を洗濯機へ運んでいたのだ。
そして戻ると、いつの間に覚えたのか私のタンスから下着とパジャマを出して来て、ちょんちょんと指で私の肩甲骨を叩いて、私を座らせ、衣服を私の身体に通してゆくのだ。不思議なことに、彼がどうして欲しいのかが、この微かな動きですべて分かる。
服を着た私が改めて彼を見ると、彼はじっと正座して、その頭で金魚が泳いでいる。私は彼の両手をさする。彼はそれを止めると私の両手を握る。金魚は何もかもが他人事という風に、ひらひらと顔の向きを変え、開き切った目を上目遣いに泳がせている。

私はこれ以上、彼についての詳細を知ろうとは思わない。
彼になぜ頭がないかとか、彼は何を食べているのかとか、彼はなんのために生きているのとか。
ふっと目が覚めて灯りをつけた夜更け、彼は眠っているようだった。
壁にもたれてだらんと手足を伸ばしている。
金魚は急についた灯りに驚いたように、水槽の中で右往左往している。
私は金魚をなだめようと、彼の前にひざまづいて餌をやる。
彼が傾けてもこぼれない水なのに、餌を落として跳ねた水滴は水槽を飛び出して私の手の甲に当たる。
最初の餌に食いついた金魚は、すっかり次の餌を期待している。
でも彼の四肢はだらんとしたままで、私の手の動きに微かな興味を持っている金魚はやはり彼ではないと認識させる。
なんとなく男女の機微の瞬きを覚える。
金魚の目は、ちらちらと彼の身体に行く私の視線とはまったく別の宙を泳いで、餌を持つ私の手の指先だけを気にしている。
私は指を広げる。
餌が落ちて金魚が口をパクパクする。
すると下げている方の私の手首を温かいものが掴む。
「起きた?」
掴む力が強くなる。
私の手首を梃子にして彼が壁をずり上がる。それにまた驚いた金魚を右往左往させたまま、水槽の水面が私の顔に近づく。
私はしゃがむ。金魚が私の目の高さに来てその目を一瞬焼き付ける。
手首を離れた彼の手が、私の背中を撫でる。
金魚が金魚であるほど、彼は彼なんだと認識させる。
これだけでいいんだ。これ以上私は、彼についてを掘り下げたくない。

もしも彼に頭があって、その顔が私を見ながら発する言葉を、私は信じられるのだろうかと思う。
どんな言葉よりも、こうして身体を這う、相手の身体の一部の感触の方がどんな言葉よりも優しい。そこには皮膚が感じる温もりがあるからだ。その温もりには頭はない。
だから彼は頭を持たないのだろうか。
もしかしたら彼は、自分から頭を捨てたのではないだろうか。彼はあの時、立ってどこかへ行こうとした。
彼の立った跡には、実は彼の頭が落ちていたのではないだろうか。

私は翌日、彼を拾った堤防に行ってみた。
彼のいた草むらを舐めるように見てみた。でも何もなかった。
見上げたら川が流れていて、対岸のマンション群が見えるだけだった。マンションはみんなこちらに背中を向けていて、そのベランダには無数の洗濯物がなびいていた。
洗濯物にも頭はない。みんな首から下ばかりだ。みんな彼だ。なんだか無性に嬉しくなった。だから帰りにご馳走を買った。それを食べるのは私だけだが、それがまた嬉しかった。
帰るなり食卓にご馳走を広げる。
私の発する食器音と咀嚼音がする。
何も変わらない独り暮らしの生活音の脇に、壁にもたれた彼がいる。
ご馳走の一部を金魚にやった。
ピチャッと水の音がした。

