刺朗

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三次元のエピローグ⑥

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「よく分かったよ。しかし川田という奴は…」
「よろしいですか?実は川田はその前にも、家族殺しの疑いを受けていたようなんです。こちらの事件も、真実が不明のままなんです。一応、川田の母親が図った無理心中ということで処理されましたが。
その話も、中井君が川田を調べるうちに分かったことなんです。
彼が小説を打ち始めたのは、5年ほど前のことでした。
その頃偶然、河川敷の堤防上の道で、向こうから来る川田夫婦と遭遇したようなんです。彼は逃げようとしたそうですが間に合わずにそのまますれ違ったそうです。その時に川田夫妻とまともに目が合ったのですが、向こうはどちらも無反応だったそうです。それは多分、両者の容貌の変化の差だったんでしょう。その時に中井君は、ある種の安心感を覚えて、告白することを考えたといいます。
それは川田にではなく、私にです。
そうだったね?」
中井は頷いた。そして
(誰かが私の中で、事実を風化させてはいけないと言ったんです。きっと、あの赤ちゃんの魂が成長して、私に話しかけたんだと思いました。私は何より施設長に事実を知ってもらおうと思いました)
と書いた。
「今井さんはこの小説をどう扱われるつもりなんですか?」
伊藤は今井に聞いた。
「私も彼が、これをどうするつもりなのか尋ねてみたんですが、彼もどうしていいか分からないと言いました。彼は私に見せたい一心で書いたものですからね。私も自分さえ知ればいいと初めは思ったんですが、やはり事実を知ると、それでいいのだろうかと考えるようになりました。そこで当時、事件を扱われた伊藤さんに来ていただこうということになったんです。伊藤さんにもこの小説を読んでいただいて、ご意見をお聞かせいただこうと。
どうでしょう?
読んでいただけませんか?」
今井はそう申し出た。
申し出を聞いた伊藤は戸惑った。
伊藤は、刑事上どうにもならない事件の真相は、むしろ知りたくなかった。当時伊藤は、川田を無罪と決めつけて捜査を縮小する上司のやり方が許せなかった。
縮小されても細々と捜査らしきことは続いたが、それは世間体を繕う行為にしか見えなかった。あの時上司は、容疑者と思われる少年は精神に障がいがあるから、仮に捕まえても罪には問えないだろうと言った。それだけに積極的に捜査をする気はなかったのだと思う。
世間体を繕えない伊藤は、縮小の時点で捜査から外された。
やはり真相はあったのだ。だがそれを知るときっと、上司への怒りが再燃するに違いないし、再燃した怒りをぶつけに行ったところで、もう上司も自分も、定年で警察を去っているのだ。
「残念ながら私の気持ちは、今さらそれを見たくないというのが正直なところです」
伊藤はそう答えた。
だが返事をこれで終えていいのだろうかという気持ちも心の隅にあった。
これを有効に使う方法があるかも知れない。
それともうひとつ。
川田が起こしたと思われるさらに過去の事件もうやむやで終わったという。
ここにも伊藤と同じ思いの刑事がいたはずだ。
2つの事件でそんな刑事を作り、自分は無罪放免になって、今も社会の中をのうのうと歩いている川田緑郎という男を、人としてこのまま放っておいていいのだろうか…

「ですが、とにかく読んでみます。読み終わり次第、また伺います」
と伊藤は応えていた。
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