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影のセカイ

THE SAViOURS FROM HELL#3

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────サクヤ=ニカイドウ(ヒューマノイド、イサナミ自治区、一刃ひとは・師範)


 数日前、元老院から、ラフィノスの女の子の指南を言い付かった。

 ミヅキ=エヌ=ラフィノスという、私と同い年くらいの子だ。

 彼女は、お世辞にも運動神経に恵めれているとはいえない、とても鈍臭い子だった。

 どうして、一刃ひとは本家の次期当主の座が確定している私が、こんな才能のかけらもない子の面倒をみないといけないのか不思議でならない。

 でも、母さまからは、ラフィノスには貸しを作っておきたいから、しっかりと指南するように言われている。
 そのため、無下に扱うこともできずに、無駄な時間を浪費している。

 
 今日の朝稽古も、すぐに息を切らし、ついてこれないようだ。

 ほんと、この子何しに来たの?

 休み休み、修練を行わせていると、ふもとから、モーターサイクルの音が聞こえて来た。
 こんな朝早くにお客さん?

 不審におもって、長刀を握り、様子を伺っていると。
 二人乗りの男女が、私たちのいる修練場の駐車場に入って来た。

 この気配、ユキヒラさんだ!
 珍しいな、一刃ひとはの山にくるなんて。
 でも、すごーく久しぶりだから、うれしい。

 最近、共有者ユニオンが解除され、急激に体が成長していると噂で聞いていたけど、背もかなり高くなり、想像以上のイケメンに成長していた。やっぱりかっこいい。

 でも、後ろの女、だれ?
 キサ=カザマじゃないの?
 新しいお目付役かな? 入山制限かかってるものね。

 二人は私たちに近づいて来た。

「おはようございます! ユキヒラさん。
 お久しぶですね、お会いできて嬉しいです!
 すっかり、大人びて、かなりのイケメンですね!」

「あはは、久しぶり、サクヤ。ようやくサクヤを見下ろせるようになれて嬉しいよ。
 サクヤに身長抜かれた時はマジでショックだったからね。
 サクヤは、少し見ない間にさらに美人さんになったんだね。見違えちゃった」

 ユキヒラさんと私が談笑していたら、お目付役の女が、ミヅキのそばに行って、談笑をはじめた。

「ユキヒラさん、あの女だれです? イサナミじゃないですよね?」

「ああ、あの人、ラフィノスの要人。フリーパスもってるから僕が案内役させられてる」

「こんな早朝からですか?」

「うん、まいったよ。毎日、1日中、足にされてるからね」

「ムカつきますね」

「やめときなよ、イサナミであの人に敵いそうな相手は思い浮かばないからね」

「そんなにできるのです?」

「化け物だよ。元老院なんか子供以下だろうね。
 怒らせないように気をつけたほうがいいよ。本気で殺されるから」

 ラフィノスの女が、ユキヒラさんを呼びつけた。


「ミヅキに流水りゅうすい舞わせるから、指南つけて見せて、転ばせていい上限は3回。最後まで舞えるようにしてね。よろしく」

 え? なにいってんの?
 しかも、ユキヒラさん超必死な顔してる。
 ミヅキに流水りゅうすいなんて、無理でしょ。
 しかも3回しか転ばせちゃダメって、ひどすぎる。

「ちょっと、ひどすぎませんか?
 あの子、それ以前のレベルですよ。これだから素人は……」

「あはは、君はミヅキに手厳しいね」

「で、3回転ばせたらユキヒラさんどうなるのです?」

「殺す」

「は?」

「ほんとだよ、それを一番わかってるのは、彼自身だから、これ以上、私にちょっかいだすと、彼に嫌われちゃうよ?
 彼に憧れてますーって感じがバレバレだよね?
 彼、一刃ひとはの支援が欲しいみたいだから、脈はあると思うけどね」