彼が関わる音はひとつもない。
だけど彼はそこにいる。

動物以上、人間未満。
そんな存在が彼だ。
そして彼は「彼」だ。
彼との日々が何日か続いた。

今になって私は、独り暮らしの生活音にひとつだけ、彼の音が加わっていたことに気がついた。
それは恥ずかしい音だから、彼は二人の生活が馴染み始めた今になって、それを私に気づかせたのかも知れない。
それは彼がおしっこをする音だ。
「可愛らしい」
トイレからするその音に初めて気がついた時、私はそう呟いてしまった。
その時私は自分のハンカチをたたんでいた。彼がたたんでいる途中で、不意に立ったから、続きをたたんでいたのだ。
やっぱり彼は男なんだ。立って用を済ますからこんな音がするんだと、私はそこに唯一の彼の声を聞き、顔を見たような気がした。
私は外でいろんな顔を見ていろんな声を聞く。
少し前まではそれをいちいち気にしていた。
でも彼と暮らすようになって、それは風景になり風に変わった。
私の頭の中の、ボリュームスイッチが下がったみたいに、見るもの聞くものが穏やかになった。
そんな私の変化の裏には、明らかに彼の意思があるように思えた。
彼はただ来る日も来る日も、そのほとんどを壁にもたれて過ごしているだけなのに、いや、そうだから私を変えていっているんだろうか。
ただあの時、彼は立ってどこへ行こうとしたんだろう。それだけがずっと気になっている。

彼はいつかいなくなるんだろうか。
彼が私にしてくれることは、私の服を洗濯し、私の身体を揉むことだけで、あとは壁にもたれてじっとしているだけだ。
その様子を考えたら、彼は自分を拾ってここに住まわせている私に、彼なりのお礼をしているだけで、壁にもたれながら彼は、あの時の意思をいつ果たすかを計っているんじゃないだろうか。
いや、お礼じゃないかも知れない。
彼がどこから来てどこへ行くのかはさっぱり分からないけど、それを中断させた私に行きがかり上彼は、脱衣と洗濯とマッサージという、外から帰った私を癒やす施しをしているだけではないだろうか。だからそれはいつかは終わる。
「いつ?」
たったこの二文字の質問さえ、耳の無い彼には出来ないし、口の無い彼は答えられない。
答えはそこに彼がいるかいないかだけなんだ。それが彼の意思なんだ。
でも、どこにあるのか分からない彼の口から、それはいつなのかを聞けたとしても、それが信用出来るかどうかも私は自信がない。口なんて、身体がすることの言い訳用に付いている穴でしかないんだ。
その穴の周りの唇は、言い訳の言葉の形に動く。それはとても微妙なところまで動く。その柔らかさがいやらしい。その赤色もいやらしい。
信じられる答えは、所詮結果だけなんだ。

「やっぱり…」

ある朝、目が覚めると彼はいなかった。
布団に入ったまま身を起こして周りを見る。
彼のもたれていた壁際には、私が買った彼の衣類がたたんで置いてあった。
その隣には、金魚の水槽があった。
金魚はいつもと変わらずに泳いでいる。
予期していたことが当たった。予期していたとはいえ、やっぱり悲しかった。
布団の脇には、私の外出着がたたんで置いてある。
「何もかもたたまれてしまった」
私は自分の服に手を伸ばした。そして「違う!」
と叫んだ。
私の服を取ろうとしているのは、彼の手だった。
間違いない。あれだけ見た手だから。
それ以上の驚愕が来る前に、当たり前の疑問が浮かぶ。
私の身体と、彼の意思はどこに行ってしまったんだろう。
彼の手を伸ばしたのは私の意思だ。だからこの身体は、今は私になっている。そしてたぶん、その上には、私の頭が載っているんだろう。なぜならみんな見えるから。物を見る目があるから。目が付いた頭があるから。
私は急いで起き上がると、洗面所に走った。裸の彼の身体で走った。
やはりそうだった。洗面台の鏡に映っているのは、喉仏のある変な私だった。そしてその頭は、左右に傾けても落ちない。あの水槽の水のように。
でも少しおかしい。視点が合わないのだ。私は私の顔をじっと見つめているのに、鏡の中の私の目は左右で動きがバラバラなのだ。黒目がくっついたり離れたり、左右勝手にグルグル回ったりしている。よく見ると口は半開きで止まっている。まるであの金魚の顔だ。だからこの顔、この頭は「置き物」なのだ。

