ブルー・クレセンツ・ノート

タウの刻印

ヴェルキエーレの帰還#1

────ククリ（人狼ルガルガルダーガ種、ニダヴェリール宮廷正室、アースバインダー）


　メイリンが現地で活動してくれるおかげで、研究に専念できるのがありがたい。
　ミユキには引き篭もり呼ばわりされているが、今の生活が楽しくて仕方がない。

　ルシーニアも最近は時間に余裕があるらしく、一緒に居られる時間が長くなって来た。

　アストレアにアースバインダーが帰還したことで、宮廷間に距離ができ初めたことも大きいのだろう。ルシーニアの役割はアストレアの足りない部分の肩代わりから、ティフォーニアに変な足かせがついていないか注意を払いながらサポートするという立ち位置へと変わって来たようだ。

　ようやく本来の執政に集中できるようになったといった感じだろう。


　懸念されていたニダヴェリールの研究施設は、ニブルヘイム、ムスペルヘイム、ヘルヘイム、ニダヴェリールの4外界で共同運営することで再スタートしている。

　本部はニダヴェリールに設立され、各種実験棟はニブルヘイムとムスペルヘイムに建設された。
　研究者は本部もしくは実験棟に配属されているが、隔離指定されている研究者はニブルヘイムの隔離研究室に収容されることになっている。

　ただし、試験運用中ということもあり、現状は、隔離指定されている研究者のサポート機関に近い状況である。
　
　ルーテシアはイサナミの研究所を本部に移設したいらしい。
　所長のおカルさんをかなり気に入っているようだ。

　アストレアに先進の研究施設があるので、イサナミの研究所の立ち位置は、かなり微妙な状況だ。
　ヒューマノイドとは思えないほど研究者としての資質が高い者ばかりなので、このまま放置して才能を埋もれさせてしまうのは勿体無いそうだ。

　彼らはイサナミ使いではないが、イサナミの文化に染まっているため、無色のホムンクルススターゲイザーのような危うさもなく、ニダヴェリールの研究施設を任せるには適任と言えるだろう。

　ルーテシアが、彼らをうまく口説き落として、転生装置で進化してもらうことができれば、彼らの才能はさらに開花するだろう。


　ヴェルキエーレは、ケイとルシオーヌの頑張りにより、個体数が3倍に膨れ上がっていた。これにより、グラミアはムスペルヘイム、クラウソラスとオートクレールはニダヴェリールへの帰還が確定した。

　賢者エルダーは、ケイ、レイ、ガーラの体制へと移行済みだ。

　だが、同時に外郭世界へ帰還が決まったヴェルキエーレがもう一人いた。

　ルシオーヌだ。
　帰還先はヘルヘイム。
　彼女は、ルーテシアの生体情報から産み落とされたティフォーニアの妹だったらしい。

　帰還組の4名はニダヴェリールの特務機関でまとめて引き受けることになっている。


　ヴェルキエーレの帰還はかなり先だと思っていたが、ゼディーはアースバインダーの帰還にあわせて実施するつもりだったようだ。アストレアと距離をとり、精鋭をニダヴェリールに集中させることで、アースバインダーたちを牽制したかったそうだ。

　アストレアの体制が変化しつつあることで、特に心配なのはヴェルキエーレの扱いだ。アースバインダーの中には彼女たちを、ただの兵器としてしか見ていない者も少なくない。ルガル程度では遠く及ばない完全な上位種族として認めたくない気持ちが根強いらしい。


　ゼディーはアストレアのアースバインダーを20名以下に減らすべきだと考えている。フリギアン＝ギアの選考基準をティフォーニアが引き継ぐべきではないというのが彼の主張だ。

　ルーテシアとルシーニアは、ティフォーニアに変な気遣いをさせないようにすべきという点で見解が一致しているようだ。

　ティフォーニア自身も自分が選んだわけでもないアースバインダーが、69名も居座られては困ると思ってるらしく、再選定を進めているそうだ。

　大地はユグドラシルに包括済みなので、大地の維持にアースバインダーは必須ではない。仮に大崩落があったとしても、リエルの鎮守鎖アースバインダーで全てまかなえるらしい。
　既存の鎮守鎖アースバインダーの無効化の準備までも整っているところが、いかにもゼディーらしいやり方だ。

　彼らが根をおろす前に、早期に手を打ち引退させるつもりのようだ。
　彼らとしてもそれが幸せなのかもしれない。
　人柱となり十分すぎるほど酷使されたのだから。