「な、なにいってるの? 私、婚約者いるし……」

「あはは。一刃ひとはの子が簡単に心を揺さぶられてどうするの?
 戦場だったら、君、死んでるね。
 一刃ひとはの長が空席だって聞いてるけど、納得したよ。
 まともな一刃ひとは使いが育たなくなってるってことは、ほんとうに危険な状態だね」

「何も知らない部外者が、いい加減なこといわないでください!」

「あと2回だよ!、生き残れるの?、かなり先は遠いよ」
 ラフィノスの女は、ユキヒラさんを煽った。

「何も知らない部外者にこんなこと言われるくらい廃れちゃったの?」

「廃れてません、一刃ひとは、優秀な人材の宝庫です」

「あはは。みんな修羅落ちしてるじゃん。一刃ひとはは、いつから修羅が宝になったの? それ誰が決めたの? 詳しく教えてくれる?」

「それは……」

「君が敵わない修羅は何人いるの?」

「急に言われても、人数なんか、わかりませんよ」

「それ、廃れてる証拠でしょ?
 私は、ミヅキを、一番の一刃ひとは使いに託したのだけれど?
 君がミヅキの指導をしてるってことは、君がそうなのだよね?」

「次期当主ですから、当然です!」

「じゃ、十六夜の先いざよいのさき見せてよ?」

「え? それは……」

「まさか、そんなレベルで元老院の席にすわっていいとおもってるの?
 それで、君より強い修羅達に示しがつくの?」

「……」

「あと1回! 今日で君の人生は終了かなー?」
 ラフィノスの女は、さらにユキヒラさんを煽った。

「無茶ですよ、ミヅキに最後まで舞わせることなんてできるわけないでしょ!
 ユキヒラさんで遊ばないでください!
 ラフィノスの要人だからって、最低限の節度をまもるべきです!
 元老院に報告しますよ!」

「元老院は了承済み。いつでも彼を殺していいといわれてる」

「!?」

「彼を殺させたくないの?」

「当たり前です」

「仕方ないなー、恋する乙女には、私も甘いからね」

「じゃぁ!」

「条件を出すね」

「なんですか?」

「2週間以内に、君が、十六夜の先いざよいのさきに到達したら、見逃してあげる。でも、到達できなかったら、君も彼も両方殺す。元老院にはそう伝えておく」

「……そんな横暴な!」

「無理なら別にいいよ。他のおもちゃ探すから」

「……わかりました。やって見せます。なので、変な遊びは金輪際やめてください」

「だめ、遊びは続ける。今回殺すのを見逃すだけだよ
 君に私を納得させられる交渉材料があるの?」

「わかりました。それでいいです」

「交渉成立」

「ストップ! もうやめていいよ」

 ラフィノスの女は、そういうとミヅキに稽古をつけはじめた。
 整流と宗術そうじゅつを数十回繰り返した後、ミズキに流水りゅうすいを舞わせた。
 一度、途中で止め、指南をつけ、再度、整流をしたあと、ミズキは流水りゅうすいを転ばすに舞えるようになった。

 ユキヒラさんも、私も、唖然として眺めることしかできなかった。

 再び、指南をつけると、ミズキは流水りゅうすいを完全に綺麗に舞えるようになっていた。

「何もしらない部外者にも出来ることすらできないの? イサナミは。
 ミヅキ、飛空挺をよんでおいたから月影つきかげの山に引っ越してね。すぐ屋敷にもどって荷物をまとめておきな。
 別の子に師事させる。安心していいよ。変な指導者に任せちゃってごめんね。
 本当に、一刃ひとはの山には失望したよ
 リエルも悲しむだろうね。これはもう、彼女に対する冒涜だよね」

 リエル……。この山の最初の管理者だ。
 とても情熱の深い女性で、皆を熱心に指導し、たくさんの優秀な指導者を導いた、伝説の一刃ひとは使いだ。

「ほら、移動するよ、坊や、運転よろしくー。あーそうそう、自称一刃ひとは使いの君ー、2週間後楽しみにしてるから!」

 自称……。
 自分がなさけなくて返す言葉もなかった。
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