「私はどこから私を見ているの?」

私は身体をまさぐった。
不思議なことに私は男性の身体をまさぐっている。隅から隅まで指が這い、手のひらが舐める。私は次第に「欲情」という感情を覚える。
私は今まで、恋愛なんてしたことがなかった。まして肉体関係なんて。
それは私の生い立ちから今までに、そんな気になれる余裕も場面もなかったからだ。それどころか、人間自体が嫌いだった。男女も何もなく、ただ嫌いで、信じられなかった。嫌悪するものに身体を預けることなんて出来ない。まして触ろうなんて思えない。
私はただ、貝殻の中からおどおどと世の中を見て生きて来た。
だけど彼だけは別だった。
頭が無いから信用出来たのか、言葉がないから安心出来たのか、その辺は何も分からない。ただ、倒れていたから近づいた。それだけだ。
だけどその先、彼の身体は無言の優しさと温もりをもたらしてくれた。それは皮膚を通して、心まで温めてくれた。彼のすることがいちいち、ぎこちなくて愛らしかった。
そういう思いが皮膚が皮膚に擦れる感覚と混ざって、女の私は私の男の部分に触れた。それは私を求めていた。

…彼の意思だ。

「あなたの意思は固いのね」
だしゃれのような言葉をそこにかけ、私は壁にもたれて崩れ落ちた。
いつもの彼のポーズになりながら、伸びていく両脚の間にある二人の宝物を意識した。
「自慰」という言葉がいくつもの意味を持って弾け飛んだ。

今までの私の日常が買わせた物が、こういう形で役に立つとは。
私は「置き物」の私の頭に大きなサングラスをかけた。サングラスは、少しでも他人との距離を広げたいという気持ちがたくさん買わせていた。
これをかけて彼の服を着れば、一見は髪の長い男性に見えるだろう。
この姿で、私は私の身体と彼の意思を探しに出る。部屋のどこにも、その二つがなかったから。
さっきの不思議な感情の高まりの中で、私は彼の身体の中に彼の意思の一部を見た。同じように、私の身体の中にも私の意思の一部があって、彼の意思と重なっているんじゃないだろうか。私はそう思った。

夜を待って私はあの堤防に行ってみた。もしかしてあそこに私の身体が転がっているんじゃないかと思ったから。
そしてその予感は当たった。私のはるか前方の闇に、ふらふらと歩いている白いものを見つけた。きっと私だ。
それはまるで幽霊だったけど、彼を初めて見た時のように私は怖くなかった。むしろ惹かれるように近づいて行った。その半分の意思は、明らかに彼のものだった。私はそれを感じた時、たまらなく嬉しくなった。
すくそばで見る私の身体には、やはり頭が無かった。私の身体は、私がその肩に手を置くまで歩みをやめなかった。
手を置いた途端、驚いたようにピタッと止まった。そしてじっと川の方へ前を向けたまま、何かを待つようにじっとしていた。
私はどうやって頭を外されたんだろう?首の上は、初めからそうだったように首の皮膚の肌色が回っている。切断の苦しみなんてどこにも感じられない。まるで穏やかな丘のようだ。
回り込んで見た裸の胸には、私の成長と共に生まれた二つの丘があった。右の丘の側面にホクロがひとつある。それを私はじっと見つめている。やっぱり私だという懐かしいような気持ちと、味わったことのない感情の泉を覚える。
彼だ。彼が私を見ているんだ。

私はあの時と同じように闇に紛れて私の身体を部屋に連れて帰った。
身体に私の服を着せ、しばらく向かい合って座っていた。
私は今、自分の身体と向き合っているがそれは彼。そして私は、ここに彼の姿でいる。
いったいなぜこんなことになってしまったのだろう。
疑問と落胆、諦めと許容、そしてほんの少しの期待が、無いはずの脳裏に湧き始めた時、私の意思とは無関係に彼の身体の腕が動き出した。両腕を上に上げ、載っている私の頭を掴んでキュッキュッっと左右に回した。するとまるで瓶の蓋が外れるように、痛みも出血もなく簡単に頭が外れた。外れた頭を両腕はうやうやしく持って、壁際の金魚の水槽の隣に置いた。
金魚の目と、私の頭にある目が同じように見えた。
その四つの目が泳ぐ部屋でおたがい服を脱いだ。

月明かりと街灯の余り灯がカーテンの隙間からこぼれるほの明るい部屋。
頭のない男女の裸体が向かい合って座っている。そして男性の方の身体の中には私がいて、女性の方の身体の中には彼がいる。
男女の傍らには、水槽をグルグル泳ぎ回る金魚と、目をグルグル回し続ける女の頭部がある。
まるでシュールレアリスムの絵画だ。

男性の身体の中では、これから先の不安が渦巻いている。こんな身体では仕事に行けない。仕事どころか外出も出来ない。それにもう、ここに住むことも出来ない。
男性の両腕は、存在しない頭を抱えた。
でもその両肩に、いつの間にか背後に回った女性の身体がそっと手を置く。彼を私が労わっている姿が実は、私を彼が労わっているのだ。男女が逆転して、また逆転して、おたがいの身体を転がりながら行き来しているようだ。
そういえば、生活音の中から私の食事の音と独り言の音がなくなった。ここで今する生活音は、そっと畳を踏む音と、お互いの身体に手のひらが触れる音だけだ。無声ではあるけど無音ではない世界。おたがいを慈しむ音だけの世界。この身体のどこかにある耳が拾う世界。
それがとても愛おしかった。

「声」という文字には頼りない尻尾が付いている。頼りない尻尾がぎこちなく動いて、私の声はどこかへ行ってしまった。代わりに私の体内には「触」という文字が生まれて、かつて私のものだった柔らかい手のひらがさすってくれるのを待っている。
「彼」という存在は「私」という存在を見つめ直させるために何かがここに遣わしてくれたものだろうかと、私は私の皮膚の柔らかさを撫でながら考える。
いつの間にか眠ってしまったのだろうか彼という私の身体が、くすぐったいのか刺激に反応してイモムシのように寝返りを打つ。
窓から差し込む薄明かりがその一部を煌めかせる。
この明かりが二人をはっきりと映し出す明日から、彼と私、いいえ二人の私はどこでどう生きて行けばいいのだろうか。
夜明け前の時間は果てしなくだるい。
壁際に目をやると、私の頭と水槽の中の金魚の目が相変わらず薄明かりの中でキョロキョロしている。みんな私を頼っているように見える。

朝、私は改めて私の身体を眺めた。なかなか見られなかった私の背中が、こちらを向いている。
私はひとりではない。
ふと私を明るくさせるそんな気づきは、彼の意思だろうか。
それに応える言葉という音がないここが、なぜかしら温かい場所に思えて、私は私の背中に抱きついた。

私は自分の背中、今は彼の背中の体温を感じている。体温の中に微かに鼓動を感じる。私はずっと、この温かさを保って生きて来たんだと思う。
彼が来てから、私から言葉が消えた。代わりに体温や鼓動を感じる感覚が敏感になった。
文字が流れない血管の動きと、その脈動が起こす皮膚の温かさは私に無限の安心を与える。かつては彼の身体で、今は私の身体で、私は誰の身体もこうして温かいのだと実感している。なのに誰もの持つ感情や言葉が邪魔をして、誰もが私を蔑んで、私は人の温もりを感じないままここまで生きて来た。

でもどうして彼には頭がないんだろう。
彼と会ってから何回も問い続けたこと。
そしてどうして彼は私の頭を外し、身体を入れ替えたのか。
そんな新たな問い。
彼の意思はどこにあって何を求めるのか。
さっきから彼、いや私の肩甲骨からうなじの上の皮膚を人差し指でなぞりながら私はずっと考えている。
その指は彼の少し黒くて太い指で、うなじの上の、頭があったはずの丘にハンガーみたいに引っかかる。私の顔があった辺り。
なんとなくこんなことになったわけが分かるような風景なのだけど、それは目の前まで来ては消えてしまう。

ねぇ、頭を失ったら、何が得られるの?

窓の外がだんだん明るくなって行く。今日にはここを出なければ。

朝、私たちはよりシュールな絵画だった。
衣服を正して向かい合って正座する男女。
男の頭部は女性のそれで、目を見開き眼球は好き勝手に回っている。
女の頭部は水槽で、中には金魚が泳ぎ回っている。
そして、男女の性別は逆転している。
窓の外では、9時の朝日がこちらを見ている。これが窓から消える頃には、男女は立ち上がって部屋を後にするのだ。
そこから先は、胴体同士の一日になる。
昼間は物陰で互いの手のひらを確かめ合いながら、通りを行き交う人の脚を眺める。息を潜める必要はない。頭部は飾りなのだから。

そして街に出た。ビルの隙間の物陰に私たちはいる。
しゃがんで表通りを見ている。
人の脚のリズムに合わせてお互いの指先が手のひらを這い、遊ぶ。
リズムが慌ただしくなると、お互い経験の浅い性の高まりを感じ合う。突き上がる男性の高まりと、食い込む女性の高まりを感じ合い理解し合う。微笑み合う顔はない。切りどころのない高まりが続く。それだけに互いの「生」を感じる。私たちは生殖のために生きている。
行き交う脚は今日も、その頂上にある顔に振り回されなければならない。私たちはその必要がない。
顔が発する声と言葉と、そして顔自体の組み合わせがいくつあるのかは分からない。でも組み合わせ次第で人は好かれ、人は嫌われ、喜び、悲しみ、首から下の部位を翻弄する。悲しみは脚を死に場所へ走らせ、死にたくもない脚を殺す。
その元凶は、頭部なのだ。
頭部にある脳、目、耳、鼻、口が首から下の身体を巻き込むのだ。なんてわがままで、ひ弱な奴らなのだろう。
奴らがいない私たちは、今、生の喜びを享受している。物陰と蔑まれる、今日の裏側で。

物陰がオレンジ色になって行く。
昼間が終わり始めた。
私はしゃがんだまま、思わず後ろずさりする。
でも彼は、いいえ私の身体はオレンジに染まったままじっとしている。あからさまになるにつれむしろ立ち上がり、じっと前を行く脚の群れを見ている。それはまるで何かの頃合いを計っているようだ。
底から覗く水槽の金魚が呑気に泳いでいる。腹を夕日に光らせている。
脚の群れは止まらない。もう私たちの姿は夕日に浮かび上がってはっきりしているはずなのに、私たちを見つけて捕獲しようという脚の動きはない。
ふと彼が振り向き、頭の水槽を指差した。
「金魚?」
金魚に何かしろというのだろうか。
彼は私の前まで来ると、私と同じようにしゃがんだ。
しゃがんでもまだ水槽を指さしている。言葉のない彼の意思は分からない。だからとにかく水槽を眺めた。
相変わらず金魚は吞気に泳いでいる。そういえば私が頭を失ってからこの金魚は餌を食べていない。餌は私が食事の時に咀嚼したものを与えていたから。
「餌はあげられないわよ」
心の中で言った。でもそうではないようだ。むしろここを見ろと言っているようだ。
本当に不思議なのは、頭部のない私が物を見ていること。いったい私はどこから周りの景色を見ているんだろう。ならば私の目ってなんだったの?
今一応は私の頭部は身体の上に載っているけど、その目はあらぬ方向へグルグル回転しているからこんなにしっかりした景色を捉えているはずはない。
とにかく水槽を眺めることにした。時々金魚と目が合う。すると一瞬、あるはずのない脳裏に私の頭部が映った。
頭部は今、上にあるはずなのになぜ見えるの?それかただの錯覚?
また金魚と目が合った。やっぱり見えた、私の頭。変な言い方だけど、目はしっかりと回っている。
ということは、もしかして今は金魚の目が私の目なの?何がどうなっているのかさっぱり分からない。それ以上に彼の意思が分からない。思わずないはずの瞼を強く閉じた。

手を引かれた。
強い力で引っ張られた。
走らされる。
瞼を開ける間もなく速い。
止まった。
慌てて瞼を開ける。

「あ」

そこはすっかり日の暮れた表通りの建物のショーウィンドーの前だった。
街の明かりに照らされて鏡になったガラスに私が映っている。
そこに映っている私は普通の私で、ちゃんと女性で、頭もついている。そしてその目は映っている私をしっかりと見つめている。
隣には彼がいる。やはり頭部のない彼が私と手をつないでいる。反対の腕で水槽を抱えている。
そして背後には…

頭部のない人間の群れが歩いている。
私を除いて誰も頭を持っていない。

「どうなってるの⁈」

私は彼に叫んだ。
声が出ている。
その分なんだか、感覚が分散されている。
さっきまでの、研ぎ澄まされたような触覚が鈍くなっている。彼の手が遠くに感じられる。

「まるで絵画だわ」

そう呟いていた。シュールな絵画がどんどんその度合いを増して行く。
そして背後の群衆は私の方へ身体を向ける。今になって捕獲に来た。
鏡の前でたちまち私は裸にされ触られる。無数の手に。男の手、女の手。
ざわざわとした無数の触覚の音の中で私の声だけが街に響く。
それは「どうして?」という言葉。
身体に感じるさまざまな触覚は、性的なものと言うより心地良いもの。
髪を撫でられたり、耳かきをされたり、瞼を揉んでもらったりするそんな感覚を今、私は全身に感じている。
彼と出会ってから私は、それまでの人生で味わえなかった人の肌の温もりを何十年分も味わったような気がするけど、それは言葉に蔑まれた私の今までを、神様が帳消しにしてくれようとしているのか。でもどうして?
事実私は今髪を撫でられ、耳を触られ、瞼を揉まれている。唇に這う指もある。そのために私の頭部は戻されたのだろうか。私は今、目のない者たちの注目の的となっている。目が這う代わりに、指が這っている。

安堵の快感に酔っていたら、そのうち眠ってしまった。夜が明けていた。
ショーウィンドーに映る私はちゃんと服を着て、でも路面に横たわっていた。群集は消えている。誰もいない早朝の街。
ただ彼だけはいる。
横たわる私の足許で、水槽を抱えて座っている。

「あれはなんだったの?どうしてあんなことになったの?」

当然彼は答えない。代わりにまた私の手を引いた。わたしを立たせて、ショーウィンドーの横の扉を開け、中へいざなった。
私はただついて行くだけ。
男を追う女の感情って、これなのかしら。男次第で景色が変わって行く。

建物の中は薄暗かった。何を売っているのか分からない。商品らしきものにはみんな白布が掛けられている。ただそれらは丸い起伏を見せて並んでいる。そのかたまりが店の空間のあちらこちらにある。
階段を上がり2階3階へ。そして最上階の10階に着いた。
途中、各階のフロアを一周した。彼はまるでここが自分の持ち物件であるかのように、慣れた足取りで私をいざなう。
どの階もレイアウトは同じで、ショーケースらしき台の上の商品らしきものには全て白布が掛けられていた。そして同じように丸い起伏が並んでいた。
なんとなく嫌な予感がした。あの起伏、身近で見たような。日常的に。
最上階の正面には壁一面に大きな水槽があった。縦は5メートルくらい、横は10メートル以上ありそうだ。青い灯りで照らされたその中には、鯛くらいの大きさの魚が一匹、悠然と泳いでいる。それは魚というより、人間のように思えた。何かしらの意思を持っているように感じたのだ。
水槽は低い段の上にあった。彼は水槽の前の、段の余りスペースに腰掛けた。
彼の首の頂上に、例の魚が来て止まった。

「止まる?」

ピタっと魚が止まるのを見たのは初めてだ。こんな光景、ありえない。
魚は横向きの顔のその目を、私に向けた。目もそこで止まった。
彼の姿が完成したように見えた。
しかしそれは一瞬で、彼が立ち上がると魚は元通りに泳ぎ出した。
彼は抱えていた水槽を一旦床に下ろし、どこかへ姿を消したかと思うと、ほどなくして戻って来た。肩に脚立を掛けていた。巨大な水槽の前に脚立を立てると、床に置いた水槽をまた抱えて昇った。そして巨大な水槽の頂上から、抱えていた水槽の中身を注いだ。
中の金魚がスルッと泳ぎ出した。

…私は病院のベッドにいる。
さっき目が覚めた。何日も意識不明だったらしい。
私が倒れていたのは、あの日彼を拾った堤防だった。私はずいぶん水を飲んでいたらしい。全身ずぶ濡れで、堤防にうつ伏せで倒れていたらしい。
そうだ、私は彼を拾えるはずはなかった。なぜなら私は、あの日堤防から川を横切る橋の上から身を投げたんだから。
そう、日常に耐えられなくなって、死のうと思ったのだから。
だったら彼との時間は夢だったの?
いや、あの時間の中で感じた肌の温もりや感触は確かなものだった。
あの日私は橋の上から身を投げて溺れたのだ。だから水を飲み、全身が濡れていたのだ。
しかし私はあの日、彼を拾っている。彼は私と同じように堤防に倒れていた。そして白日夢のような時間が流れて…

彼は起伏に掛けられている白布を少し剥がした。
目を瞑った人の頭部が現れた。
起伏を撫でるように彼は白布を剥がしていく。次々と生首が現れる。

「やっぱり」

さっき感じた嫌な予感はこれだった。起伏は生首の列だったのだ。
でもどの首も切断された感じはない。血色が良く、まるで人の頭部という、ひとつの生き物が眠っているようだ。血も垂れていない。
彼は私をいざなって階段を降り、各階の白布を剥がした。生首が次々と現れ、1階に戻る頃には私の頭の中でおびただしい数になっていた。
表通りにいた頭のない胴体の持ち主たちだろうか。
そのうち、生首の一つが目を開き、あちらこちらで次々と目が開いていく。彼は私に繋いだ腕を上げ、まるではしゃいで踊るように私を引き、また階段を上がって行った。
「ほら」
というように各階の生首に向けて反対の手を開く。手品のようにパチパチと生首の目が開いていく。

「あ」

生首たちの目が開くと、次は口が動き出した。頭ごとに違う動きをする。半開きのまま力なく動くもの、思いきり開いて盛んに動くもの、ひとしきり動いて唾を吐くもの、唇の端を上げて微笑むもの、みんな違う。そして何かを話していてもはっきりと言葉が聞こえない。まるでボリュームを絞られたように低く、呪文のように流れている。
言葉、そうだ人は言葉を話す。話した言葉は誰かに降りかかり、その人に影響する。時には生かし、時には殺す。
私に降りかかる言葉は辛辣なものばかりだった。だから私は生きる意欲がなくなった。
そんな言葉の生産装置が今ここに並んでいる。それが切り離された胴体たちは温かかった。
どんなに辛辣な言葉を吐く人間も、首から下にあるのはただ肉体の温かさだけだ。私はその温もりの雨を受けていた、さっき。その動きのどこにも言葉はない。ただただ、純粋な意思を感じる。
犬が舐めるような、猫が擦り寄るような、純粋な意思を。
そして彼自身も、そんな純粋な意思なのだろう。

彼はしばらく生首たちの動きを眺めているようだった。そうだ彼の目はいったいどこにあるんだろう。

「魚?」

さっき彼と重なったあの水槽の魚。
私は壁際の水槽を見た。
あの魚が止まっている。
ここからははっきり分からないけど、きっとその目は生首たちを見ているに違いない。
彼を拾ったあの時、彼はどこかへ行こうとしていたけど、今なんとなく分かる。
ただ私に拾われるために彼は立ち上がったんだ。ここへ私を連れて来るために。

繋いでいた手を離すと、彼は生首のひとつを両手で持ち上げた。
彼はうやうやしく生首を持って壁際の巨大な水槽の前に行き脚立を昇る。
生首から微かな音がしている。あの呪文のような声だ。
脚立を昇り切って彼は水槽に生首を落とした。
生首は少し青色に変化して沈んで行く。
声が泡になって水面に上がって行く。
すると生首はまるでオタマジャクシがカエルに変化するように、その姿を変えていく。
見開いた目の周りの色が青からピンクになって、ヒレが生えてだんだん魚になっていく。
彼はそれを見届けるとまた別の生首を取って来て水槽に落とす。
するとまた新たな魚が現れる。
彼は何かに取り憑かれたかのようにそれを繰り返す。私のことなんかすっかり忘れたように。
呆然としている私をよそに、彼は建物中の生首を水槽に入れてしまった。
水槽はさまざまな魚でいっぱいになった。まるでそこは水族館だった。

そして彼は私を抱いた。
しばらく水槽を眺めていた。

…私の頭が落ちた。

落ちた頭を拾って、彼は脚立を昇った。
頭を抱える彼の腕の力を感じる。
斜めに上がって行く景色が見える。
それはジェットコースターがゆっくりと上がって行く時に似ていた。
私はまるで遊園地に連れて来てもらった子供のような気持だった。
頂上に着いたようだ。
私の視界は急に青くなった。そして冷たい。
どうやら彼は私の頭を水槽に浸けたようだ。
ジェットコースターが動き出した。
沈んで行くガラス越しに、脚立を降りる彼が見えた。
そばを通る魚たちが私の肌に擦れる。
冷たい水の中に、温かい感触を覚えた。

水槽の底に着いた。

あの水槽を抱えて彼が手を振っている。

彼の姿がだんだんぼやけていく。


…私は私の目がどこにあったかやっと分かった。

やっぱり夢だったんだ。
夢だったから視界があった。
寂しい。
所詮夢だったのか。でも、あの壁際の水槽には彼の頭があった。初めにいたあの鯛みたいな魚、あれはやっぱり彼だわ。
今頃は夢の続きの中で、私と泳いでいるんだろうか。

「あれ?」

あの水槽がある。金魚が泳いでいる。
彼が抱えていたはずなのにどうしてここにあるの?
だとしたらやっぱり、夢じゃない。彼はいるんだわ。

と、微笑んだ瞬間…

…私の頭が落ちた。

ベッドの下に転がった私の頭の両目がまた、グルグルと好き勝手に回っている。
なぜ私はそれが見えるの?

…あ、そうだったのか。

「この水槽、なんだったんだろう?この金魚。彼女のかな?しかし不思議だな。彼女の横で一緒に倒れていたのにこの水槽の水、こぼれてなかったんだもんね。しかしまたなんで彼女の頭、取れたのかなぁ。血も流れてないし。皮膚も張っている。なんでかなぁ」
「とにかく教授に渡しましょう」
「そうだな」
私の頭と胴体を回収しながら、白衣の男たちが話している。
私は今、ベッドの脇の水槽の中にいる。

私の頭と胴体を持って一旦出た男たちがまた入って来た。
「しかし、頭が取れる病気ってあるのか?」
「さぁな、何せ初めてだしな。でもあの遺体見て教授喜んでたぜ。世紀の発見だとか言ってさ」
「ところでこの変な水槽どうする?」
「あの堤防んとこの川にでも流すか?」
「でも水こぼれないぜ」
「あ、そうか、これも世紀の発見だ」
「俺らがもらうか?金魚ごと」
「いいねえ。でも手柄は半々だぞ、信用してっからな」

この人たち、頭がある。頭があって話してる。その言葉でまた悩むのよ。
かわいそうに。

私はこの姿に戻って思い出した。
私は元々金魚だった。人間に飼われている金魚だった。でもある日飽きられた私は、あの川に捨てられた。彼を拾った堤防があるあの川に。
私は人間になりたかった。飼われるより飼う立場になりたかった。そう願いながらずっと川の中を泳いでいた。
私がこうなったのはそんな私の強い意思。意思は私をあの橋の上に立たせていた。そこから飛び込む人生を歩ませて。そして分からせた。
やっぱり私は、金魚のままがいいんだと。
だとしたら私の本当の意思って、ずっと金魚でいたいということかも知れない。

私の意思はおまけにご褒美までくれた。
この水槽。

人間たちが私を水槽から出せる日は来るだろうか。それを楽しみに私はここでずっと泳ぐ。私の意思の枝葉のような彼を想いながら。
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